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経営者の悩み

安定した介護事業所運営に欠かせない「理念の活用方法」とは?

「これからの日本は超高齢化社会となるのだから、介護事業を始めれば絶対に損はない」そう考えて介護事業所を立ち上げた経営者の方は、当初考えていたよりもかなり苦戦されておられるのではないでしょうか。
それはおそらく、国が介護保険制度を継続するために幾度となく大胆な軌道修正を行ったからだといえます。
こんなに頻繁に、しかも大幅な改正が行われる社会保障制度は、介護保険制度以外にはありません。
経営者にとって、そんな変動の激しい制度内で事業を成功させていくのは至難の業だともいえます。

とはいえ、成功への道がまったくないわけではありません。
この記事では、どんな施設にも適用できる「介護保険事業の成功への秘訣」をご紹介します。
最大のポイントは理念を上手に活用することです。

介護業界の「いま」を分析する


介護施設の多くは、慢性的な人手不足に悩まされています。
報道でも、介護業界の深刻な人手不足は何度も取り上げられてきました。
理由はいくつか考えられますが、メディアでは労働に見合わない賃金の低さが主な原因だと報じられています。
これは事実なのでしょうか。

介護労働安定センターが毎年行っている「介護労働実態調査」では、次のような結果が出ています。

介護の仕事に就いた理由トップ5(2016年度)

  • 1、働きがいのある仕事だと思ったから…52.4%
  • 2、資格・技能が活かせるから…38.3%
  • 3、今後もニーズが高まる仕事だから…31.9%
  • 4、人や社会の役に立ちたいから…31.5%
  • 5、お年寄りが好きだから…24.2%

この結果からは、利他的な動機で介護職を選ぶ人が多いことが分かります。
また、今現在の満足度についての回答は次のとおりです。

  • 1、仕事の内容にやりがいを感じている…52.1%
  • 2、職場の人間関係やコミュニケーションに満足…46.7%
  • 3、職場の環境に満足…38.7%
  • 4、雇用の安定性に満足…35.0%
  • 5、労働時間や休日等の労働条件に満足…32.5%

人の役に立ちたいと思って就いた仕事にやりがいや安定性があれば、恵まれた環境だといって良いでしょう。
これに伴い別の調査項目で「今の仕事を続けたい」と思っている労働者は53.7%に上りました。

とはいえ、介護労働者が過酷な条件下で働いていることに変わりはないようです。
次に示すのは労働条件等の不満トップ5です。

  • 1、人手が足りない…53.2%
  • 2、仕事内容の割に賃金が低い点…41.5%
  • 3、有給休暇が取りにくい点…34.9%
  • 4、身体的負担(腰痛や体力に不安)が大きい…29.9%
  • 5、精神的にきつい…28.1%

賃金に対する不満が2位にランクインしています。
「やっぱり」と思われる方も多いかもしれませんが、実はこの数値はわずかながら前年度(42.3%)よりも減少しているのです。
そこで注目したいのが、5位の「精神的にきつい」という不満です。
2017(平成27)年度の調査では、5位が「業務に対する社会的評価が低い」、6位が「精神的にきつい」でしたので、見事に逆転現象が起こっているのです。
介護の現場では精神的な負担を訴える労働者が増加していることがうかがえます。
さらに考慮していただきたいのが介護労働者の退職理由です。

退職した経験がある介護労働者の理由トップ5

  • 1、職場の人間関係に問題…23.9%
  • 2、結婚・出産・妊娠・育児…20.5%
  • 3、法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満…18.6%
  • 4、他に良い仕事や職場があった…18.2%
  • 5、自分の将来の見込みが立たなかった…17.7%

2位にランクインした結婚や出産は、前年度ではトップ5にもランクインしていませんでした。これについては少子化対策によって得られた結果だと考えられます。
問題は1位の「人間関係」、そして3位の「理念や運営方針への不満」です。

たとえ賃金が安くても働きたいと思っている介護労働者たちが、退職理由として挙げているのは、人間関係と理念なのです。同時にこの結果は、人手不足の最大の原因が「賃金の低さである」ということを完全に否定しています。

「人手不足」は解決方法を間違えると解消できない

同じ調査から、経営側の意識もうかがえます。
まず、従業員の過不足に関しては「不足」と答えた経営者が全体の62.6%を占めます。
その理由として「採用が困難である」が73.1%で、労働者が集まりづらいといった声が多いことがわかります。
しかし経営側では、採用が困難な理由を「賃金が低い」(57.3%)、「身体的・精神的に仕事がきつい」(49.5%)と回答しており、「人手不足の原因は賃金の低さではない」とする労働者側とは、認識のずれがあります。
さらに不安定な経営を嘆く運営者の多くは「今の介護報酬では良質な人材を確保して定着を図れるだけの賃金が払えず、労働環境の改善を求められても実行できないと考えている」という結果も出ています。

いかがでしょうか。
施設を運営する側と実際に働く労働者との意識の違いをお分かり頂けたでしょうか。
何度も述べますが、退職していく労働者の多くは賃金の改善を一番に求めているのではありません。
職場の人間関係や理念、運営方針に耐えきれなくなって辞めていくのです。

人手不足に悩む多くの施設では、中途採用した労働者がなかなか定着せず、古くから残っているスタッフでどうにか運営しているものと考えられますが、その原因を賃金の低さだと認識してしまうと、根本的な解決は見込めないでしょう。

先述したように、経営側にとって大きな問題となるのは、そもそも労働者が集まらないという状況ですが、それはなぜなのでしょうか。
賃金が低くても辞めない理由の上位は、仕事へのやりがいと職場の人間関係が良いことでした。
つまり職場の雰囲気が良ければ定着し、悪ければとどまる理由はなくなるということです。

調査結果にもあるように、精神的な負担が大きい介護職は常に利用者に目を配り、高い緊張感をもって日々の業務をこなしています。
そんななか、労働者への理解が乏しい上司がいたり、サポート体制が整っておらず一人ひとりの負担が大きくなるといった労働環境の不備があれば、職員を定着させることは難しいでしょう。
また、こうした離職率の高さは他事業所へとすぐに広まり、応募者がますます集まらないという悪循環に陥るのです。
これらの原因の多くは、コンプライアンスが機能していないことに由来しているといえます。
そのために必要なのが「理念を活用する」ことなのです。

具体的な理念の活用方法

では、どのように理念を活用すれば良いのでしょうか。
まずはその施設に合った「理念」をつくることから始めていきます。
自分たちが目指しているのがどんな介護なのか、徹底的に話し合う場を設けましょう。「目指す介護」が曖昧なら、自分たちの施設に入所(あるいは利用)された方に、どんな風に感じてどう過ごしてもらいたいのか、また特養のような終のすみ家であれば最期をどのように迎えてもらいたいのか、という観点
で話し合うと良いでしょう。
介護士、看護師など業務内容が異なる立場であっても、利用者と関わることに変わりはありません。
あくまでもフラットな関係での話し合いです。

課長も主任もリーダーも、新入職員も関係ありません。
もちろん、厨房や事務スタッフにも参加してもらいましょう。

ルールは2つだけ「誰かの発言を否定しないこと」そして「全員が発言すること」です。もしも否定する人がいたら経営者や施設長がその場で直接注意をします。
それでも続けるようなら、そのスタッフには退席してもらいましょう。
そして後日、ルールを守れなかった理由をマンツーマンで聞き取ります。
こうするだけでも自己主張の強過ぎるスタッフは、最終的に自分が変わるか自分が辞めるかを選択することになるでしょう。

話し合いで出た意見は、すべてホワイトボードに書き出すか、プロジェクターで映し出すなどしてみんなが共有できるようにします。
必ず似たような考え方がいくつもでてきますので、カテゴリー別に振り分けていくと良いでしょう。たとえば「日々の過ごし方について」「最期について」「行事について」「地域との関わりについて」などを挙げておくと、イメージが浮かびやすいかもしれません。そのなかから部類ごとに「絶対に外せない文言」を決めてまとめていきます。
こうしてスタッフ全員で考えた「理念」を完成させるのです。

次に、「理念」を達成するために取り組むべき事業計画を定めます。
このとき、3年後、5年後、10年後に、自分たちの施設がどうなっていたいのか、という目標を定めておくと年度ごとにどんなことに取り組んでいけば良いのかを決めやすくなります。
この作業は、できれば施設長や経営者自らが主導して行いましょう。
もちろん、介護支援専門員などの介護保険制度に明るいスタッフのサポートを受け、制度改正や報酬改定の動向をにらみながら考えることも大切です。

定めた事業計画や目標を発表し、最終的には事業計画を達成するために一人ひとりが年度目標を定め人材育成にもつなげる、という人事考課制度まで導入できると良いのですが、そこまでいくにはある程度の期間と専門的なアドバイスが必要です。
事業所運営に影を落とす「慢性的な人手不足」を解消するために、まずはスタッフ全員で考えた「理念」を浸透させて、施設全体の問題点を取り除き、安定した事業所運営を行いましょう。

まとめ

介護の現場はいのちと生活の現場であり、医療の現場ではありません。
生活の現場では、マニュアル通りにいかないことが多々あります。
どう判断し、決断すれば良いのか迷ったときでも、「みんなで決めた理念」という軸があれば、スタッフもぶれずに済むでしょう。
そして運営者は、理念に沿った行動がとれたスタッフを褒め、ねぎらうことを忘れてはいけません。
こうしたコミュニケーションが運営者とスタッフとの温度差を解消し、信頼関係を構築してくれるからです。
また、褒められることでスタッフの仕事に対する意欲を高める効果も得られます。
このように「理念」は、ただ飾っておくだけではその力を発揮できません。
理念をスタッフ全員でつくり、活用していくことに大きな意味があるのです。
そして良好な人間関係のなかで行う仕事には多くの「やりがい」が感じられ、居心地のよい職場は自然と職員の定着率が上がっていきます。
安定した事業運営を目指すなら、まずは理念をつくることからはじめてみてはいかがでしょうか。

参考:
介護労働実態調査

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