実際に介護現場で外国人を採用してわかった現場への効果と対応方法
介護現場の人材不足を解消する方法として、国も推進している外国人の採用を考えている事業所も多いのではないでしょうか。
しかし、採用後の具体的な効果や対応方法について不安に思うことも少なくないでしょう。
そこで、実際に採用してわかった現場への効果や採用に向けて必要な準備、採用後の工夫について解説します。
目次
現場への効果は人材不足解消だけじゃない!スタッフのレベルアップも可能
「外国人の採用=人材不足の解消」
誰もが思いつく採用理由でしょうが、実は外国人を採用する効果は、これだけではありません。
そこで、実際に採用してわかった外国人の採用効果を紹介します。
●日本人スタッフのスキルやモチベーションアップが可能
日本語が不自由であったり、介護技術が未熟であったりする外国人を指導することで、日本人スタッフのスキルアップが期待できます。
また、赤羽らが900人超の介護施設の職員に対して調査した報告では、「外国人を採用することで職場が活性化される」と肯定的に捉える職員は約70%となっています。
このように、異国での介護業務にチャレンジする外国人と一緒に働くことで、スタッフのモチベーションアップが期待できます。
筆者の働く法人でも、20代前半の若い外国人の頑張りに、多くのスタッフが刺激を受けています。
●業務内容の見直しや改善につながる
アクティブシニアを介護助手として採用する場合[蔵重1] と同様に、外国人を採用する場合も、現在の業務内容を見直す良いきっかけになります。
たとえば、外国人でもわかりやすいマニュアルの整備や記録業務の簡略化に向けたICTの導入により、日本人スタッフも含めた業務全般の効率アップにつながります。
受け入れや教育の体制をしっかり整えることは必須
外国人を採用しても、長期的な視点で事業所に就労してもらわなければ、本当の人材確保にはなりません。
そのため、受け入れ先としての体制確保や教育制度の充実を図る必要があります。
●受け入れ体制の工夫
外国人を受け入れるためには、施設内外でさまざまな体制を整える必要があります。
以下に具体例を挙げてみます。
施設内の準備 | 施設外の準備 |
---|---|
・介護記録のシステム化(ICTの活用) ・外国人向け介護マニュアルの作成 ・外国人スタッフ向けの交流会の実施 ・教育制度の整備 |
・住まいの用意 ・電気や水道、ネットなど環境整備(契約の補助) ・宗教上の制約(服装や食事など)への対応 |
外国人を採用する上で最大の課題はコミュニケーションです。
群馬県が行なった調査では、外国人を雇用する場合の課題について「介護記録の作成に支障がある」は80%近くを占め、「日本人職員や利用者との意思疎通に支障がある」が次に多かったとしています。
そのため、上記のような工夫をして、会話だけでなく、読み書きも含めたコミュニケーションの工夫が必要です。
また、宗教や文化の違いにより、日本にはない生活様式や制約があります。
たとえば、インドネシアで最も多いのはイスラム教であり、採用に当たっては食事やラマダン(断食)への配慮が必要です。
●教育制度の工夫
外国人が将来、介護福祉士の資格を取得して、長期的な就労が可能となるスタッフとして育成するためには、教育制度の充実は欠かせません。
また、外国人だけでなく、受け入れ側の日本人スタッフも外国人と一緒に働く上で必要な考え方を学ぶ必要があります。
(1)外国人に対する教育
外国人を受け入れて教育を現場の職員任せにしてしまうと、教育に関する負担がふえて業務に支障が生じかねません。
そこで、以下のような工夫が必要です。
- 1.新人研修を外国人向けに実施(通訳可能なスタッフや外国人向けテキストを用意)
- 2.日本語教育に対しての支援(テキストやインターネットサイトを活用)
- 3.日本におけるマナーや接遇(集合住宅での生活などのルールも説明)
- 4.介護技術の研修
特に日本語については、最も外国人が苦労する点ですので、以下のようなサイトやテキストを活用しながら積極的に学んでもらいましょう。
・にほんごをまなぼう
・リーディング チュウ太
・介護の日本語テキスト
・介護の言葉と漢字ワークブック(EPA候補者向けテキスト)
(2)日本人スタッフに対する教育
日本人スタッフに外国人を受け入れる上での注意点や心構えを伝えることで、外国人を採用後の指導や業務調整がスムーズになります。
そのため、日本人スタッフに対しても研修をして、外国人の職員に対する対応方法や指導方法に関する研修を開催しましょう。
具体的な研修内容を以下に示します。
- 1.外国人の母国に関する文化・風習
- 2.外国人介護人材の採用制度の概要
- 3.コミュニケーション能力別のフォロー方法
- 4.外国人採用のメリットの共有
- 5.よりわかりやすい記録や申し送りの方法の構築
特に外国人を採用することのメリットをスタッフ全員で共有して、管理者も現場スタッフも一緒になって外国人をフォローするよう意識統一することで、外国人の受け入れがスムーズになります。
実際に外国人を採用している事業所の対応方法を紹介
筆者の勤める事業所でもEPAによる外国人留学生を受け入れています。
一番大事にしていることは、日本人職員に外国人採用に興味や関心を持ってもらい、業務を助けてくれる仲間として認識してもらうことです。
具体的な方法をいくつか挙げてみます。
- ○実際に施設で働く前にSNSや面会で積極的にコミュニケーションをとる
- ○日本人スタッフとの食事会を定期的に開催するなど職場以外でも交流する
- ○施設の行事や研修に一緒に参加する
また、異国の地で暮らす不安は、外国人が働いたり、学習したりすることへの弊害になります。
そのため、普段の生活で以下のようなフォローも重要です。
- ○できるだけ職場に近い社宅を探して通勤の負担を減らす
- ○買い物は近所のスタッフや帰宅が一緒のスタッフと一緒にする
- ○スタッフの家で不用になった家電製品や生活用品を再利用してもらう
このように、外国人が安心して働くことができる雰囲気や環境を整えることで、介護福祉士の資格習得後も、事業所で続けて働きたいと思ってもらえることにつながります。
外国人にしっかり活躍してもらうための土台を作って採用をしよう
外国人を介護現場で採用することで、人材不足の解消はもちろん、スタッフの活性化につながります。
ただし、採用に当たってはしっかりと準備をして、採用後にスムーズな教育ができるようにする必要があります。
そのため、まずは制度を理解して、自分の施設で外国人の採用が適当であるかを検討[蔵重2] しましょう。
そして、採用を進める場合は、ハードだけでなく、既存のスタッフの教育も含めたソフト面の準備もしましょう。
参考:
赤羽克子,高尾公矢,他:介護施設における外国人介護職員の受入れと期待に関する研究 -介護職員への意識調査の結果から-.聖徳大学研究紀要 聖徳大学26 聖徳大学短期大学部48: 17-23,2015.
群馬県 外国人介護職員就労状況等に関するアンケート調査結果.(2019年3月20日引用)
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級