ADL維持等加算を通所介護で算定するため注意点やリハビリのコツとは
2017年の介護報酬改定では通所介護での自立支援に関するアウトカム評価として「ADL維持等加算」が新設されました。
自立支援を進める国の方針から、今後の改定でもアウトカムをより高く評価することが予想されます。
そこで、通所介護でADL等維持加算を算定するために注意すべき点や結果に結びつくリハビリを実施するポイントを紹介します。
目次
ADL維持等加算を算定するために押さえておきたい注意点
通所介護のADL維持等加算は介護保険サービスのアウトカム指標として、注目の加算の1つです。
しかし、細かい要件があり算定に踏み出せない事業所も少なくありません。
そこで、加算を算定する上で注意したいポイントを紹介します。
●通所介護でも算定できる事業所は限られる
ADL維持等加算を算定するためには事業所の利用者さんの特性が以下の要件を満たす必要があります。
- 1.事業所を6カ月以上かつ5時間以上のサービスを利用している利用者さんが20人以上
- 2.要介護度3以上の利用者さんが15%以上
- 3.12カ月以内に要支援または要介護認定を受けた人が15%以内
以上のように、短時間のサービスで、要介護度が軽い利用者さんの多い事業所や小規模の事業所は算定の対象外となります。
●ADLの評価にはBarthel Indexを測定する
Barthel Index(以下BI)は食事や排泄、入浴などの日常生活動作がどのくらい自立しているのかを評価する指標です。
評価は評価を実施する最初の月と6カ月後の2回測定する必要があります。
特定の利用者さんだけ評価を実施すればいいのではなく、評価する月に利用している90%以上の利用者さんの評価をして、厚生労働省に報告する必要があります。
●Barthel Indexを用いたADL利得の算出方法
初回のBI評価と6カ月後のBI評価を比較して、点数が増減したかどうかで、算定の可否が決まります。
6カ月後のBIから初回のBIを差し引いた値を「BI利得」と呼び、事業所におけるADLの改善度合いを以下のような方法で計算します。
- (1)BI利得が1以上の場合→1点
- (2)BI利得が0の場合→0点
- (3)BI利得がマイナスの場合→-1点
BI利得から算出した利用者さんの点数の合計点が0以上であることが、加算算定の要件となります。
ただし、全員分の点数を合計するのではなく、点数の高い上位85%までの利用者さん(端数は切り上げ)の点数を合計します。
つまり、50人の評価対象者で計算する場合は、上位43人の合計点数を計算することになります。
●次年度に算定するためには7月までの届出&評価実施が必要
加算を算定し始める場合に注意しなければならないのは、届出と評価の開始する時期です。
算定対象となる利用者さんは6カ月連続して通所介護を利用していることと、BIの評価は6カ月後にします。
そのため、7月までに届出と評価を完了していなければ、次年度の加算が算定できなくなってしまいます。
ADLの維持改善にはリハビリ内容と機能訓練指導員の質が重要
通所介護でしっかりADLを維持・向上させるためのポイントとして、「リハビリの充実」と「機能訓練指導員の教育」があげられます。
●リハビリメニューはADLに即したメニューを実施
ADLを維持・向上させるためには、BIの評価の結果を参考に、ADLを維持・改善させるためのリハビリをする必要があります。
ADLごとに必要な機能やプログラムの例をいくつか示します。
ADL | 必要な機能 | プログラム例 |
---|---|---|
上衣の更衣 | 上肢の関節の動き | 棒体操・プーリー |
下衣の更衣 | 下肢の関節の動き 立位・座位バランス |
下肢のストレッチ体操 立位や座位でのバランス練習 |
トイレ動作 | トイレや便座への移動 下衣の上げ下げや後始末 |
下肢筋力トレーニング 方向転換練習 立ち上がり練習 腰バンドの上げ下げ練習 |
入浴 | 浴室・浴槽内の移動 洗体に必要な関節の動き |
下肢筋力トレーニング タオル体操 障害物またぎ 立位バランス練習 |
以上のようにADLごとに必要な機能はさまざまですので、BIの維持や改善のためにリハビリが必要な項目に合わせて、利用者さんごとのリハビリプログラムを考える必要があります。
そこで、プログラム立案の中心である機能訓練指導員の質が重要になります。
●評価やリハビリの進め方は機能訓練指導員の質が大事
個別機能訓練加算の算定に関わらず、通所介護ではリハビリに関する評価やプログラムの立案は機能訓練指導員が中心となり実施します。
そのため、ADLの維持向上には機能訓練指導員の質が非常に重要になります。
リハビリ職を採用できる事業所であれば、リハビリ職を機能訓練指導員として配置すれば問題ありません。
しかし、現状は看護職や柔道整復師が配置されている事業所も少なくありません。
そのような場合は、自立支援の研修やADL・IADLに関する教育・研修を積極的に活用して、質の向上をはかりましょう。
また、リハビリ職の直接な採用が難しい場合でも、生活機能向上連携加算を算定することも1つの方法です。
機能訓練指導員のアセスメント時に、外部のリハビリ職の協力を受けることができ、リハビリプログラムに反映させることができます。
通所介護での具体的なサービス内容の工夫を紹介
・ヒップアブダクション
・セラバンド
・重錘バンド
・ロッキングボード
ADLを維持向上させるために、すぐに実践できるサービス内容の工夫を紹介します。
●集団での運動メニューをADLの即したものに工夫
多くの通所介護で実施している集団での運動も、ADLを意識して実施しましょう。
たとえば、みんなでタオルを持った体操をすれば、洗体を意識して取り組むことができますし、障害物をまたぐ動作を組み込めば浴室の出入りにつながります。
単純な立ち上がり練習などでも、何気なく行うのではなく、自分の力でしっかり立ち上がるための動作を意識してすることで、ADLの維持向上につながります。
●実際の介護場面で生活リハビリを実施
サービス利用時に入浴やトイレ、食事といった動作をする場合は、より実践的なリハビリをするチャンスです。
各場面で利用者さんの状態に合わせて、単に介助をするだけでなく、動作ができているか評価をしながら練習をするという視点で関わるようにしましょう。
●リハビリ器具で効率的に効果をアップ
ADLの維持向上には、基本的な筋力やバランスを高めることも重要です。
そのために、リハビリ器具を活用してしっかりと負荷をかけることが効率的かつ効果的です。
筋力トレーニングではマシンはもちろん、セラバンドや重錘を使って集団体操をするのもおすすめです。
バランストレーニングにも器具が活用できますので、積極的に取り入れましょう。
通所介護でもADLに注目したサービスを実施して加算を算定しよう
2019年2月に開催された介護給付費分科会では、アウトカム評価の拡充や改善に向けて、ADL維持等加算の算定に関する調査を実施されることとなりました。
そのため、2021年の介護報酬改定では、ADLや要介護の維持・改善を評価する流れが広がると予想されます。
今後も、ADL維持等加算の算定を含めて、通所介護の運営を安定させるために、ADLやIADLといった生活に必要な活動に目を向けてサービスを実施することが重要ではないでしょうか。
参考:
厚労省 第168回介護給付費分科会資料.(2019年5月16日引用)
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級