大きな課題である介護人材の確保!介護現場にエルダー制度やメンター制度の活用
厚生労働省の「医療・介護に係る長期推計(平成24年3月)」によると、2025年には高齢者は約245万人に達します。
しかし、介護人材は2025年に約215万人とされ、約30万人が不足するといわれています。
超高齢化社会に向け、介護人材の確保はとても重要な課題です。
ここでは、介護人材を定着させるためのエルダー・メンター制度の導入についてご紹介します。
目次
介護業界での人材確保は大きな課題
公益財団法人介護労働安定センターが行った「平成25年度介護労働実態調査」では、介護職の離職理由は以下の結果でした。
- ◯職場の人間関係に問題があった・・・24%
- ◯理念や運営の在り方に不満があった・・・24%
- ◯他によい仕事や職場があった・・・19%
- ◯収入が少なかった・・・17%
特に実務経験が3年以内に離職する職員は約7割にも上るため、離職防止施策が急務となります。
厚生労働省では、資格取得の支援、キャリアパス制度の導入、賃金の改正などにより定着化を促進させています。
エルダー制度やメンター制度もその一つで、早期離職を防止するために導入されました。
しかし、厚生労働省が掲げているエルダー・メンター制度により、介護人材の定着化を図れるのでしょうか。
また、そもそもエルダー・メンター制度とはなんでしょうか。
この記事では、その点を切り込んで解説していきます。
導入をすすめられているエルダー制度・メンター制度とは
エルダー制度やメンター制度は一般企業だけでなく、介護現場でも導入がすすめられています。
●エルダー・メンター制度とは
厚生労働省が掲げるエルダー・メンター制度とは、エルダー制度とメンター制度のことです。
エルダー制度とメンター制度はよく似た制度ですが、少し違いがあります。
1)エルダー制度
エルダー制度とは、リーダーではなくエルダー(教育係)と呼ばれる比較的勤務歴が浅い先輩職員が新人職員と2人1組となり、新入職員は指導を受けます。
相談しやすい環境づくりを行います。
エルダー制度はブラザー・シスター制度とも呼ばれます。
2)メンター制度
メンター制度とは、新人職員に対して年齢が近い専任の職員が助言やサポートをする制度で、サポートする側をメンター、新人職員をメンティーと呼びます。
メンター制度では、新人職員が自分自身で課題を解決できるようにサポートします。
つまり、ティ―チングのように業務を教えるだけでなく、さまざまな状況に面したときでも自分で問題を解決できる力を養うのです。
エルダー・メンター制度を導入するメリットとデメリット
エルダー制度やメンター制度を導入することで、サポートする側にもされる側にもメリットがあります。
しかし、もちろんデメリットもあります。
●エルダー・メンター制度のメリット
- 〇責任感が生まれ、積極的に業務に取り組むようになる
- 〇新人職員が利用者一人ひとりの状況を細かく把握し、状況に応じて行動できる
- 〇エルダーやメンターが責任者になったときに制度の経験を生かせる
- 〇年齢が近いエルダーやメンターだと新人職員が業務や人間関係の相談をしやすい
- 〇入職してからエルダーやメンターと行動するので職場になじみやすく不安がない
- 〇介護現場のことを早く覚えやすい
●エルダー・メンター制度のデメリット
- 〇エルダーやメンターにとって業務が増える
- 〇複数の人がエルダーやメンターになる場合、人によって介護の教え方や接し方が異なることがありトラブルになることもある
- 〇エルダーやメンターと新人職員の相性が悪い場合は、信頼関係が築けないことがある
エルダー・メンター制度の導入の流れ
運営者側は、新人職員が定着できるような職場環境を整えなくてはなりません。
そのため、早期離職の原因を把握し、制度導入の目的を掲げ、計画を立てて制度の運用を行います。
1)職員の早期離職の原因を探る
早期離職の原因には、人間関係の問題、職場の理念・運営の在り方への不満、収入面の不満などです。
新人職員へのヒアリングなどで、現場の課題を見極めることが大切です。
2)エルダー制度やメンター制度の導入の目的・目標を決める
エルダー制度やメンター制度を導入するにあたり、ヒアリングなどで得た現場の課題から目的を決めます。
新人職員の成長カードをつくり、各新人職員の目標を設定します。
3)実施計画を立てる
実施計画を立てるには、実施する教育内容や期間などを決めます。
エニアグラムを作成し、新人職員のタイプや関わり方を理解します。
そして実施期間の最初と最後で、どの程度離職率が変化したかを調査します。
計画を立てるにあたり、面談内容などの守秘義務、トラブルなどが起きたときの相談窓口、面談は就業時間内に行うことなどを決めておきます。
4)エルダーやメンター選び
エルダーやメンターの人材選びはとても大切です。
教える技術が高い人で、誠実に人に接することができなくてはなりません。
新人職員からも信頼が得られる人であり、かつ気軽に相談にのれる人を選びます。
さらに、新人職員との相性がマッチしていることも必要です。
エルダーやメンターが決まったら研修を行い、すべてのエルダーやメンターが言うことに食い違いが起きないように、共通の介護技術や意識をもってサポートすることが必要でしょう。
5)期間終了時の結果状況の把握
計画期間が終了したら、新人職員がどのくらい定着しているかを把握して、アンケートや面談などを通じ課題があれば、今後に向けて改善できるようにします。
また、新人職員の成長カードにより、達成した状況を把握します。
エルダー・メンター制度を実際に活用した現場では、「職場に信頼関係が築かれ、仕事を通して成長でき、活気や笑顔が増えたとかやる気が起きるようになった」という声がきかれています。
また、エルダー・メンター制度の導入だけでなく、朝礼改革や成長カード、エニアグラム、職場全体研修など、職場全体を改革して人材定着を促進した事例もあります。
介護人材の定着化で安定した介護労働力を得よう
雇用し教育してもすぐに離職するようなら、安定した労働力を得られず、介護の質の向上に至りません。
さらに、離職の連鎖も招き、介護現場では非常にマイナスです。
厚生労働省が推進するエルダー制度やメンター制度を活用して、新人職員が職場に溶け込みやすい環境をつくり、安定した介護労働力を得ましょう。
参考:
平成25年度介護労働実態調査(特別調査)介護事業所における採用・定着管理に関する実態調査・研究.(2019年6月26日引用)
厚生労働省 介護人材確保の基本的な考え方.(2019年6月26日引用)
愛媛県介護労働安定センター 新人介護職員定着促進プロジェクト取り組み事例集.(2019年6月26日引用)