ケアプラン有料化が先送りへ~有料化実現後に問われるケアマネジャー像
2021年介護保険制度改正の焦点の一つである「ケアプラン(介護サービス計画)有料化」について、先送りの方向で調整に入ったと報道がありました。
そもそもなぜ有料化が必要なのか、また有料化はなぜ見送り調整されるのか、またケアマネジャーは今後どのような姿勢で業務を行っていく必要があるのか言及していきます。
ケアプランはなぜ有料化する必要があるのか
ケアプランを有料化する理由はさまざまですが、主な理由としては下記の通りです。
- ○給付抑制による財源確保
- ○介護保険制度の持続可能性の確保
- ○ケアマネジメントの質の向上
ただしケアマネジャーをはじめ、現場においてもっとも注目されている部分は『ケアマネジメントの質の向上』であるといえます。
●給付抑制による財源確保
介護給付費は年々増加傾向にあり、居宅介護支援の給付費においても増加傾向にあります。
2015年度における居宅介護支援の費用額は4,860億円(うち介護予防支援595億円)となっています。
つまりケアプラン有料化が実現した場合に、一律1割負担であれば約500億円程度の給付抑制が可能となることがわかります。
また所得に応じて2割、3割負担が導入される場合においては、さらに抑制規模が大きくなります。
ただし介護給付費全体を見ると、2017年度においては10.8兆円となっていますので、抑制効果は限定的であるといえるでしょう。
●介護保険制度の持続可能性の確保
社会保障費が増大していることは、少子高齢化によって明らかなことですが、財源確保によって持続できる制度にしていくことが大きな課題です。
2018年5月に行われた「新たな財政健全化計画等に関する建議(財政制度等審議会)」においてもこのように述べられました。
「財政と医療・介護保険制度の持続可能性を確保していくためには、様々な改革の検討と実施が求められる。」
これはケアマネジメントに限った話ではありませんが、新たな財政健全化計画の中で、ケアプラン有料化が議論されることは必然的であるといえるでしょう。
●ケアマネジメントの質の向上
『ケアプラン有料化によってケアマネジメントの質が向上する』といった内容は、かなり以前から社会保障審議会・介護保険部会の中でも議論されてきたことです。
ケアマネジメントの質を求めている背景には、『御用聞きケアマネ』と呼ばれるスキルの低いケアマネジメントが存在します。
無用なサービスを導入することで、給付費が増大していると懸念されています。
そのような状況の中でケアプラン有料化に踏み込むことは、利用者もケアマネジメントを意識することができ、無駄な財源を抑制できるのではないかと考えているのです。
ケアプラン有料化が先送り調整される理由
2019年11月末ごろ、ケアプラン有料化が先送り調整されることになったと報道がありました。
負担感の増大から介護サービスの利用控えを懸念され、反対意見があがった様子が伺えます。
●自己負担額の増大による介護サービス利用控え
介護保険サービスを持続可能なものにするために、自己負担額を原則2割負担にする議論も財務省から提案されています。
そのような中でケアプランの有料化に踏み切った場合、負担感が大きくなってしまい介護サービス利用控えが進むのではないかと懸念されています。
この意見は、日本介護支援専門員会だけではなく、認知症の人と家族の会など多くの団体から相次いで出されている意見です。
特に介護サービスの利用は、医療よりも長期間に及ぶことが多いので、家計に与える影響は計り知れないといった慎重論が多いのです。
●過剰なサービス相談の増大
ケアプランが有料化されることによって、一部の権利意識の高い利用者から、過剰なサービスの導入を提案されるといったことが懸念されています。
ケアマネジメントスキルの低いケアマネジャーであれば、提案をそのまま受け入れてしまう可能性があります。
もちろん給付費を増大させてしまう要因になりますし、ケアマネジメントの質を下げてしまう要因にもなってしまいます。
『ケアマネジメントの質の向上』が有料化の大きな目的ですが、ここにきてケアマネジャーの人材育成面での課題が再度浮き彫りになったといえるでしょう。
●セルフプランの増加による介護の質の低下
ケアプラン有料化になると、ケアプラン作成業者や介護サービス事業者による利用者の囲い込みが増えると考えられます。
ケアプラン作成業者とは、ケアプラン内容は利用者の決定によって行い、その決定に沿ってケアプランを書面化するサービス業者を指しています。
また介護サービス事業者がケアプランを無料で作成支援するといったことも考えられます。
ケアプランの作成支援ということであれば、介護保険給付とは関係のない行為になりますから、違法性はないと考えられます。
そのような状況においては作成支援する介護サービス事業所によって、介護サービスが囲い込みされてしまう可能性が出てきます。
介護サービスの公平性が担保されなくなってしまいますので、介護の質の低下につながる可能性があるのです。
今後の有料化議論で問われるケアマネジャー像
ケアプラン有料化が先送りされたとしても、議論が続いていくことは間違いありません。
その中で大切なことは、ケアマネジャーに求められている姿をもう一度確認しておく必要があるということではないでしょうか。
●主任ケアマネジャーの育成
ケアマネジメントの質については、厚生労働省の中でも「ケアマネジャー廃止論」が噴出するほどの議論になっています。
そのため居宅介護支援事業所の管理者要件として「主任ケアマネジャーの配置」を義務化し、ケアマネジメントスキルの向上に努めたいと考えています。
この管理者要件については人材不足から2026年まで猶予されることが提案されています。
そのためそれまでの6年間に、ケアマネジャーとして5年間の実務経験を積んで、主任ケアマネジャーの研修を受けることは事業所に必要な姿勢になることは間違いありません。
今後の報酬改定の流れにおいても、主任ケアマネジャーを配置し、必要な条件を満たした事業所だけに加算取得できるシステムが進んでいくことは容易に推測できます。
基本報酬自体は、今後期待することはできないのです。
つまり良質なサービスを提供できるケアマネジャーを育成し、主任ケアマネジャーに育て上げることが事業所の課題なのです。
●公正中立な介護サービスの提供
ケアマネジメントには公平中立な介護サービスの提供が求められています。
そのため「特定事業所集中減算」を実施し、特定の事業所に偏ったケアプランを作成した場合には原則的に減算する仕組みを取っています。
しかしこの制度に関して、減算適用されないように集中割合の調整を行っている居宅介護支援事業所も多く、公平中立が担保されているとは言い難いのが実情です。
特に大型法人に所属するケアマネジャーの場合、どうしても自法人の介護サービス事業所を優先して利用することが多くなってしまうのではないでしょうか。
この状況に対して介護給付費分科会において、『独立型事業所の設置』を求める声が多く上がっています。
また「特定事業所集中減算」が厳格化されることや、保険者でのケアプランチェックなどが実施されることも予想されます。
公正中立な介護サービスの提供を意識して、ケアマネジメントを行うことはとても大事な視点だといえるでしょう。
まとめ
今回の「ケアプラン(介護サービス計画)有料化」の先送りについては、ケアマネジャーにとっては朗報だといえます。
ただし議論は継続されることになりますから、今後もケアマネジャーとしてのあり方を考え続ける必要があることは間違いありません。
ケアマネジャーとして5年の経験を積んだ主任ケアマネジャーを配置することは、居宅介護支援事業所の重要な課題なのです。
参考:
共同通信社 ケアプラン有料化、先送りへ.(2019年12月16日引用)
第84回社会保障審議会介護保険部会 資料3:制度の持続可能性の確保.(2019年12月16日引用)
第142回社会保障審議会介護保険部会 資料3:居宅介護支援.(2019年12月16日引用)
財務省:新たな財政健全化計画等に関する建議(財政制度等審議会)2018年5月.(2019年12月16日引用)