ケアマネジャーの管理者要件~経過措置延長で必要な事業所の考え方
居宅介護支援事業所の管理者を「主任ケアマネジャー」にする厳格化の経過措置を令和9年まで延長する方針が固まったと報道がありました。
この経過措置の内容についてお伝えし、なぜ経過措置が行われることになったのか、また経過措置終了後に向けての事業所のあり方などについて言及します。
ケアマネジャーの管理者要件~6年経過措置延長はなぜ
2018年度の介護報酬改定において、居宅介護支援事業所の管理者要件が厳格化され、主任ケアマネジャーであることが要件となりました。
この際、2021年3月31日までの3年間を経過措置として設定されています。
この経過措置がさらに6年(2027年3月31日まで)延長される方針です。
●3年の経過措置から6年の経過措置の背景と内容
2018年度の介護報酬改定においては、「居宅介護支援事業所の管理者要件が厳格化」が決定事項として定められて、3年の経過措置を経て完全施行される予定となっていました。
そもそもなぜ経過措置が必要だったかというと、2016年の実態調査時において管理者の主任ケアマネジャー資格の保有状況は44.9%にしか達していなかったからです。
2018年度に同じ実態調査が行われましたが、この時点においても保有率は51.2%。
あまりに保有状況が低かったために3年後の2021年度でも完全施行は無理だろうといった意見が現場では少なくありませんでした。
2年間の間に7%弱ほどしか資格取得が進まなかったことが、6年の経過措置になった最大の理由であるのは間違いありません。
●管理者を主任ケアマネジャーにするための6年間
ケアマネジャーが主任ケアマネジャー資格を得るためには、5年の経験を経て必要な研修を受講しなければなりません。
つまりこの期間の中でケアマネジャーを育て上げ、主任ケアマネジャー資格を保有できるようにすることが居宅介護支援事業所の必須条件となったわけです。
ただし社会保障審議会・介護給付費分科会での見直し案を見てみると、2021年4月以降については新たに管理者になる者は主任ケアマネジャーであることが求められます。
そもそも2018年度の制度改正時においても「人材確保の状況について検証するべき」とされていましたから、資格取得が進んでいない背景が懸念されていたといえます。
居宅介護支援事業所の管理者を厳格化する問題点
主任ケアマネジャー資格の保有状況が進んでいないことをお伝えしましたが、これには下記3つの問題点が存在します。
- ○主任ケアマネジャーの養成が進まない
- ○主任ケアマネジャー取得のための日程確保ができない
- ○主任ケアマネジャー養成費用の経済的負担が重い
6年間の経過措置は主任ケアマネジャー資格を取得するための期間ですが、この問題が大きなネックになることが現場からは懸念されています。
●主任ケアマネジャーの養成が進まない
管理者要件が厳格化されるにもかかわらず、主任ケアマネジャー研修の受講者数はあまり伸びていない状況があります。
厚生労働省の調査によりますと、2017年度での研修終了者数は約6万8千人。2009年度の受講者数は約9,400人となっていますが、それ以降は伸びておらず2017年度では約半数の4,600人にとどまっています。
その前年である2016年では約4,400人。
つまり2018年度の介護保険制度改正において厳格化される予定であったにもかかわらず、受講が進まなかったということになります。
●主任ケアマネジャー取得のための日程確保ができない
主任ケアマネジャー資格を取得するためには、定められた研修カリキュラムを受講しなければなりません。
このカリキュラムは、新規で取得する場合においては70時間と定められています。
たとえば一日7時間の研修の場合であれば、10日間に渡る研修となります。
大規模法人で事業所内に別のケアマネジャーが配置されている場合であれば、研修日だけ別のケアマネジャーが業務フォローすることが可能です。
しかし小規模の事業所の場合であれば、代わりのケアマネジャーを立てることができず、研修受講の日程を確保することができないのです。
小規模事業所にとっては、資格取得だけではなく、現存のケアマネジャーが資格取得したくて別法人に転職してしまうといった問題もあります。
●主任ケアマネジャー養成費用の経済的負担が重い
2017年度の主任ケアマネジャー研修の実施状況を調べてみると、研修にかかる費用が一番低い秋田県では20,996円、一番高い広島県では62,000円となっています。
これは都道府県によって自治体内で基金が存在するかどうかによって差が出てくるもので、秋田県では基金があり、広島県では基金がない状況となっています。
大規模法人であれば資格取得費用を捻出できますが、小規模法人においては個人負担で資格取得しなければならない場合がありますから、経済的負担がネックになっているのは間違いありません。
そのため国が全額負担などに取り組むことがなければ、取得したくても進まない状況は継続するのではないでしょうか。
なぜ居宅介護支援事業所の管理者を厳格化する必要があるのか
そもそもなぜ居宅介護支援事業所の管理者を厳格化しなければならないのかというと、「ケアマネジメントの質の向上」を目指しているからにほかありません。
2018年度の介護保険改正においては、管理者要件の厳格化は3年間先延ばしにされたものの、特定事業所加算において主任ケアマネジャーの配置に対する評価を高くしています。
また「定期的な会議」「計画的な研修の実施」「事例検討会の参加」など、質の向上に関するさまざまな要件を、加算取得の条件としています。
おそらく今後も基本報酬については厳しくなり、加算において大きく評価されることになることが予想できます。
ただし小規模の事業所において、果たして「定期的な会議」「計画的な研修の実施」「事例検討会の参加」などがスムーズに行え、質の向上につなげることができているのかどうかについては検証が必要ではないでしょうか。
経過措置終了後に向けての事業所のあり方
さまざまな懸念は残っているものの、6年後には厳格化される可能性があります。
特に今まで主任ケアマネジャー資格取得に取り組めなかった事業所においては、今後の動きについて注視しておく必要があります。
主任ケアマネジャー資格取得の日程や費用がネックになっていることは、厚生労働省の社会保障審議会においても議論になっています。
そのため受講基金などによる全額負担などに踏み込むことや、日程の見直しなどの可能性も十分に考えられます。
また日本介護支援専門員協会は事業所間の連携の義務付けを求めており、小規模事業所などが研修受講する場合、他事業所のサポートを受けることができるようになる可能性があります。
この制度が創設されると、研修受講時だけではなく、健康不良などで休暇が必要になるような場合においても代替のケアマネジャーを立てることができるようになります。
このような動きがありますから今後の介護保険制度改正の動きは十分に熟知し、加算取得を行っていく姿勢が、ケアマネジャーの雇用確保につながることは間違いありません。
また日本介護支援専門員協会はケアマネジャーの国家資格化を目指しています。
今後議論が進み、国家資格化が実現するとなれば、処遇も改善されることになるでしょう。
介護職からケアマネジャーに進みたいと考える人も増え、雇用も確保できるようになります。
このような動きについても注視しておかなければなりません。
まとめ
先送りとなった管理者要件の厳格化ですが、どのように主任ケアマネジャー研修受講に結び付けるのか議論が本格化してくるでしょう。
現状の事業所の状況を勘案すれば、地域包括支援センターなども含め、地域で連携しあい支えあう体制づくりが必須になると考えられます。
そのような流れを的確に捉え、地域の事業所や介護サービスとの密な関わりが重要な課題となります。
参考:
厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 居宅介護支援の管理者要件に係る経過措置について.(2019年12月16日引用)
第142回社会保障審議会介護給付費分科会資料 参考資料3:居宅介護支援.(2019年12月16日引用)
シルバー産業新聞 日本介護支援専門員協会 国家資格化など提案.(2019年12月16日引用)