介護保険サービス実施指導で指摘される内容とコンプライアンスの視点
介護保険サービスを提供する事業所は法令順守が基本となっていますが、不適切運営と指摘される事業所が少なくありません。
実際に行政から指摘される内容を例として挙げ、どのような視点を持っておかねばならないかについて言及します。
介護保険サービス実施指導で指摘が多い内容
- 1)介護サービス計画作成にかかる基準違反
- 2)事故発生対応にかかる体制の不備
- 3)秘密保持にかかる体制の整備
- 4)不適切な処遇改善加算の支給
- 5)衛生管理について
介護保険サービス実施指導において指摘が多い内容を5つ挙げてみました。
法令解釈が難しいといった側面があるかもしれませんが、コンプライアンスの視点は必ず持っていなければプロとはいえません。
1)計画作成にかかる基準違反
『計画作成にかかる基準違反』の中には、
- ○計画内容について利用者等の同意を得ていない
- ○サービス担当者会議を実施していない
- ○計画書を利用者等に交付していない
といったものが数多く指摘されています。
また居宅サービス計画に位置づけられていないサービスが行われていることもあります。
たとえば「生活援助」は計画されているものの、「身体介護」については計画されていないにもかかわらずサービスが提供されているといったケースがあります。
そのほかにも、サービス提供の実態がないにもかかわらずに計画上で位置付け、居宅介護サービス計画費を不正請求しているケースや計画書をまったく作成していないというものまで見受けられます。
2)事故発生対応にかかる体制の不備
転倒や転落などの事故が発生した際には、
- ○速やかに市町村・入所者家族に連絡する
- ○事故に対する必要な措置を講じる
- ○事故発生時から採った処置について記録する
が義務付けされていますが、不適切な事例が数多く見受けられます。
「事故発生防止のための指針」を必ず定めて、質の高い介護保険サービスを提供できるように運営しなければなりません。
「事故発生防止のための指針」には、リスクマネジメント体制や事故防止委員会の設置、事故防止に対する職員研修の実施、事故対応に関する基本方針などを定めておく必要があります。
3)秘密保持にかかる体制の整備
業務上知り得た利用者や家族の情報を漏らさないように必要な措置を講じなければなりません。
守秘義務があるということについては当然のことではありますが、個人情報保護法に基づいた体制の整備を採っているかどうかが大事になります。
事業所においては「個人情報保護規定」を設置し、個人情報の取り扱いに関する基本原則や個人情報の利用・提供に関する事項などを定めておく必要があります。
利用者やその家族などの個人情報を用いる場合においては、個人情報保護規定に基づいて、あらかじめ文書によって同意を得ておく必要があります。
4)不適切な処遇改善加算の支給
介護職員処遇改善加算の支給については、あくまで介護職員に対する処遇改善のために活用されなければなりません。
不適切な支給として、次のような事例が見受けられます。
- ○介護支援専門員や生活相談員、看護師等に対して支給されている
- ○福利厚生費として利用されている
- ○職員の資格取得費用として利用されている
- ○商品券等によって支給されている
- ○処遇改善加算額を下回った賃金改善額である
特に対象となる介護職員の範囲を理解しておくことが大事で、訪問介護や施設の介護スタッフはもちろんのこと、介護職員を兼務している介護支援専門員や生活相談員、看護師等も支給対象となります。
5)衛生管理について
事業者は常に衛生管理に努めねばならず、清潔の保持や健康状態の管理の体制を整えておく必要があります。
衛生管理のポイントとしては次のものが挙げられます。
- ○手指消毒のための消毒剤の設置
- ○清掃や換気の徹底
- ○使用品と未使用品が分けられているかv
- ○汚物などの適切な処理や保管
- ○洗剤や医薬品などの適切な保管
- ○衛生管理や感染症などの研修の実施
たとえばノロウイルスの処置には、エタノールではなく次亜塩素酸ナトリウムなどが適切ですが、このような衛生管理の情報を各職員が持っておくようにしなければなりません。
正しい法令解釈による正しい理解が必要
冒頭からお伝えしている通り、介護保険サービス実施指導で指摘されないようにするには、コンプライアンスの視点を必ず持っていなければなりません。
法令解釈が難しいといった側面も理解できますが、指摘事項において「解釈が間違っていた」という言い訳をするようではプロとはいえません。
実施指導において、介護報酬が認められないという事態になり、巨額な報酬返還によって事業所を閉鎖に追い込まれるというケースが見られます。
このような事態になれば、利用者だけではなく、就労しているスタッフに対しても迷惑をかけてしまうことになります。
介護保険は3年に一度改正されるものですから、正しい解釈ができるような体制を取っておくことが適切です。
管理者を中心にサービス提供責任者などが集まって、制度改正に対する対策委員会などを設置しておくようにしなければなりません。
管理者が法令遵守することは当たり前のことですが、サービス提供責任者もコンプライアンスに対する意識を高めておくことで、利用者に対してサービスの透明性を図ることができます。
また報酬面を見ても、これからは基本報酬よりも加算取得の条件をどのように満たすのか検討できるようにしておけば、経営状態の維持や改善がしやすくなります。
これからの介護保険の状況を考えても、事業運営の中で求められる姿勢はコンプライアンスの視点ではないでしょうか。
ケアマネジメントの本質から介護を考えるようにする
コンプライアンスの視点が必要であることは分かっていても、どのように実施指導対策すればいいのか分からないという話をよく耳にします。
ケアマネジメントの本質から介護を考えてみると、何が足りないのか見えてくるようになります。
たとえば居宅介護支援におけるケアマネジメントを見てみると
- ①アセスメント
- ②担当者会議(計画の作成)
- ③サービスの実施
- ④モニタリング
といった流れを繰り返しており、その中で報酬請求が行われることになります。
しかしこの流れの中で計画書が作成されていないとしたら、どのように第三者に対してサービス提供の根拠を示せばいいのでしょうか。
計画通りにサービス提供されたからこそ報酬を請求することができます。
実施指導においては「報酬の根拠」を求められます。
つまりそこで計画書を提示できれば、報酬の根拠を示すことができるのです。
これこそが書類作成の意義であり、たいへん重要なものであることが理解できるでしょう。
このようにケアマネジメントの本質を理解することができれば、実施指導で指摘される内容についても理解できるはずなのです。
まとめ
これからの介護保険改正を考えると、さらにコンプライアンスの視点は高いものが要求されることになると考えられます。
介護保険サービス実施指導で指摘が多い内容をお伝えしましたが、まずはケアマネジメントの本質に立ち戻って、その指摘内容の意味をよく考えてみてください。
介護保険のプロであるという自覚とともに、サービスに取り組む姿勢が必要なのです。
参考:
東京都福祉保健局指導監査部 集団指導資料.(2019年12月24日引用)
東京都福祉保健局 居宅サービス事業所等指導検査基準.(2019年12月24日引用)
東京都福祉保健局指導監査部 実地検査における主な指摘事項について.(2019年12月24日引用)
厚生労働省 福祉分野における個人情報保護に関するガイドライン.(2019年12月24日引用)