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施設ケアマネジメントの課題と考え方~自己決定を尊重したケアプラン

施設ケアマネジメントにおいては現場業務が先行し、ケアプランが後追いしていることがよく見受けられます。
しかしケアプランがなければ、3大介護を中心としたサービスのみとなってしまい、自己決定のない生活となってしまいます。
ここでは施設ケアマネジメントの課題と考え方についてご紹介していきます。

施設ケアマネジメントの課題と考え方

施設ケアマネジメントの課題

施設ケアマネジメントの課題

  • ●インテーク不足により利用者の主訴が掴めていない
  • ●アセスメントがプランニングに生かせていない
  • ●目標設定があいまいなために抽象的なケアプランになりがち

施設ケアマネジメントとして挙げられるポイントは上記3点です。
施設ケアマネジメントを行う施設ケアマネジャーは、現場の介護職員がケアマネジャー資格を取得し、そのまま介護職員と兼務しながら業務に就いていることが多く見られます。
そのためケアマネジャーとしての経験が少なく、現場業務が先行し、ケアプランが後追いしていることがたびたび見受けられます。
現場業務が先行して施設ケアマネジメントが行われてしまうと、ケアプランに個別性がなくなってしまい、自己決定につながらない定型化されたものになりがちです。

●インテーク不足により利用者の主訴が掴めていない

ケアマネジメントのプロセスにおいて、まず最初に『インテーク』が行われます。
しかし経験の少ないケアマネジャーの場合、相談援助技術のスキルが低く、インテークが適切に行われていないことが少なくありません。
インテークとは利用者の主訴を確認し、ケアマネジメントの中で生活の目標を決定するプロセスになります。
しかしそもそもインテークの重要性について認識していないために、十分な情報収集ができていないことが見受けられます。
また重要な情報であっても、その情報を生かしきれていないということも少なくありません。

●アセスメントがプランニングに生かせていない

入所した利用者が自立した生活を営むために、アセスメントを通して日常生活動作(ADL)や認知・意思関連、行動障害などについての評価を行います。
プランニングにおいてはアセスメントがかなり重要な位置を占めています。
アセスメントが十分行われていることにより、現場スタッフからの自立支援サービスを提供することができます。
つまりアセスメントの内容はサービスに直結する分析のために集められた情報ですから、プランニングに生かすことができないと利用者の自立支援につながりません。
特にプランニングが現場業務に後追いしている場合には、心身の状態ばかりに目がいきがちで、利用者や家族の思いが反映されていないことが多いのです。

●目標設定があいまいなために抽象的なケアプランになりがち

施設ケアプランは、利用者の課題に対して生活の目標を設定し、自立支援サービスを提供しながら自己決定できる生活を営むことができるようにするためのものです。
そのため前述ように「インテーク」「アセスメント」の情報分析がとても重要になります。
しかし経験の少ない現場との兼務のケアマネジャーの場合、情報収集や分析が足りなくて、生活目標が明らかになっていないことが多いのです。
すると現場での3大介護がケアプランの中心に位置することになり、施設でのルーティン業務がそのままプランニングされてしまうことになります。
すると利用者や家族の思いが反映されず、抽象的なケアプランになりがちなのです。

施設ケアマネジメントの考え方

施設ケアマネジメントの考え方

  • ●利用者の自己決定を尊重できているか
  • ●自立とQOLの向上を目標としているか
  • ●PDCAサイクルを意識しているか

施設ケアマネジメントの考え方としては、上記3つのポイントを意識して計画作成に取り組まねばなりません。
特に自己決定が尊重できているかどうかについては、その人らしい自立した生活を営むためにとても重要なものになります。
インテークやアセスメントの内容を反映させるだけではなく、栄養ケアマネジメントやリハビリ計画などともリンクさせることが大事です。

●利用者の自己決定を尊重できているか

ケアプランには「その人らしい自立した生活」「利用者本位の適切なケア」「尊厳を支える」といった視点が重要となります。
そのためインテークにおいては、施設の機能を利用者や家族にしっかりと示した上で、幅広い情報を収集しなければなりません。
在宅介護サービスやかかりつけ医とも密接に連携を図るように努めます。
またアセスメントにおいては心身の状態だけではなく、利用者や家族から入所後の希望や意思を引き出すことが大事になります。
入所後も家族と利用者が今まで通りの交流が続けられるように取り計らうことも必要でしょう。

●自立とQOLの向上を目標としているか

ケアプランでの目標設定については、自立とQOLの向上を明確に設定しておかねばなりません。
まずアセスメントの際に、自宅での生活ではどのように過ごされていたのかしっかりと確認し、自宅のような自分らしい生活ができるように工夫することが必要になります。
自分らしい生活がそのまま利用者の生活意欲へとつながるからです。
特に3大介護を中心とするケアプランとなった場合、施設の定型化されたサービスの中で生活し続けることになってしまいます。
特に重度介護が必要な利用者のケアプランにおいては、今まで自宅でどのように過ごされてきたのか、家族の思いはどのようなものなのか、しっかりとアセスメントしておくことが重要です。

●PDCAサイクルを意識しているか

施設ケアマネジメントの中でPDCAサイクルはとても重要で、特にプランの実行が適切に行われているか、またその評価が適切に行われているかといった機能がなければなりません。
特に現場業務の後追いでケアプランが作成・実行されている場合においては、これらモニタリングの視点が欠如していることがあります。
またケアプラン更新の際に開催される担当者会議には、利用者・家族も参加できるようにして、定期的にどのような思いがあるのか引き出せるようにしておきましょう。
その思いをどのようにすれば実行できるのか、法人全体で取り組んでいく必要があります。

施設ケアマネジメントを法人全体で取り組む

施設ケアマネジメントを法人全体で取り組む

  • ●法人のケアの方針を決定する
  • ●方針に沿った具体的な目標を
  • ●現場チームで実践可能かどうか

冒頭から施設ケアマネジメントについての課題などについて述べてきましたが、ケアマネジメントの課題を克服するためには、法人全体で取り組んでいかねば解決を見出すことはできません。
利用者が自己決定できる生活が営めるように現場のケアの方針を決定し、そのために具体的な目標を持っておくことが大事です。
その中で個々の利用者の希望に対して、支援が実践できるかどうか検討できるシステムを構築しておくようにしなければなりません。

●法人のケアの方針を決定する

そもそも介護保険の目的が「尊厳保持」「自立支援」が目的ですから、法人においてはどの目的をどのように実行していくのか具体的なケア方針を決めておく必要があります。
たとえば「寝たきりをつくらない」「おむつ外しに取り組む」「できる限り常食で栄養を取る」などといった自立支援のための明確な目標をつくると、現場スタッフで目的を共有することができるようになります。

●方針に沿った具体的な目標を

たとえば「おむつ外しに取り組む」といったケア目標を掲げた場合、現場においてどのように取り組んでいくのか、どのくらいの割合を目標とするのか、明確な目標を掲げるようにします。
またその際に、トイレで排泄することが質の高い介護につながるということについて現場スタッフの理解が必要になります。
具体的な目標に向かうために、自立支援についてのスキルを高める研修など、現場の理解も必要となるでしょう。

●現場チームで実践可能かどうか

何よりケアマネジメントはケアマネジャーだけのものではなく、介護・看護・栄養・相談員などがチームになる必要があります。
法人のケア目標が具体的になってくると、現場スタッフにおいてもケアに対するモチベーションがとても高くなります。
法人としてもできるケアの幅が広がりますから、インテークやアセスメントもより深い意向を聞き出すことができるようになります。
その中で個々の利用者・家族の意向をじっくりとお聞きしながら、現場チームでどこまでのことができるのか探っていくことが大事です。

まとめ

施設ケアマネジメントは利用者が第三の人生を歩む上でとても大事なものになります。
そのため現場業務にケアプランが後追いするのではなく、利用者が主体的に生活できるための工夫をすることが大事です。
そのため法人全体でケア方針を明確にする必要があります。
施設ケアマネジメントはケアマネジャーだけのものではないのです。

参考:
東京都福祉保健局 施設における介護支援専門員業務の手引.(2020年2月13日引用)

  • 執筆者

    井上 歳行

  • 特別養護老人ホーム責任者、居宅介護支援事業所の管理者を経て、介護コンサルタントを行っております。

    保有資格等:介護コンサルタント、主任介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士

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