「認知症施策推進大綱」で認知症予防はどう変わる?新しい認知症支援の方法
認知症の高齢者が増えているなかで、認知症予防の必要性が叫ばれています。
認知症の原因はまだ解明されていませんが、誰しもがなる可能性のある病気です。
そのため厚生労働省では、認知症になってもその進行を遅らせて緩やかにすることを「認知症予防」として考えています。
具体的にケアマネジャーがどのような視点で認知症の利用者に関わっていけばいいのかお伝えしていきます。
目次
認知症の現状と支援方法~「認知症施策推進大綱」で何が変わる?
2012年において認知症高齢者の人口は約500万人に達しており、今後2025年には約700万人に、2040年には約800万人に達すると考えられています。
ただしこれは2012年時点の認知症高齢者の有病率が一定の場合の数字であって、別の要因などによって増大する可能性もあると考えられています。
正常と認知症の中間にある「軽度認知障害(MCI)」は、認知症に進行する割合が高いので、この状態の間に発見し予防に努めることが大事だと考えられています。
●軽度認知障害(MCI)の正常化で認知症の進行を食い止める
認知症自体は正常レベルに回復させることは困難であることが多いですが、認知症に至るまでの軽度認知障害(MCI)の場合、回復したという報告も少なくありません。
軽度認知障害(MCI)とは、認知症のように日常生活が困難になることはありませんが、年齢相応以上に認知機能が低下している状態をいいます。
たとえば同年代の人よりも物忘れの程度が強かったり、言葉が適切に理解できなかったり、表現できないということがあります。
軽度認知障害(MCI)の場合、年間1割から3割程度の人が認知症を発症すると考えられています。
認知症は治らずに進行するイメージが強くありますが、軽度認知障害(MCI)の状態から改善した人も多く、厚生労働省の発表しているデータでは5年後に38.5%が正常化したというものもあります。
つまりこの軽度認知障害(MCI)の間に正常化させることが大事だと考えられているのです。
●新オレンジプランの取り組みから「認知症施策推進大綱」で何が変わる?
今まで認知症に対する対策として、厚生労働省では新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)を掲げて取り組みを行ってきました。
新オレンジプランでは、多くの人が認知症の理解を深めることができるように推進し、認知症を含む高齢者が住みやすい社会になるように取り組まれてきました。
認知症の理解を深める取り組みとして「認知症サポーター養成」がスタートし、2017年度末においてサポーターの人数はわが国で1,110万人となっています。
またかかりつけ医の認知症対応力を高めるための研修が始まり、研修に取り組んだ医師は2017年度末で5万8千人となっています。
そのほか認知症疾患医療センターの整備や認知症初期集中支援チームの設置、介護職員や看護職員に対する認知症スキルを高める研修などに取り組まれてきました。
そしてこの新オレンジプランの取り組み状況から、新たに「認知症施策推進大綱」がまとめられることになったのです。
認知症施策推進大綱~これからの認知症予防と認知症支援の考え方
厚生労働省は、認知症施策推進関係閣僚会議の中で「認知症施策推進大綱」をまとめています。
「認知症施策推進大綱」の中では、今までになかった「認知症予防」が取り上げられるようになったのが特徴です。
認知症予防を推進し軽度認知障害(MCI)の人が認知症を発症させないようにすることが大事だと考えられています。
また認知症を患っている人においても、これ以上認知症を進行させない、進行を緩やかにすることが重要であるとしています。
さらに同時に認知症の人を含む高齢者が安心して生活できるように、どのような支援方法が必要なのか取りまとめたものとなっています。
●「認知症施策推進大綱」での認知症予防「進行を遅らせる・緩やかにする」
「予防」というと、病気の発症を防ぐためのものだといったイメージがありますが、「認知症施策推進大綱」での予防定義は「進行を遅らせる・緩やかにする」といったものも含まれます。
新オレンジプランとの一番の違いは、この「認知症予防」に対する考え方にあります。
新オレンジプランにおいては、「早期発見・早期治療」がメインとなっており、認知症に対する理解を深め、いち早く治療に取り組むことが大事であるとされてきました。
「認知症施策推進大綱」でもその流れを取り入れながら、さらに予防的な取り組みが強くなっています。
予防に対するエビデンスの収集が推進され、症状がでる前からの取り組みが強化されます。
認知症に対する科学的な介護も推進されていくことから、今後介護方法も国際標準的なものが出来上がる可能性もあります。
●認知症は「だれもがなりうるもの」~「予防」と「共生」の社会へ
「認知症施策推進大綱」ではまず最初に「だれもがなりうるもの」と記載されており、「共生と予防を車の両輪として施策を推進する」とあります。
そして「予防」の定義はお伝えしている通り「認知症にならない」のではなく「遅らせる・緩やかにする」といったものですが、具体的には運動や生活習慣の改善、社会参加、孤立の解消などによる取り組みをイメージしています。
また数的な目標として、70歳代での認知症発症を10年間で1歳遅らせることを目指しています。
「共生」については新オレンジプランから続いている施策であり、認知症があってもなくても共に生きることができる社会を目指していくことになります。
ケアマネジャーが知っておきたい新しい認知症支援の方法
「認知症施策推進大綱」では「認知症予防」「医療・ケア・介護サービス・介護者への支援」「普及啓発」「認知症バリアフリーの推進」「研究開発など」の5つの柱で取り組まれていきます。
ケアマネジャーにおいては、「認知症予防」「医療・ケア・介護サービス・介護者への支援」「普及啓発」の関わり方については押さえておかねばなりません。
●認知症予防の考え方「一次予防から三次予防」
認知症予防は具体的には一次予防から三次予防まで考えられています。
一次予防としては、認知症リスクの低減や発症遅延、二次予防としては、早期発見・早期治療、三次予防としては重症化予防となります。
いずれの段階においても、ケアマネジャーができる支援として、運動不足の改善や生活習慣病予防、孤立の解消などが必要だと考えられています。
地域の高齢者であれば、地域で開催されている「通いの場」が介護予防につながるものですから推進することが臨まれています。
そのため「通いの場」は今後さらに増えていくことになります。
また要介護状態の高齢者であっても、デイサービスなどの参加によって運動不足の解消や社会性の維持向上につなげることが認知症予防に大きな意味を持つことになります。
またヘルパーの導入によって、生活習慣を改善させることができます。
健康的な生活を維持することが、そのまま認知症予防になると考えられるでしょう。
●認知症介護のスキルアップ研修の受講を推進する
介護従事者向けに認知症研修が行われていますが、「認知症介護指導者養成研修」「認知症介護実践リーダー研修」「認知症介護基礎研修」については数値目標が定められています。
「認知症介護指導者養成研修」は2017年度末で受講者が2.3万人ですが2020年までには2.8万人の受講が望まれています。
「認知症介護実践リーダー研修」は2017年度末で4.1万人で、2020年までに5万人。
「認知症介護基礎研修」は2017年度末で26.5万人で、2020年までに30万人となっています。
介護職員だけではなく、ケアマネジャー自身も受講するようにし、認知症に対する科学的介護の現状をしっかりと学んでおかねばなりません。
●介護家族にも認知症サポーター養成講座を推進する
認知症サポーター養成講座の受講は、2017年度末において1,144万人となっていますが、2020年度末には1,200万人を目標としています。
認知症サポーター養成講座は一般の方が受講できる講座で、行政や地域包括支援センターなどが主体となって開催しているものです。
認知症は適切な介護方法によって周辺症状を抑えることができ、認知症の進行を緩やかにすることが可能になります。
そのため普段から関わっておられる介護家族に対して、認知症サポーター養成講座の受講を推進することによって、要介護高齢者の認知症予防につなげることができます。
認知症高齢者に対する新しい支援方法~「共生」と「予防」
認知症は身近な人でもなりうるものとして考えられています。
「認知症施策推進大綱」の認知症に対する基本的な考え方は、ケアマネジャーにとっても今後の支援においてとても重要なものになります。
「共生」と「予防」の考え方を共有して、ケアマネジメントにつなげることが大事です。
参考:
厚生労働省 認知症施策推進大綱.(2020年3月15日引用)
厚生労働省 認知症施策の総合的な推進について.(2020年3月15日引用)