介護サービス事業所の介護離職対策!介護職員の離職を出さないためにできること
介護離職が増えています。
2017年の調査データを見ると約9万人で、10年前の約2倍となっています。
高齢化が進むなかで、介護職員の中にも親の介護が必要になる人は増えてくることは間違いありません。
しかしうまく仕事と両立させることが必要であり、事業所においても制度の活用や精神的な負担が増大しないようなサポートが大事になります。
目次
介護離職がなぜ問題か?介護職員の介護離職を出さないために
介護離職する人が増えており、社会問題であると報道されることが多くなりました。
介護人材が不足しているなかで、働き手を失うという課題があります。
しかし自身の家族の介護を、一人で抱えてしまうことが多いことも一因であるといえます。
それが原因で職場の誰にも相談せずに離職してしまう人は少なくありません。
介護サービス事業所において、そのような現状を踏まえて、何が問題になっているのか、取り上げてみたいと思います。
●介護離職した人のほうが不安に感じていることが多い
就労者 | 介護離職者 | |
---|---|---|
非常に不安を感じる | 24.1% | 40.9% |
不安を感じる | 52.9% | 42.7% |
厚生労働省が公表している2013年の調査によりますと、仕事と介護を両立している就労者と介護離職した人の不安感は、介護離職した人のほうが大きいことがわかっています。
この調査において「非常に不安を感じる」「不安を感じる」を選んだ人の割合が、就労している人では77%、介護離職した人では83.6%であることがわかりました。
また「非常に不安を感じる」だけをくらべてみると、就労している人では24.1%、介護離職した人では40.9%となっています。
つまり親の介護を理由に介護離職したものの、安心して介護ができていない状況がわかります。
●介護をする上で不安になる内容
就労者 | 介護離職者 | |
---|---|---|
1 | 自分の仕事を代わってくれる人がいない(35.8%) | 介護休業制度等の両立支援制度がない(35.6%) |
2 | 介護サービスや施設の利用方法がわからない(29.3%) | 自分の仕事を代わってくれる人がいない(33.0%) |
3 | 介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減る(28.4%) | 介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減る(26.5%) |
4 | どのように両立支援制度と介護サービスを組み合わせれば良いかわからない(25.3%) | 労働時間が長い(22.9%) |
5 | 介護休業制度等の両立支援制度がない(23.0%) | 介護休業制度等の両立支援制度を利用しにくい雰囲気がある(19.3%) |
家族の介護を担う上で、どのような不安を抱えているのか調査した結果です。
仕事と介護を両立している就労者と介護離職した人の不安感の内容が、大きく異なることがわかります。
特に介護離職した人の調査結果では「介護休業制度等の両立支援制度がない」「自分の仕事を代わってくれる人がいない」と、介護を抱えていることに対して負担感を感じている様子が伺えます。
いつまで続くのかわからない介護を、自分だけが担っていることによってストレスとなり、そのストレスによって問題を引き起こす可能性があります。
●介護の不安は介護うつや虐待の引き金に
介護で不安を抱えることは、精神的に負担につながります。不安が積み重なることによって「介護うつ」を引き起こす原因になることも考えられます。
うつ病はストレスがきっかけとなり発症することが多いですが、心の病気ではなく、脳内の神経伝達物質の働きが悪くなる「脳の病気」であると考えられています。
つまり心のあり方だけで発症を防ぐことができるものではなく、誰しもが引き起こす可能性がありますので、十分な注意が必要です。
また介護ストレスの増大は虐待を引き起こす原因になるとも考えられています。
家族による虐待は増えており、2016年には約16,000件、2017年には17,000件を超えており、大きな社会問題となっています。
介護離職をしてしまう人の特徴~介護を抱え込む傾向に
介護離職を選択する人は、ある意味、親や家族の介護を自分自身で担おうとするとても生真面目な人であるといえます。
「親の介護は家族がするもの」と強い固定観念を持っている人は、たとえ介護職員であっても少なくないのが現状です。
また「親の介護は家族だけで解決する」と自分一人が抱え込もうとしているケースを見かけることも多くなっています。
そのような中で、介護離職を選択してしまう介護職員がいるという現状を知っておかねばなりません。
●職場に相談せずに離職してしまう
親の介護を行っていても、職場に相談している人はそれほど多くありません。
職場に迷惑をかけてはいけないと考えて、離職する人の割合が多くなっています。
特に介護サービス事業所で働いている介護職員であれば、慢性的な人材不足を理解していますから、自分が休んでしまうことによる混乱を先に考えてしまうのです。
そのため介護休業制度を活用できることを知っていても、制度を活用せずに介護離職する人は少なくありません。
介護をしていると、付き添って病院に行かねばならないことや、体調不良などによって仕事を休まねばならないことが起きてしまいます。
そのようなことがたびたび続くと、これ以上、迷惑をかけられないと考えてしまい、そのまま離職を選択してしまうのです。
●誰にも相談せずに一人で抱えている
「家族の介護のことは誰にも言いたくない」そのように考えている人は、少なくありません。
職場に相談できないというだけではなく、誰にも相談せずに一人で抱え込んでいることが多いということは理解しておかねばなりません。
相談できない状況に陥ってしまうことによって、介護をし続けるための選択肢がどんどん狭まってしまいます。
そして仕事と介護のバランスが取れなくなってしまい、離職を選択してしまうことになります。
そのため介護サービス事業所においては、制度の利用しやすさや相談しやすさを意識しておく必要があります。
介護と仕事を両立できる介護サービス事業所を目指す3つの対策
- 1.介護休業制度を利用しやすい雰囲気をつくる
- 2.柔軟な働き方ができるように工夫する
- 3.介護に対する不安やニーズを掴めるようにしておく
介護サービス事業所において、介護職員が介護離職せずに介護と仕事を両立させるためには、これら3つの取り組みが不可欠です。
順番にどのようなことができるのかお伝えしていきます。
●介護休業制度を利用しやすい雰囲気をつくる
介護休業制度利用がしやすい雰囲気づくりに向けて、仕事と介護の両立のための勉強会などに取り組むことが適切です。
制度を利用せずに離職する人は少なくありませんが、その理由に「制度を利用しにくい雰囲気がある」という意見が多くあります。
そもそも事業所に介護休業制度がないこと、制度の利用実績や制度に関する紹介などがないような場合であれば、利用したいという雰囲気にはなりません。
人材不足の中であれば、さらに職場に迷惑をかけてはいけないという雰囲気にもなってしまうのです。
●柔軟な働き方ができるように工夫する
短時間正社員制度など、時短で働ける環境づくりに取り組むようにします。
介護離職を選ぶ人の中にも、働き方が変わるのであれば仕事を続けたいと考える人は少なくありません。
介護休業制度では休業を分割取得できたり、介護休暇についても取得できる単位を半日にできるなど、柔軟に対応できるようになっています。
ただし、それらを積極的に取り組んでいる事業所が少ないことが現状です。
休暇や休業の取得方法に選択肢があれば、それだけ働き続けることができる可能性を高めることができるのです。
●介護に対する不安やニーズを掴めるようにしておく
介護を職場に相談できないという人は一定の割合で存在します。
介護休業制度を取得しやすい雰囲気にするだけではなく、介護職員の介護に対する不安やニーズをどのように把握していくかについても工夫が必要です。
たとえば介護職員に対して、働き方についてのアンケート調査を行うこともひとつの取り組みとして考えられます。
その中で具体的な取り組みができるのであれば、介護職員の不安も少なくなるのではないでしょうか。
働きやすいと思われる介護サービス事業所に
介護職員だからといって、家族の介護に対して介護サービスを利用し、うまく仕事と介護を両立できているかと言えば、すべてそうであるとは言えません。
制度の利用しやすさや相談しやすさなど、働きやすさにつなげる取り組みは必要です。
働きやすくなることによって、離職者を減少させることができるのではないでしょうか。
参考:
大和総研『介護離職の現状と課題』.(2020年4月27日引用)
厚生労働省『仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書』.(2020年4月27日引用)
厚生労働省「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」.(2020年4月30日引用)