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認知症カフェの成功例!先進事例と運営課題をのりきるヒントを紹介

2015年の「新オレンジプラン」以降、認知症カフェの数は増大していますが、運営継続の課題も多くあります。
そこで今後の認知症カフェ展開の参考にしていただけるよう、全国の認知症カフェから成功例や先進的な事例をご紹介します。

認知症カフェの先進事例と運営課題

認知症カフェ運営の5つの課題

認知症カフェ運営の5つの課題

1)運営資金の確保

2016年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業として実施された「認知症カフェの実態に関する調査研究事業」報告書では、

  • ○認知症カフェの「年間運営費用平均」は約26万円
  • ○「運営主体」で一番多いのは地域包括支援センター(約33%)
  • ○「主な財源」は自治体補助金が約39%、参加費が約56%、法人予算からの捻出が約32%

となっています。
この結果から認知症カフェ運営は、民間だと財源や開催場所を確保する余裕のある法人などでなければなかなか開設や継続的な運営が難しいという実情がわかります。
すべての自治体が補助金交付しておらず、補助金額にも地域差があることも課題です。

2)人材不足

参加費や自治体の補助金が頼りの運営は、専門職の人件費捻出も難しくなります。
2020年2月の毎日新聞の報道によれば、姫路市の認知症カフェの約半数で最低限の専門知識を持つスタッフがいないという事態が発覚しています。
厚生労働省が想定する「専門講座を受けた認知症サポーター」や「専門職」の人材確保ができないまま、地域ボランティアや有志だけで運営している団体も多い状況がわかりました。
法人の専門職が運営にたずさわるにも、業務が多忙で関われない場合もあります。

3)送迎

デイサービスなどと違い、認知症カフェは自力か家族の送迎で参加する必要があり、当事者や高齢の家族・働いている家族には参加が難しいケースもあります。
特に地方は認知症カフェの数が少なく、自宅の近くで開催されていない場合は長距離の送迎がなくては参加が困難となります。
気軽に地域住民と認知症当事者が集える場所づくりを目指すならば、地域のバス停に近い会場での開催や、地域ごとに認知症カフェの数を増やすためのサポーター育成も課題です。 

4)周知・PRの難しさ

認知症カフェの存在は、地域住民や当事者に十分周知されておらず、参加者が少ないケースもあります。
PRで「認知症」を前面に出すかも問題となり、「オレンジカフェ」など認知症以外の名称を使うと今度は内容がよく理解されないというジレンマがあります。
地元の人に知られたくなくてわざわざ遠くの認知症カフェに通うケースもあるなど、認知症カフェの啓蒙はデリケートな配慮も必要となります。

5)開設方法・運営方法の情報開示が少ない

自治体でさえ認知症カフェ運営のノウハウが少なく、手探りでの開設支援となっています。
運営上の課題や疑問が生じても、他事業所との課題共有や相談が難しく、連携してサービス継続の対策を練り新しい情報を共有し活用するためのネットワークが不足しています。

認知症カフェの成功例・先進例3つ

認知症カフェの成功例・先進例3つ

以上のような運営課題へのヒントとして、認知症カフェ運営の安定した継続に成功している例・先進的な取り組みを取り入れている3事例をご紹介します。

●スタバとタッグを組んだ町田市「Dカフェ」

2016年から始まった東京・町田市の認知症カフェ「Dカフェ」は、スターバックスコーヒーの協力を得て市内8カ所で定期開催されています。
NPO法人認知症フレンドシップクラブと町田市の認知症への理解を深めるDカフェ活動を知ったスターバックス町田金森店の店長。
スターバックスの「コミュニティコネクション」という、店舗近隣の地域とつながりを築く理念にフィットすると感じ協力を開始しました。
ストアスタッフも認知症サポーター資格を取り、Dカフェ開催前には店内に手書きのポスターを掲示し、開催当日は一般の方への説明看板を置き、予約席を用意してくれます。
参加者は好きなドリンクを頼み、当事者や家族、専門職などさまざまな立場の人がにぎやかに約2時間語り合います。
困りごとや認知症あるある、たわいのない世間話などリラックスした楽しそうな雰囲気に、居合わせた一般客も身内の認知症の兆候を相談するなど良い影響が出ています。
町田市ではこれらの実績からスターバックスコーヒージャパン株式会社と2019年より「認知症の人にやさしい地域づくりに関する包括的連携協定」を締結しています。
スターバックスのように「地域貢献したい」という想いのあるオーナーの店や、地域に根差した店を探して協力を依頼し、当日はドリンクなどを大勢でオーダーし売上にも貢献する。
一般の方と仕切りのない予約席でコーヒーを楽しめるのでリラックスして参加しやすく、一般の人も飛び入り参加可能なので当事者も人目が気にならないというメリットもあります。
地域のお店での開催なら、送迎などの手段に困る高齢者も参加しやすく、カフェなどで開催すれば若年性認知症の方も入りやすいですね。
こうした事例も認知症カフェ開催の「場所」や「参加者不足」「啓蒙の仕方」に困っているケースへのヒントとなることでしょう。

●熊本市「あやの里」運営の「as a cafe」

熊本県熊本市の認知症専門の介護事業所「NPO法人あやの里」の敷地内にある認知症カフェ「as a cafe」
常設型カフェで、2017年度は7,000人以上もの利用があり、アート企画や学生と一緒の活動なども催しつつ、当事者と家族・住民が専門知識のある相談員とくつろげる場所です。
たくさんの本とピアノ、コーヒーやお菓子を提供するコーナーなど、自宅以外の「もう一つの自分の場所」としてくつろぎ社会とつながれる場になっています。
認知症に関係のない子どもなど誰でも来たい人が利用でき地域に溶け込んでいます。
常設型は全国でも珍しく、また介護施設らしくないオシャレで開かれた空間づくりが、認知症への心理的な敷居を下げる新しいサポートの形として注目を集めています。

●学生と複数の事業所や専門家が支える!福山平成大学「ガーデンカフェ」

福祉専攻のある大学の学生が、介護専門職、県の認知症疾患医療センターの協力を得て運営の一翼を担っているのが広島県の福山平成大学「ガーデンカフェ」です。
「ガーデンカフェ」は認知症の学習会や音楽鑑賞・健康体操などを実施。
同大のもう一つの「平大認知症カフェ(愛称:みゆきよりみちかふぇ)」は、情報提供や認知症サポーター養成講座、カフェタイムを提供しています。
運営資金は大学と福山市の補助金を利用し、参加無料・予約不要として幅広い市民が気軽に参加できるよう配慮されています。
大学での認知症カフェとしては東北福祉大学に次ぐ全国で2番目の開催で、コロナ禍でも市と携帯会社と共催でのスマホ教室を実施し、「オンライン開催」を実現しています。
(参考:福山平成大学 学科ニュース「平大認知症カフェを再開します」

運営には大学だけでなく町内の自治会や介護事業所、地域包括支援センターらが参加しており、広く広報でき参加者が増え認知症サポーター養成講座などの回数も多くなっています。
若い学生とのふれあいが参加者への刺激となり、学生は地域貢献や学びの機会となるなど相互に参加意義のある場となり、継続運営を達成しています。
多くの事業所や機関をまきこんだ運営により、「場所」や「財源」・「広報」などの課題を克服し、地域全体の認知症サポートの底上げを図れている事例です。

成功する効果的な認知症カフェプログラム

成功する効果的な認知症カフェプログラム

藤田医科大学の武地一教授(認知症・高齢診療科)によると、認知症カフェで効果的な内容は

  • ○認知症の本人に有効:頻繁な開催とコンサートなどの催しがある
  • ○家族に有効:開催頻度は関係なくカフェで専門職や同じ立場の人に相談できる
  • ○地域住民に有効:頻繁な開催と認知症の学びや相談ができる
  • ○どの立場の参加者も希望が叶う黄金比:オランダのアルツハイマーカフェのように「30分ごとに区切ったミニ講話・相談・コンサートなどを2時間以内で行う」こと

だとの研究結果が出ています。
特に中等度まで進行した認知症は介護保険サービスに移行しやすくなりますが、発症・診断初期の本人や家族の不安を受け止め相談できる場の提供が重要とのことです。

たとえば筆者の地域では町内会の回覧板に近隣の認知症カフェ開催のビラが入っており、会費制で誰でも参加できるお菓子作りや地産地消の料理会、ボランティア募集が案内されます。

地域ニーズに合う茶話会や創作、コンサート、体操やアクティビティなどのほかに、専用グッズを使った脳トレやリハビリ効果のあるプログラムも話題性を出せます。

参照:
お料理、クラフト、パズル、ビンゴなどが効果的!高齢者の脳トレはこうして行う!
リハビリの定番アイテム「ペグボード」大・中・小のセットで上肢機能をトレーニング

認知症カフェは過渡期!地域と協力して認知症の方の居場所づくりを

認知症カフェの数は増えても継続していく上での課題が浮き彫りになっており、これからどのようなモデルやスタンダードが誕生するかの過渡期といえます。
地域住民が誘い合って出かけるような過ごしやすい認知症カフェができれば事業所への信頼感や親近感も感じられ、地域貢献となり地域により受け入れられやすくなります。
行政や学生・住民とも協力し合い、認知症の方の居場所づくりをしていきましょう。

関連記事:
住民は認知症患者のみ・オランダの革新的な村ホグウェイ(Hogewey)から学べること
「認知症施策推進大綱」で認知症予防はどう変わる?新しい認知症支援の方法

参考:
岡崎市 認知症カフェ(オレンジカフェ)事業に対し補助金を交付します。(2020年12月24日引用)
町田市 認知症カフェ『Dカフェ』(2020年12月25日引用)
朝日新聞デジタル(asahi.com) スタバが認知症カフェに 当事者ら集まる場 東京・町田(2020年12月24日引用)
長寿のMIKATA ゆる認知症カフェ 町田市×スターバックス 人と人をつなぐ「場」のチカラv(2020年12月24日引用)
PR TIMES 認知症カフェ「as a cafe」“KAIGO×creative”がつくる未来トークセッション イベントレポート(2020年12月25日引用)
認知症ねっと 認知症カフェの「パワー」を紹介~介護の学校in広島(2020年12月25日引用)
中嶋裕子: 大学で実施する認知症カフェにおける学生たちの学びー平大認知症カフェ(みゆきよりみちかふぇ)における取り組みー. 社会事業研究57: 170-179, 2018.(2020年12月25日引用)
藤田医科大学 認知症・高齢診療科の武地一教授の研究成果が医療学術誌「JAMDA」に掲載されました(2020年12月25日引用)

  • 執筆者

    湖上ゆうこ

  • 大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。

    保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士

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