訪問介護サービス事業所がゼロから始める実施指導対策~暫定プランの活用の仕方
行政からの実施指導は、地域によって開きはあるものの、おおよそ何年かに1回は行われます。
「記録や計画書を整理しなくては」とわかっていても、管理者やサービス提供責任者がケアに入るような多忙な日々では、事務仕事に割く時間の確保も難しいのが現状です。
そんな方に向けて、ここでは訪問介護サービス事業所(以下 事業所)ができるだけ手間なく実行できる実施指導対策について説明します。
実施指導が終わって始めて報酬を得たものだと考える
事業所の相談として多く挙げられるのは、記録や計画書などの整備がどうにも進まず、実施指導を憂慮している、という管理者の声です。
人員不足のなか現場のケアを優先すると、文書の整備をしている余裕がないと、頭を抱えている事業所は珍しくありません。
事業所によって人員や稼働状況も異なり、実施指導についての「思い」もそれぞれあるかもしれませんが、文書の整備まで含めて利用者のケアだと承知しておくことが大切です。
事業所に入ってくる報酬は、実施指導を終えて初めて受け取れるものです。
実際、実施指導にあたって文書の整備が行えておらず、行政監査に移行して報酬の返還を指導された、という報道を見たことがある方もいるでしょう。
行政監査に移行しないまでも、文書に不備があると報酬を自主返還するように指導されることもあり得ますから、やはり書類については習慣的に整備されていなければならないといえます。
暫定プランの作成を有効に活用する
介護サービス計画書(以下 計画書)作成の流れについては、ここでは詳しくお伝えしませんが、「アセスメント」「プランニング」「モニタリング」の流れが、なかなかルーティン業務に組み込めていない状況があると思います。
在宅においては、担当のケアマネジャーからの依頼があってから、サービスを調整することになります。
計画書は、ケアマネジャーが発行するケアプランに準じて作成します。
しかし、ケアプランが交付されてから計画書の作成に着手するのでは、サービスの開始日に間に合わない場合があります。
さらに原則として、サービス開始前までに利用者や家族から計画書の同意を得ておく必要がありますから、この段階で多くの事業所は書類整備につまずいてしまうことが推測されます。
そこでおすすめしたいのが暫定プランの作成です。
サービスが始まってから計画書を作成するのではなく、暫定的なプランを先につくっておくのです。
暫定プランの作成は、よくケアマネジャーも行っている手法です。
介護サービスの詳細がきちんと決まっていなくても、計画書を交付できますからたいへん便利です。
サービス調整の流れとしては、まずケアマネジャーから本人の情報やサービスの概要が事業所に伝えられると思います。
この時点で、事業所のサービス担当者は大枠のサービス内容を把握することができるので、ここで暫定プランを作成しておくようにします。
暫定プランの内容はもちろん大枠だけになるため、それほど手間もかからず作成することが可能になります。
あらかじめ基本となるフォーマットを作っておけば、なお便利です。
その暫定プランを、サービス担当者会議のときに交付できるようにしておきます。
計画書に記入するサービスの有効期間については、サービス初日から3カ月程度にしておけばいいでしょう。
その有効期間内に詳細な内容を記した本プランを作成すれば、まったく問題なく書類整備ができます。
ケアマネジャーのケアプランを入手する
初回のサービス担当者会議では、計画書だけでなくケアマネジャーのケアプランについても暫定プランであることが多いです。
ケアプラン(本プラン)が作成されたら、速やかに事業所に交付してもらう必要があり、それはケアマネジャーの義務となっていますが、多くの利用者を抱えているので、ついうっかり渡し忘れてしまうということもあります。
事業所側でももらい忘れることがないように、ケアマネジャーのプラン(暫定か本プランか)を表などに記録しておくことをおススメします。
本プラン作成までの期間については、基本的にケアマネジャーが記載した期間に準じます。
ケアマネジャーが記載する長期期間については、3カ月や6カ月になっていることが多いと思いますが、この期間に合わせて計画書を作成していけば、作成を忘れることはありません。
もちろんサービスが変更になったり、新たなサービスが追加になった場合においては、ケアプランが変更されることになります。
このような場合においても、必要に応じて新たに計画書を作成すればいいですし、作成する時間がとれなければ暫定プランを交付すればいいのです。
計画書の日付を必ず確認する
暫定プランの発行がなぜ必要になるかというと、計画書に記載されるあらゆる日付が問題となるからです。
たとえば4月1日からサービスを開始する場合、契約書・重要事項説明書・計画書・計画書の同意など、すべての日付はこの4月1日まででなければいけません。
仮に利用者や家族に計画書を交付して同意をもらった日が4月10日になっていたとしたら、4月1日から10日までの間は、同意なくサービスを行ったということになります。
この日付は同意日だけではなく、計画書の作成日などでも同様に考えることができます。
ケアマネジャーから急なサービス調整などがあった場合で、サービス計画書を作成する時間がなかったときには、このようなことが実際に起きてしまいます。
仮に時間の余裕がなかったとしても原則、実施指導において指導対象になってきます。
悪質なものでなければ文書指摘などがなされ、改善報告の提出のみで済むかもしれませんが、最悪の場合には、その期間の報酬を返還しなければならない、ということもあります。
もしも多くの計画書にこのような日付の不備があり、報酬を自主返還しなければならない場合、かなり多くの返還額になります。
そうした状況にならないためにも、ぜひ暫定プランを活用して書類の整備はしっかりと行っておきましょう。
まとめ
今回は、暫定プランを用いた書類整備方法についてお伝えしました。
計画書の発行をルーティン業務に入れていけば、必ず実施指導においても問題なく整備ができるようになります。
できる限り利用者のケアに力を入れられるように工夫しながら書類整備を進めていただきたいと思います。
なお実施指導の概要についてはこちらの記事(介護サービス事業所に絶対必要な介護サービス計画書の整備~行政の実施指導に対する考え方)にも掲載していますのでご覧ください。
参考:
独立行政法人 福祉医療機構 国保連合会「介護苦情・相談センター」への通報事例(2018年3月1日)
関連情報:
リハビリ・介護施設の施設基準や診療報酬・介護報酬(2023年4月30日引用)