認知症と運動の関係は?有酸素運動が効果的といわれる理由と介護施設での導入方法
認知症の予防といえば「運動」という知識は広く浸透してきました。
しかし、有酸素運動が良いという話を聞いたことがあっても、その理由や、やり方など詳しいことはわからないという介護従事者も多いでしょう。
今回は、介護施設で認知症予防のために実践したい有酸素運動に関する知識をお伝えしていきます。
認知症と運動の関係は?運動不足が発症リスクを高める
認知症にはいくつかのタイプがありますが、そのなかで最も多くを占めるのはアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症の発症には運動との関連があるため、施設の入所者さんの運動量が減少していないか考えながら確認してみましょう。
●介護施設では運動不足に注意
発症のリスクを高める要因には、高血圧や糖尿病、喫煙などがありますが、身体的不活動は最も大きな要因であるとされています。
介護施設に入所すると、入所者さんは身の回りのことをする機会が減ったり、行動に制限が生じたりしてしまいがちです。
そして、全体的な活動量が減って運動不足に陥ると、認知症の発症や進行のリスクが高まってしまいます。
●認知症予防に運動が大切な理由とは?
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積することが原因となって発症すると考えられています。
しかし、運動をするとアミロイドβを分解するための酵素が活性化され、タンパク質の蓄積を防ぐということがわかっています。
また、睡眠中にはアミロイドβを排出してくれますが、高齢になると睡眠の質は低下してしまいます。
日中に運動をすると程よく疲労を感じて、夜にしっかり眠れるようになるという点でも、認知症予防には恩恵があるといえます。
効果的な運動って?認知症予防といえば有酸素運動!
認知症予防のためには日々の生活の中で活動量や運動量を増やしていくことが重要です。
運動を実施できる方には、認知症予防において特に効果的といわれる有酸素運動を実施してみてください。
●有酸素運動とは
有酸素運動には、ウォーキング、軽負荷のジョギング、水泳、自転車こぎ、エアロビクスなどが挙げられます。
筋力トレーニングのように大きな負担のかかる運動ではなく、長い時間続けられる軽〜中程度の負荷があることが有酸素運動の特徴です。
●有酸素運動が認知症予防に効果的な理由
有酸素運動といえばダイエットというイメージをお持ちの方もいますが、記憶を司る海馬の体積が増えるという効果も期待できるのです。
Ericksonが2011年に発表した研究では、55〜80歳の健常者(120名)を有酸素運動を行う群と、ストレッチを行う群に分け、半年後と1年後に脳の状態を調べています。
1年後の結果では、ストレッチ群では海馬の体積が減っていたのに対し、有酸素運動群では海馬の体積が2%増加したと報告しています。
ストレッチも有酸素運動も同じ運動ですが、運動の種類によって効果には違いがあるのです。
そのほか、有酸素運動によってアミロイドβを分解する酵素が増えるという効果なども期待できるといわれています。
●有酸素運動の頻度
入所者さんがいきなり本格的な有酸素運動に取り組むと負担になってしまうため、1日10分など短い時間から、気分転換をかねて実施してみてください。
運動は一度にまとめて行うのではなく、短い時間に分けて週に3〜4回行うことをおすすめします。
介護施設ではエルゴメーターで有酸素運動を!
入所して日が経つごとに認知機能が低下してしまえば、ご本人の健康が損なわれるほか、当然ながらご家族の満足度も上がりません。
しかし、ウォーキングなどをするための時間や人材が確保できない、雨や雪が降ると屋外では活動できないなど、なにかと制限は伴うものです。
そんなときは、エルゴメーターを導入して有酸素運動をしてみてはいかがでしょうか?
●エルゴメーターのメリット
自転車エルゴメーターの場合、ウォーキングやジョギングとは異なり膝や腰への負担を抑えることができます。
さらに、負荷を簡単に調整できるので、負荷が強すぎて有酸素運動から無酸素運動になってしまうといった事態を回避しやすいです。
エルゴメーターは施設に簡単に設置できるので、スキマ時間に実施してもらうことも可能です。
●オージーウエルネスのエルゴメーター
オージーウエルネスの「メデルゴ」というシリーズでは、普通の自転車のように上半身を起こしてまたがる「アップライトタイプ」と、背もたれのある「リカンベントタイプ」があります。
リカンベントタイプは特に場所をとってしまうものですが、メデルゴの場合は省スペースにもこだわった製品なので、小規模な施設でも導入しやすいです。
また、またぎ動作の負担を軽減する「ウォークスルーシステム」という構造になったラインアップもあるため、高齢者にやさしい設計となっています。
●応用的な課題にも取り組める
近年は、有酸素運動を単独で行うのではなく、認知的な課題もプラスした「二重課題(デュアルタスク)」が注目を集めています。
国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」は、認知(コグニション)+運動(エクササイズ)をかけた造語で、認知症予防のために作られました。
足踏みをしながら「3の倍数で拍手」をするなど、軽い運動と認知処理が組み合わさっており、特に認知症予備軍の方にはこうした課題が適しています。
こうした取り組みにならい、「エルゴメーターをこぎながらしりとりをする」などのデュアルタスクを行ってみても使い方の幅が広がります。
なお、デュアルタスクについてはこちらの記事(二重課題(デュアルタスク)のトレーニング例は?リハビリ室ですぐに使える訓練のアイデア3つ)でも解説しています。
介護施設で認知症予防を考えていこう
認知症予防においては、毎日を不活発に過ごすのではなく、とにかく「できる範囲でできることをやる」という姿勢が大切になります。
全体的な活動量を増やすことも大切ですが、認知症予防に効果的といわれている有酸素運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。
認知症の予防は社会的にも関心が集まっているトピックの一つなので、ぜひ施設で取り組みを検討してみてください。
参考:
Erickson KL, Voss MW, Prakash RS, et al.:Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci108(7), 3017-3022, 2011(2018年10月26日引用)
国立長寿医療研究センター コグニサイズとは?(2018年10月26日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士