パーキンソン病に対する歩行練習のコツ!理学療法士が教える明日からできる方法
歩行練習はパーキンソン病の利用者さんに、最も頻繁に実施するリハビリの1つです。
ただ歩くだけでなく、病気の特性や生活環境に合わせて練習を行う必要があります。
今回は、パーキンソン病の利用者さんへの歩行練習のコツを、理学療法士が具体的に解説します。
パーキンソン病の歩行障害の特徴
パーキンソン病は特徴的な歩行障害を示す病気です。
まずは、パーキンソン病でみられる歩行障害の特徴を紹介します。
●すくみ足
パーキンソン病のすくみ足はいつでも起こるというわけではなく、以下のような場面でよく現れます。
すくみ足が現れやすい場面 |
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・方向転換が必要なとき ・歩き始めたとき(一歩目がでない) ・狭い場所を通るとき ・目標の場所に近づいたとき |
以上のように、すくみ足は歩く環境によって起こることが多く、起こりうる環境は利用者さんによって違います。
●突進(加速)歩行
歩いているうちに早足になってしまい、自分では止められなくなってしまいます。
前方だけでみられると思われがちですが、後方や側方でもみられる現象です。
たとえば、ドアを開けるとき後ろへ下がろうとして、そのまま後方へ突進してしまい転倒を引き起こします。
以下に突進歩行を起こしやすい状況を示します。
前方に突進しやすい場面 | 後方に突進しやすい場面 |
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・長い直線の通路 ・一定時間歩き続ける場合 ・坂道の下り |
・開き戸を開けようとしたとき ・高いものを取ろうとしたとき ・方向転換するとき |
●小刻み歩行
歩くときの歩幅が狭くなり、極端に小股の歩行になってしまいます。
通常、脳の大脳基底核で、歩行のリズムなどを自動的に調整しています。
しかし、パーキンソン病により大脳基底核の機能が異常をきたしてしまうため、調整の機能ができず、小刻み歩行を引き起こします。
歩行に加えて、注意がほかに向けられると、小刻み歩行が顕著になる傾向がみられます。
具体的な場面を以下に示します。
注意がほかにむいて小刻み歩行が現れやすくなる場面 |
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・突然の来客で玄関まで移動する ・電話が鳴ったので対応しようと移動する ・歩行中に話しかけられる ・手作業をしながら歩く ・水の入ったグラスをもって歩く ・トイレに間に合わないと考えながら歩く など |
以上のように、パーキンソン病の歩行障害をみてみると、特徴的な障害であるとともに、生活の状況によって、現れやすさが異なるということがわかります。
歩行練習をする前に必要な生活場面の把握をしよう
パーキンソン病の歩行練習をするためには、歩行障害の特徴を知りつつ、利用者さん一人ひとりの生活場面を把握することが重要です。
以下に歩行練習をするために生活場面を把握するポイントを紹介します。
●歩行障害が出現しやすい環境を把握する
歩行障害が生活するなかでどのような場所で起こりやすいかを把握しましょう。
前項の障害の特徴を解説するなかで、それぞれの障害が出やすい場面を紹介しました。
しかし、利用者さんによって、障害が出る状況が違いますし、生活する環境も違います。
そのため、自宅の状況を直接見たり、利用者さんやご家族に写真を撮ってきてもらうことで、具体的に把握することが重要です。
●日内変動の様子を把握する
服薬状況などにより、日内でも体の動きが変化しやすいのが、パーキンソン病の特徴の1つでもあります。
一日の中で、どのような時間帯に、どのような歩行の課題があるのかを把握することで、対策や練習につなげることができます。
移動する空間や行う動作、課題をより具体的に把握する方法として、以下のような表を作ることも有効です。
◯一日の流れと課題の例(午前中の場合)
時間 | 生活の流れ | 課題 |
---|---|---|
6:00 | 排泄、着替え、整容 | トイレの方向転換で足がすくむ |
7:00 | 朝食 | |
8:00 | 朝の体操、新聞 | 新聞を取りに行くとき足がすくむ |
9:00 | 洗濯・掃除 | 洗濯物を干すときに後ろへ突進する |
10:00 | テレビやDVD鑑賞 | |
11:00 | ||
12:00 | 昼食 | 昼食を運ぶとき小刻みになることがある |
●介助者の有無を把握
介助者がいる場合は、歩行の介助をしてもらうことができます。
そのため、介助有無によって歩行を一人でするのか、介助してもらうのか、練習する環境を変える必要があります。
また、薬の効きがoffの状態では、歩行を練習したり、環境を調整しても、歩行障害の改善が難しい場合もあります。
そのような状況を想定して、介助をしながらの歩行練習をしたり、介助者と一緒に歩行練習をして、介助の方法を伝えることも必要です。
具体的な生活場面を想定した歩行練習の実践例
歩行練習が必要な生活場面を把握できれば、できるだけ同じ場面や状況を想定した歩行練習をしましょう。
以下に歩行練習の内容を具体的に紹介します。
●方向転換を想定した歩行練習
方向転換はトイレ内やベッド移乗時など多くの場面で必要となります。
そこで、すくみ足や小刻みがでる場合は、線を引いたり、足跡を貼ったりして視覚的な代償を使いながら歩行練習をしましょう。
また、その場の方向転換を極力避けるように、目標物に到達するまでに、大きく弧を描くように方向転換する練習をすることも1つの方法です。
パーキンソン病は体の左右で障害の程度が異なることが少なくありません。
そのため、歩行練習で左右どちらから方向転換しやすいかチェックしておくことで、得意な方向で方向転換できるように環境を調整することができます。
なお、パーキンソン病の視覚的な代償方法はこちらの記事(作業療法士が解説!パーキンソン病の患者さんのADL指導に使えるアイデア)でも解説しています。
●狭い場所での歩行練習
ドアの開口幅や食卓など動線が狭くなりやすいことを考慮して歩行練習をしましょう。
どれくらいの幅であれば、歩行障害が出現しないかを把握しながら、必要な場合は視覚的な代償を利用して行いましょう。
線を引いたりできない場合は、杖先がL字型の杖やレーザーポイントで線が出る杖を使用して歩行練習をするのも工夫の1つです。
●2つの課題を同時に行いながらの歩行練習
歩きながら会話や考え事、ほかの作業を同時に行うことで、2つの課題を同時に行ったときに現れる歩行障害に対する練習をします。
歩きながらの課題は計算や語想起などいろいろ考えられます。
また、ものを持ちながらの歩行は生活場面を想定して行いましょう。
たとえば、食事の下膳、買い物などで必要なものの大きさや重さが異なります。
できるだけ、同じ環境、同じものを用意して歩行練習をするようにしましょう。
なお、二重課題の練習についての詳細はこちらの記事(二重課題(デュアルタスク)のトレーニング例は?リハビリ室ですぐに使える訓練のアイデア3つ)でも解説しています。
●突進歩行が出る場面を想定した練習
前方へ突進がでるような場合は、以下のような点に注意しながら歩行練習を行いましょう。
- ○歩幅が狭くなってきたら立ち止まる
- ○坂道や長い直線は斜め歩行に歩く(ジグザクしながら歩く)
- ○どうしても制御が難しい場合は抑速ブレーキ付きの歩行車で練習
また、後方への突進を想定して後ろ歩きの練習をしましょう。
実際に後方へ突進しやすいような、高所のものを取る、ドアを開くなどといった動作も合わせて練習しましょう。
そのとき、後方への突進を回避するために、足を一歩後ろに引いてバランスを取って動作をするようにしましょう。
生活場面に生かせる応用的な歩行練習を実施しよう
パーキンソン病の歩行障害は、生活に非常に密着した障害です。
一人ひとり障害の程度が違うだけでなく、生活の状況に合わせて障害がみられる場面が異なります。
どの利用者さんにも同じような歩行練習をするのではなく、利用者さんごとにオーダーメイドをした歩行練習を行いましょう。
また、パーキンソン病は進行性の疾患ですので、体の機能障害も低下しないように、効果的な運動療法を同時に行っていきましょう。
参考:
市橋則明:理学療法プログラムデザイン ケース別アプローチのポイントと実際.文光堂,東京,2009,pp.112-119.
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級