現役理学療法士にインタビュー!訪問リハビリで直面する課題と予防的介入の必要性
今回は、東京都渋谷区を拠点とする訪問看護の事業所である「さくらナースケアステーション」でリハビリテーション部主任を務める浦波唯史さんにお話を伺いました。
理学療法士である浦波さんに、訪問看護ステーションにおける訪問リハビリ業務のなかで、日頃感じている問題点について解説していただきました。
要介護度が改善すると受けられるサービスに制限が生じる
介護保険の中で受けられるサービスには、訪問介護や入浴介護、通所リハビリテーション、訪問看護、訪問リハビリなどさまざまな種類があります。
要介護度が変わると、介護保険のなかで利用できる限度額が変わるため、利用者さんの暮らしに影響が生じるケースがあります。
要介護度が変わることでどのような課題に直面するのか、訪問リハビリのフィールドで活躍されている浦波さんにお話を伺いました。
〇訪問リハビリを経験して、どのような課題があると感じているのか教えてください。
要介護度が改善されると、利用できる単位数の総数が減るため、介護保険で使えるサービスの範囲が狭くなります。
サービスには通所介護(デイサービス)や訪問介護(ヘルパー)のほかに、福祉用具の利用、訪問看護・訪問リハビリなどが含まれます。
要介護度が変わると、こうしたサービスを介護保険内で必要なだけ利用できなくなるケースがあるのです。
なかには自費で追加のサービスを受ける方もいます。
上限の設定については財政の状況から仕方がない部分もありますが、サービスが制限された結果、身体機能の低下に直結する方がいることは問題であると感じています。
実際に私もそのようなケースを経験してきました。
〇たとえば、要介護から要支援に判定が変わったとき、利用者さんはどのようにサービスを取捨選択されるのでしょうか?
本来ならば喜ばしいことなのですが、要介護だった方が要支援になると、利用できるサービスが減るためにがっかりされる方もいらっしゃいます。
利用するサービスについては、やはり外出の機会を確保すること、介護者の負担を減らすことを目的に、通所サービスを優先する方が多い印象ですね。
また、独居の方を中心に生活援助などを目的とした訪問介護の優先度も高くなります。
そうすると、訪問看護や訪問リハビリの利用を減らす、やめるといったケースが増えてくることが実情です。
〇訪問リハビリの利用が減ると、利用者さんの身体機能が低下する恐れがあるということですね。
はい。介護度が改善されたらこれまでのようなサービスを受けられなくなり、機能低下を引き起こすことがあります。
つまり、機能の低下を「予防する」という視点が不十分なのです。
デイサービスでもリハビリを受けることはできますが、どちらかというと集団体操などがメインになります。
現在は理学療法士などのリハビリ職がデイサービスに入ることができるようになりましたが、個別で訓練を提供できる時間は限られています。
また、転倒予防はとても大切なテーマですが、利用者さんのご自宅で身体機能と実際の生活環境を見ながらリスクを減らしていくことが重要です。
しかし、訪問リハビリの利用がなくなるとそのようなフォローが難しくなるという側面もあります。
利用できるサービスが減っても、自己管理できるだけの力をつける
要介護度の判定が変わると、訪問リハビリを減らす・やめる方が出てくるという状況があると伺いました。
訪問リハビリのサービスを利用する頻度が減ったときに備え、日頃からどのような意識を持ってリハビリ業務にあたれば良いのか、そのポイントを伺いました。
〇介護度の改善に伴い、訪問リハビリの利用頻度が減ることを想定し、健康維持を目的とした予防的な取り組みは必要になるのでしょうか?
要介護度が改善され、利用できる単位数の上限が減った場合、訪問リハビリは隔週での利用にすることもあります。
少しでもフォローを継続できれば対応の余地があるのですが、訪問サービスに関してはまったく利用がなくなることもあります。
こうした方々の健康維持に向けた予防的な取り組みは考えていかなければならないと思います。
〇訪問リハビリのなかで、病気や障害の「予防」を意識して行っていることがあれば教えてください。
訪問リハビリを通してできることがあるとしたら、それは利用者さんに対する「教育的な関わり」だと考えています。
利用者さんが、ご自身で自分の健康を管理していく能力を高めること。すなわち、自己管理能力を上げることが大切だと思います。
運動や食事を含む生活習慣について、どうすれば健康面でプラスになるのか、そこを理解してご自身で実践していただく必要があります。
すぐに身につくものではないのですが、コツコツと関わりを継続することが大切だと思います。
渋谷区の「お寺」で始めた、介護予防を見据えた取り組み
浦波さんが、介護事業において予防的な視点を持つことの重要性についてお話ししてくださいました。
具体的に地域でどのような介護予防事業が行われているのか、身近な例をご紹介していただきます。
〇介護予防において、現在身近なところで実践されていることはあるのでしょうか?
渋谷区の地域包括支援センターから、さくらナースケアステーションが依頼を受け、「笑わら亭」というお寺で行う健康体操の取り組みをスタートさせたところです。
ご年配の方にもなじみのある、地域に根ざしたお寺という場所でさまざまな活動を提供していきます。
〇お寺という場でどのような活動を通して介護予防に貢献していくのか、具体的なビジョンがあれば教えてください。
2017年12月に第一回を開催し、その際は参加者の方に狂言を鑑賞していただきました。
エンターテインメントも提供しながら外出の機会を設け、そこで健康体操も行っていきたいと考えています。
私が担当する体操では、単純に体を動かすだけでなく、どうすれば体を楽に使えるのか、理想的な運動パターンを学んでいただければと思います。
ご自身で体の管理をしていくための教育的な要素も取り入れることで、病気や障害の予防に貢献できることが理想ですね。
このような取り組みを継続することで、介護予防の一助になればと考えています。
まとめ
介護保険は自立支援が目的となるため、本来ならば要介護度が改善することは喜ばしいことです。
しかし、それによって十分なサービスが受けられず、機能低下が引き起こされるケースがあることも事実です。
日頃の関わりのなかで、予防的な観点を持ちながら、利用者さんの自己管理能力を上げていくことが必要になるでしょう。
ただ、訪問看護・訪問リハビリなど、ご自宅をフィールドにするからこそできるアプローチも多いため、そうした点も考慮して必要なケアの優先度を考えていくことが求められます。
プロフィール
浦波 唯史(うらなみ ただし)
理学療法士の資格を取得してから14年間、臨床で経験を積む。心臓リハビリテーション指導士・専門理学療法士(運動器)などの資格を有し、さまざまなフィールドで活躍してきた。2016年からは東京都渋谷区に拠点を置く「さくらナースケアステーション」で訪問リハビリに携わり、地域に根ざした事業所づくりに尽力している。