介護施設で行う集団作業療法・レクリエーションの効果を引き出すための視点
介護施設において、作業療法は個別に実施することもありますが、集団で行う場合もあります。
目的によって両者を使い分ける必要がありますが、介護施設では特に「集団」という要素がもたらす影響を考慮する必要があります。
今回は、介護施設における集団作業療法やレクリエーションの効果を引き出すために知っておきたい視点をお伝えしていきます。
目的に応じて集団・個別を使い分けることが大原則
作業療法などのリハビリというと個別で実施するイメージをお持ちの方も多いですが、介護施設などでは「集団」というものを活用する機会が増えてきます。
作業療法士はこの「集団」を上手に扱うスキルを身につけることで、質の高いアプローチを実現できるのではないでしょうか?
集団で活動に取り組むことによって、そこには「相互作用」が生じます。
もちろん1対1の関わりでしかできないこともありますが、集団で活動を行うからこそ得られる恩恵もあるのです。
作業療法士は、アプローチの目的がどこにあるのかによって、集団か個別かを選択していくことが必要になるといえるでしょう。
介護施設などでも、集団でレクリエーションを行う場面があると思いますが、そんなときも作業療法士は活躍できます。
この相互作用を治療的に生かすことができなければ、せっかくの活動が単なる余暇で終わってしまう恐れもあります。
介護施設での集団作業療法やレクリエーションにおいては、集団という要素が加わることで、どのような影響が生じるのか考えながら進めていく必要があるでしょう。
役割認知、仲間意識…「集団」が持つ効果はこんなにたくさんある!
高齢者施設などにおいて、集団で特定の活動に取り組み、その効果を検証した報告も存在します。
報告数はそれほど多いわけではありませんが、たとえば園芸療法などを行って、利用者さんにどのような効果をもたらしたのか調査している文献があります。
杉原ら(2002)は、高齢者施設で園芸療法を1年間試みた結果、認知症の程度に関わらず、参加者全員に精神面での改善の傾向が示されたと報告しています。
参加者の言動に基づいた介助者の記録から、介入の前後で次の点に変化が生じたことが明らかになっています。
- ●活動への関心
- ●集中力
- ●責任感
- ●周囲への関心
- ●会話
- ●役割認知
- ●仲間意識
- ●季節感
- ●生活の活性化 ほか
このように、集団でなにかに取り組むことによって生じる影響は大きく、さまざまな面で恩恵がもたらされます。
介護施設の場合は、上記の例にもあるように、利用者さんが自らの役割を実感することができたり、仲間意識を持ったりすることにつながる可能性が高いでしょう。
介護施設では高齢者の役割や帰属感が失われることを問題視される方は多いですが、筆者も介護施設で働いた経験からそのように感じます。
役割や帰属感の喪失によってもたらされる精神面への影響を考えても、デメリットが生じることは想像しやすいです。
今回の報告で取り上げられている園芸療法は、必ずしもすべての施設で実践できるわけではありません。
ただ、「集団」という要素を効果的に用いることができている例としては非常に参考になります。
役割認知や仲間意識を持つことをはじめ、さまざまな効果を狙って集団作業療法やレクリエーションを展開していきましょう。
普段のレクリエーションでも、集団の魅力をフル活用したい
介護施設では、定期的にレクリエーションを提供しているケースが大半だと思います。
レクリエーションで利用者さんに「楽しかった」と思ってもらえるだけで十分と考える方もいますが、ワンランク上の活動にするためにはやはり集団というものを上手に使っていかなければなりません。
ちょっとしたレクリエーションでも、たとえば得点係や審判係、タイムキーパーなどを利用者さんにお任せすると、「役割」を持っていただくことができるでしょう。
責任が伴う仕事を一部お願いするだけでも、利用者さんにとっては良い刺激となります。
少人数のグループでなにか作品を作るときも、工程ごとに役割分担を行うなどして、できることをお任せするなどの対応をしてみましょう。
介護施設にはさまざまな方がいるので、なかには脳卒中などによる運動障害がある方もいます。
仮に片麻痺によって片手の運動機能が低下している場合でも、重いものを使って物を固定すれば、片手で紙や紐を切るなどの役割をお任せすることは可能です。
このように、ちょっとした工夫で利用者さんの集団参加を促すことも仕事の一つといえるでしょう。
それぞれの利用者さんが遂行できた役割に対しては、スタッフが称賛することで、活動に対するモチベーションにつながっていきます。
集団での共同作業は、あとから利用者さん同士の会話に発展する場合もあります。
集団での活動でなにを目指すのか意識しながら介入することで、より質の高いアクティビティの提供に結びつくのではないでしょうか。
まとめ
集団でなにかを行うことでワクワクしたり、達成感を感じたりした経験のある方も多いことでしょう。
一人で行う活動と違いがあることは実感しやすいですが、集団の作用を細かく分析していくと、その影響はさまざまな面に及ぶことがわかります。
集団を上手に活用できると利用者さんに役割・仲間意識を持っていただくことができる可能性がありますし、それをきっかけに会話や交流につながるケースもあります。
単純に「楽しいアクティビティを提供する」という目的にとどまらず、どうすれば利用者さんに役割や帰属感を与え、生活を変えていけるのかを考えていくことはとても大切です。
集団の作用を突きつめて考えていくと、日々の関わりで活用できる視点を増やすことができるかもしれません。
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参考:
杉原式穂, 小林昭裕:高齢者施設における長期的園芸療法活動の効果. 環境科学研究所報告9: 187-198, 2002.