透析をしている利用者さんへのリハビリはどうしたらいいの?理学療法士が教える運動療法の実践方法
透析治療が必要になる方は年々増加しており、介護事業所のなかでも透析をされている利用者さんは珍しくありません。
しかし透析をされている場合は、どのようなリハビリを行えば良いのか、わからないことも多いのではないでしょうか?
そこで、慢性腎臓病や透析をされている利用者さんにオススメの運動について、理学療法士が解説していきます。
運動をしてもいいの!?透析されている利用者さんに運動が必要な理由
運動がさまざまな病気や障害に効果があるのは広く知られていますが、透析をされている方にも良い効果をもたらすことはご存じでしょうか?
ここでは、なぜ透析をされている利用者さんに運動が必要なのかを解説します。
●心血管疾患(心不全や心筋梗塞など)など合併症の悪化予防が必要
日本透析医学会の報告によると、透析をされている方の死亡原因の第1位は、心不全などの心血管疾患となっています。
そのため、透析をされている利用者さんに対しては、心血管疾患の悪化を予防することが重要になります。
心血管疾患の予防には、高血圧や脂質異常症などの危険因子を改善することが必要になります。
運動は高血圧や脂質異常症、糖尿病の改善に関しても効果的であるため、運動をすることで心血管疾患を発症するリスクを減少させることができます。
●筋力低下を防ぐことが必要
透析に至る原因「慢性腎臓病」になると、筋肉量や筋力が低下しやすくなります。
加藤ら(2014)によると、血液透析患者さんの筋肉量は、男性では78.4%、女性では85.7%減少していたとされています。
筋肉量が減少すると筋力低下が生じて、活動量の低下や日常生活動作の障害を招く危険性があります。
また、Matuzawaら(2014)の報告では、透析患者さんの筋力低下が死亡率の上昇にも関連しているとしています。
このように、筋力低下は活動量を低下させ、日常生活に支障をきたすことはもちろん、生命予後にも影響を与える要因とされているのです。
そのために非常に重要になるのが、適度な運動によって筋力低下を予防することなのです。
●転倒や骨折を防ぎ要介護状態の悪化を防ぐことが必要
河野ら(2017)によると透析患者さんの運動能力の低下は、転倒の直接的な危険因子であるとされています。
透析をされている利用者さんは高齢であるため、転倒による骨折も生じやすく、容易に要介護状態の悪化を引き起こす可能性があります。
そのため、運動を行って運動能力の低下を防ぐことで、転倒や骨折、そして要介護状態の悪化を防ぐことが必要になります。
合併症を予防しよう!オススメは有酸素運動
透析をされている利用者さんは、心血管疾患や高血圧、脂質異常症、糖尿病など複数の疾患を抱えていることが多いです。
特に心血管疾患の悪化は生死に直結するため、しっかりと予防する必要があります。
そこでオススメの運動として「有酸素運動」をご紹介します。
●有酸素運動のメリット
有酸素運動は心臓の機能を改善させて、心血管疾患の発症率を下げるのに効果的な運動です。
また、心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインでは、運動療法は心血管疾患のリスクを高める要因になる「脂質異常」や「高血圧」を改善させる効果があると記載されており、心血管疾患発生の予防をすることにもつながります。
●運動実施の方法
運動は30分以上が理想的ですが、透析をされている利用者さんは疲労しやすく、バイタルも変動しやすいため、5〜10分程度から開始して徐々に時間を延ばすほうが安全です。
運動の強さは自覚的運動強度(Borg scale)を目安として、楽(11)〜ややきつい(13)程度に設定しましょう。
筆者が勤務する通所介護事業所では、運動強度や時間の設定が可能な自転車エルゴメーターを活用して、有酸素運動を実施しています。
自転車エルゴメーターの詳細はこちら(自転車エルゴメーターを使いこなそう!理学療法士がポイントを伝授します)でも紹介しています。
その際は目のまえにBorg scaleの表を貼って、すぐに疲労感を確認できるように工夫しています。
また、椅子に座ってできる有酸素運動としてチェアエクササイズがあります。
音楽を流しながら行うことができるので、介護事業所ではオススメです。
●運動実施の注意点
運動を実施する際は疲労感を確認しながら、強い負担をかけないように注意して行います。
また、めまいや発汗、気分不良などの自覚症状や、血圧、脈拍などのバイタルサインの変動、シャント部分にも注意が必要です。
職員同士でシャント(透析の際に穿刺する部分)の位置をしっかり確認して、血圧測定をする腕を情報共有しておきましょう。
慢性腎臓病による筋力低下を防いで活動量を高めよう!
慢性腎臓病による筋力低下を防ぐためには、負荷を加えながら筋力を鍛える「レジスタンストレーニング」が効果的です。
筆者の経験を交えながらレジスタンストレーニングの方法を紹介します。
●レジスタンストレーニングのメリット
重田(2015)によると、透析患者さんに対するレジスタンストレーニングの効果に関する報告は複数みられ、筋肉量や筋力、歩行能力などに改善が見られたとしています。
また、有酸素運動と併用することで、より効果的な運動になるという報告があり、可能であれば有酸素運動とレジスタンス運動の両方を実践することが望ましいでしょう。
●運動実施の方法
まずは自分の体の重さを利用した、軽めの運動から指導することをオススメします。
可能であれば有酸素運動と同様に「ややきつい」と感じるまでを目安として、負荷を上げていきましょう。
負荷を徐々にあげるためにはセラバンドやトレーニングマシンといった、段階的に負荷量を調整できる器具を使用しましょう。
●運動実施の注意点
あまり強い負荷をかけてしまうと、筋肉や関節に痛みが生じたり、疲労が残ったりします。
その結果として、運動に対する意欲の低下を招くことにもなり、運動継続の妨げになる恐れがあります。
筆者もトレーニングの負荷が強すぎた結果、利用者さんの運動意欲を低下させてしまい、通所サービスの利用を中断してしまったという苦い経験があります。
負荷がきつ過ぎないかどうか、利用者さんへの聞き取りをしっかりと行い、注意深く状態を見ながら実施することが大切です。
また上肢の運動の実施中は、シャント部分に物がぶつからないように注意しましょう。
そのほかの注意点は有酸素運動と同様ですので、自覚症状がないかどうかを確認しながら、バイタルチェックを行うようにしましょう。
まとめ
透析をされているからといって、過度に安静にすることは決して良いことではありません。
特に通所サービスなどを利用されている場合は、活動量を少しでも増やす工夫をすることで、利用者さんの生活の質を高めることができます。
そのために、しっかりと疲労感を聞き取りながら、適切な運動を実施するようにしましょう。
参考:
一般社団法人 日本透析医学会 わが国の慢性透析患者の現況 「2016年死亡患者の死亡原因」(2018年2月27日引用)
Matsuzawa R,Matsunaga A, et al.: Relationship between lower extremity muscle strength and all-cause mortality in Japanese patients undergoing dialysis.Phys Ther 94(7):947-56,2014.
Rantanen T, Era P, et al.: Maximal isometric muscle strength and socio-economic status, health and physical activity in 75-year-old persons. J Aging Phys Activity 2: 206-220, 1994.
河野 健一,矢部 広樹,他:血液透析患者に対する運動療法の最前線.理学療法学44(1):66-71,2017.
心疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2018年2月27日引用)
加藤 明彦:慢性腎臓病におけるサルコペニア.医道のあゆみ248(9):727-731.2014
重田 暁:腎疾患患者に対するレジスタンストレーニング.理学療法32(6):519-528.2015