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認知症の作業療法ですぐに使える!軽度・中等度・重度の段階別アプローチ

認知症に対する作業療法では、症状や状態に合わせてアプローチ方法を変えていく必要があります。
関わり方次第で、患者さんの埋もれた能力を引き出すことができる可能性は十分にあるでしょう。
今回は、認知症の段階に応じたアプローチの視点をいくつかご紹介していきます。

認知症の作業療法で重視すること

病院や介護施設などで、編み物や計算のようなアクティビティを提供する場面はよく見られます。
認知症の作業療法で目指すゴールは、単純に作業活動の機会を提供することではありません。もちろん活動を提供することも大切ですが、それだけなら専門の先生にレクチャーしてもらう方が充実した時間になるはずです。

作業療法では単なる「活動性の向上」だけを目指すのではなく、患者さんの症状・段階に応じたアプローチ・環境設定を通して、可能な限り能力を引き出していくことに意味があります。

認知症の方に対する作業療法で重視すべき基本方針は、次のようにまとめることができます。

  • ◯患者さんの症状・能力を把握すること
  • ◯残存機能に気づき、引き出すこと
  • ◯問題行動の背景を探り、対策すること
  • ◯ご家族と情報共有を図ること

どれも重要なアプローチですが、患者さんの「残存能力を引き出す」ということは特に意識しておきたいところです。
ここは作業療法士が丁寧に解釈していかなければ、誰も気づかないまま埋もれてしまう可能性があるからです。

認知症の患者さんでは、ちょっとした環境設定によって行動が大きく変容することもあります。
また、その方の生活史を丁寧にひも解いてみると、意外な能力が埋もれていることに気がつくケースもあります。
日々の臨床のなかで患者さんの生活を変えるヒントを探しながら、できることを増やすような関わりをしていきたいところです。

認知症の段階別アプローチ方法

認知症の作業療法においては、患者さんの段階によってアプローチの仕方が異なります。
段階によって、どのような視点を持って患者さんと関わっていけば良いのか、具体的なアプローチ方法を交えて解説していきます。

●軽度

軽度の認知症の方に対しては、記憶障害に焦点を当ててアプローチしていきます。
認知症の程度が重くなるとカレンダーやメモのような補助的手段での対応は難しくなりますが、軽度の方ではこうしたツールが効果を発揮するケースも多いです。

筆者が担当した患者さんのなかに、見えるところに付箋を貼る習慣を持つことで、効果的に記憶を補うことができた方がいました。
この症例では、繰り返しの使用により手続き記憶として定着していったことが推察されます。

また、軽度の認知症の方は「わからないことがわかる」状態であり、不安や焦燥が強くなります。なにかを忘れることには、想像以上に不安が伴うものです。
患者さんの不安・焦燥へ十分配慮する必要があります。

●中等度

中等度の認知症の方では、いいたい言葉を想起できない喚語困難がしばしば観察されます。文脈から作業療法士が言葉を補い、わからないことへの不安を取り除きます。
活動においても同様に、「できなかった」で終わらないように配慮してください。

また、できるだけ自分で実施できる生活上の動作を残しておけるように介入します。
たとえば、スイッチを目立つようにしておけば自分で洗濯ができるなど、工夫次第で行動上の制限が最小限に抑えられるかもしれません。
自分でできる動作を可能な限り残すことは、ご本人・ご家族にとって精神的な支えになるため重要度は高くなります。

人間は情動を伴う記憶の方がよく覚えていられることが知られており、これは「情動記憶」と呼ばれます。
認知症の方でも同様に、達成感や喜びが伴う記憶は残りやすいため、
そうした観点からも患者さんが「できた」と思える成功体験へ導くことが大切です。

●重度

重度の認知症の方に対するアプローチでは、まず情報をどのように入力するかを考慮します。
できるだけ理解しやすい情報入力のあり方を考え、短い言葉で伝える・使う物以外は片付けるなど、不必要な刺激は取り除きます。
その上で、患者さんが理解しやすい情報の種類を分析し、写真や絵、ジェスチャーを使うなど試行錯誤していきます。

また、重度の認知症の方では徘徊や暴力などの行動に頭を悩ませるご家族、介護者も少なくありません。
しかし、こうした行動の背景には必ず理由があります。
患者さんの行動を理解する上で手がかりになる情報は、その方の生活史です。問題行動の多くは「過去の自分」と接点があることが多いからです。

たとえば、社会で活躍してきた方が、現在の状況に対する葛藤から粗暴行動に及んでいるケースがあります。
こうした場合は作業療法の場面で審判役などをお任せすることで、情緒的に落ち着きを取り戻せることもあります。

また、重度の認知症の方では、非常に反応性が乏しい方も多いです。
こうした患者さんへのアプローチを考える際にも、生活史は非常に役立ちます。
筆者の経験では、活動性の低い患者さんが過去に書道の先生をされていたことに気がつき、筆で絵を描く活動にお誘いしたところ積極的に取り組んでいただいた経験があります。

ワンランク上の評価を実施するには?

認知症の段階にかかわらず、作業療法では記憶障害の程度や生活上のスキルについて評価を行っていくことになります。
このとき、ちょっとした視点が増えるだけで患者さんへの理解が深まっていくものです。筆者が有効と感じる評価方法のエッセンスをお伝えしていきます。

●認知検査では点数だけでなく「失点の仕方」に注目

認知機能の検査法として、長谷川式簡易知能検査(HDS-R)やMMSEが広く普及しています。
こうしたスケールでは点数だけで評価してしまいがちですが、「どのように失点しているのか」まで分析することを習慣化しましょう。

たとえば、合計点が高くそれほど心配がないように思える患者さんでも、「季節」など見当識の項目で誤りがあれば注意が必要です。
また、ほかの項目で失点していなくても「桜・猫・電車」の遅延再生でエラーがある場合、生活場面で影響が出ていないか注意深く解釈していく必要があります。
このように、質的な部分まで深めて評価することでさまざまな手がかりが得られるのです。

●生活能力や精神状態の評価は定期的に

定期的に「N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)」や「N式老年者用精神状態評価尺度(NMスケール)」を用いて、患者さんの状態を評価していくことをおすすめします。
観察評価だけでなく、こうした評価表を用いることで、経過が追いやすくなるためです。
定期的に記録していくことで、作業療法の効果があったのか検証する材料にもなるでしょう。
効果が認められない場合は、目標やアプローチ方法を見直すことも可能になります。

まとめ

認知症患者さんの作業療法においては、単純に活動を提供するだけでは本来の目的を達成できません。段階別にニーズを見極め、生活史などの個人因子をひも解きながら関わっていくことが必要になります。
患者さんの能力を最大限に引き出すことを使命と捉え、段階に応じたアプローチを実践してみてください。

参考資料
坪田貞子:身体作業療法クイックリファレンス.文光堂.2008

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