高齢者の入院関連機能障害を防止するには、リスクを知って働きかけよう
高齢者の増加に伴い、入院関連機能障害が問題になっています。
急性疾患の入院では治療が優先され、入院関連機能障害の予防対策は後回しになりがちです。
本記事では入院関連機能障害とはなにか、なぜ予防が必要なのかをお伝えします。
入院関連機能障害とは?
入院による体力や機能の低下を入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)といいます。
高齢者は入院することで体力や機能が低下し、入院前のADL・IADLまで回復しないことがよくあります。
入院のきっかけになった疾患自体は良くなっても、入院関連機能障害を発症すれば退院後のQOLが著しく損なわれてしまいます。
入院関連機能障害は、リスク因子を把握し、場合によっては入院前から対策をしなければなりません。
退院支援システムの普及により、「入院前から退院後の生活を見据えた関わり」という考え方は一般的になりつつあります。
しかし、入院によって変化した状態(たとえば歩けなくなってしまったなど)に応じた退院支援は積極的に行われているのに対し、入院前の状態を維持して退院につなげようという予防的な対策はまだ不十分な印象です。(退院支援についてはこちらの記事もご参照ください)
入院関連機能障害のリスク因子
入院関連機能障害を発症しやすいのはどんな高齢者でしょうか。
以下は同じ90代の女性です。
- ○Aさん:自立して生活し、コーラスなど趣味を謳歌している
- ○Bさん:寝たきりで介護を受けている
上記のお二人をくらべたとき、入院関連機能障害のリスク因子を知らなくても、どちらがより入院関連機能障害を発症しやすいかは一目瞭然でしょう。
Bさんのように要介護状態の方や、虚弱な高齢者は入院関連機能障害のハイリスク群です。
●リスクをどう評価するか
厚生労働省によると、平均寿命と健康寿命の差は男性で9.13年、女性で12.68年となっています。
つまり男女とも老後に10年前後の「不健康な期間」があるということです。
この期間の入院は、入院関連機能障害を発症するリスクが高くなります。
では、そのリスクはどのように評価するか?といえば、高齢者の特徴から考えてみると分かりやすいのではないでしょうか。
「高齢者は複数の慢性疾患を有していることが多く、加齢に伴ってさまざまな老年症候群を呈し、自立した生活が困難になってくる」
上記の特徴から考えると、
などがあれば、入院関連機能障害のリスクが高いと考え、予防に努めるべきといえるでしょう。
入院関連機能障害を防止するために
入院前の予防策、入院中の防止策を考えてみましょう。
すでに要介護認定を受けて介護サービスを利用している方であれば、訪問診療や訪問看護、かかりつけ医との連携など、在宅での加療の可能性を探ってほしいと思います。
筆者も病院に勤務していた頃は、「在宅では見守り程度のケアしかできないだろう、高齢の患者さんの治療は入院して行うのが安全だ」と考えていました。
考えが変わったのは訪問看護を始めてからです。
ご家族の希望を確認した上で、軽い肺炎などは在宅医療で対応することもあるのですが、在宅ならば環境が変わらず、普段の生活をしながら治療を受けることが可能です。
手術など入院を回避できない予定入院では、入院前からリハビリテーションを実施し、体力をつけて入院に備えることで、入院関連機能障害のリスクを減らすことができます。
急な入院では、入院早期に患者さんのリスクを評価し、ただちに介入しましょう。
入院関連機能障害の発症が疑われたら、退院を検討する、リハビリテーションを開始するなど早急な対策が必要です。
●一番効果的な予防策は?
入院に関連して起こる機能障害ですから「できるだけ入院させない」ことが一番の予防策です。
そのためには、「要介護状態にさせない・虚弱な高齢者を増やさない」ことが一番効果のある方法といえます。
先述したAさんが2週間ほど入院した際、
「こんなに寝てばかりいたら歩けなくなってしまう」
と自ら主治医に訴え、ベッド上でもリハビリテーションを実施したことで、退院後もADL・IADLの低下はみられませんでした。
Aさんは地域の介護予防教室へ通っており、運動の重要性を認識していたのです。
国は2025年に向けて地域包括ケアシステムを推進しています。
2018年の介護保険制度改正では、高齢者の自立支援・重度化防止にかかわる施策が強化されました。(介護保険制度の歴史、高齢者の介護予防については「2018年度介護保険制度改正のポイント まずは介護保険の方向性を把握しましょう」、「2018年介護保険制度改正で保険者機能を強化!地域ごとに取り組む高齢者の介護予防」で詳しく解説しています)
後期高齢者の医療費は医療費全体の約40パーセントを占め、要介護認定者は年々増加しています。
社会全体で高齢者の介護予防に取り組み、元気な高齢者が増えれば、医療費や介護給付費を削減できるだけではなく、入院関連機能障害を減らすことにもつながるのではないでしょうか。
入院関連機能障害予防は病院だけではできない
入院関連機能障害の予防は病院だけで対策できるものではありません。
地域と病院がそれぞれの役割を果たし、連携することで効果的に予防することができます。
お互いに遠慮せず、密接な連携が取れるようになることが、来たる超高齢化社会に向けた課題といえるでしょう。
参考:
厚生労働省 平均寿命と健康寿命をみる.(2018年11月26日引用)
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執筆者
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訪問看護師の橘ゆみです。国立病院附属看護学校卒。
日赤病院、総合病院にて手術室、小児、NICU、ICU、循環器科、脳神経外科等に勤務。
病棟主任、看護学生の臨地実習指導者として充実した日々を過ごしました。
結婚・出産・子育てとライフスタイルにあわせて働きかたを変え、現在は訪問看護師をしています。
高齢化が進む日本において介護や介護予防は大変重要な分野です。
分かりにくい介護保険制度をできるだけ分かりやすく、また介護に関する有意義な情報をお伝えしていきたいと思います。
保有資格:看護師免許、臨地実習指導者