整形外科・リハビリ病院が抱える課題(ヒト・モノ・カネ)をサポート

  • Facebook

クリニック・治療院 OGメディック

この記事に関するタグ

ICUで行うリハビリ!今注目を集める早期介入するべき3つの理由

ICUにおけるリハビリは、なかなかなじみのないものです。
本記事では、筆者がICU専従セラピストとして勤務していた経験をもとに、ICUにおけるリハビリの3つの理由をご紹介します。

ICUでは全身状態の評価と早期離床が重要!

ICUでのリハビリは、教科書的には廃用予防(関節の可動性や筋力の維持)や早期離床が目的であるとされますが、実際の現場では以下の問題点が挙げられます。

  • ●いつまで廃用予防をすればいいか
  • ●離床しても状態が悪くならないか
  • ●なにを基準に離床を進めるのか

これらの疑問に関しては、残念ながらリハビリ職の養成校では系統立てて学ぶ機会が少ないです。
ここでは、全身状態の評価と離床練習について、その介入方法について触れてみます。

1)全身状態の評価とは?

一般的なリハビリでは、機能訓練や動作訓練を行うことが主流であり、そのために関節の可動性や筋力の評価が必要となります。
しかし、鎮静中の患者さんや意識障害のある患者さんに対して、同様の評価を実施してもあまり意味がありません。

  • ●病態が安定しているか
  • ●治療の進捗状況
  • ●今できることはなにか

まずはこれらの状況を理解してから、リハビリのプログラムを考えます。
呼吸や循環の状態を的確に把握して、介入するとどんな変化が起こるかを予測することが重要といえます。

2)離床はタイミングが命!

ICUでは、呼吸や循環の状態を維持するために、薬剤を用いて意図的に鎮静状態にすることが多いです。
しかし、長期にわたる鎮静はせん妄と呼ばれる一過性の認知機能低下を招くことがあり、それによって食事摂取不良や離床意欲の低下などが遷延すると、生命予後に影響します。
従って定期的に鎮静を中断し覚醒を促すことが重要になり、また離床はこのタイミングで進めることが有用といえます。
しかし治療状況が理解できていないと、
「今寝かしているのになにをやっているの!」
などと、ICUスタッフと認識のズレが生じてしまいます。
ICUにおいて、全身状態の評価から離床のタイミングを判断することは、リハビリを実施するにあたり最重要項目です。
   

ICUで早期のリハビリ介入が重要な3つの理由

本記事のテーマである、早期介入の必要性と目的については以下の3つが挙げられます。

1)廃用症候群の予防

ICUでは、安静臥床に全身の炎症や低栄養状態が加わることによって、運動機能の低下が加速します。
近年では、ICU入室中の筋力低下(ICU-AW)に関しても着目されていますが、シュヴァイカート(Schweickert 2009年)らによると、早期リハビリの介入によってICU-AWは改善する傾向にあると報告されています。
人工呼吸器や昇圧剤(血圧を上げる薬剤)を使用している患者さんでも、ベッド上での筋力トレーニングや呼吸練習を継続することが重要です。
従来の概念である関節可動域の維持に固執するのではなく、退室後や退院後を見据えた介入が必要であることを意識しましょう。

2)合併症の予防

ICU入室中の合併症として、肺炎や無気肺などの呼吸器合併症が多く挙げられます。
肺炎に関しては、人工呼吸器装着中に発症する肺炎(以下VAP)の発生が多く、2010年に日本集中治療医学会が作成した人工呼吸関連肺炎予防バンドルによると、30°以上のヘッドアップや座位練習が予防に効果的とされています。
ただし、人工呼吸器を装着している患者さんでは、マンパワーに加えて適切な座位姿勢の保持や呼吸練習などが必要です。
ここでは姿勢保持の評価に加えて、過度な努力を必要としない起き上がり練習などが有用であり、リハビリ専門職の強みを生かすことができます。

3)在院日数の短縮

急性期では、早期からのリハビリ介入によって在院日数の短縮化が求められます。
廃用症候群や合併症が起こると、日常生活活動(以下ADL)能力が低下し、回復までに多くの時間を必要とします。
筆者の経験上、ICU退室時に自力座位ができない患者さんの場合、一般病棟へ移動したあと長期のリハビリを必要とし、入院前のADLまで改善しない方もおられます。
その結果、回復期病院などへの転院調整が必要となり、入院期間が長くなるケースも多いです。
ICUでのリハビリ介入は、病院の運営にも関係する重要な取り組みであるといえるでしょう。

ICUではリハビリが敬遠される?必要なスキルは病態生理学とコミュニケーション能力!

病態を把握する能力に加えて、チームアプローチのためにコミュニケーション能力も重要となります。
ここでは、その2つのスキルについて説明します。

1)病態生理学  

ICUにいる患者さんは病態が不安定なため、病気の重症度と治療の進捗状況を理解しておくことが重要です。
急性心不全を例に挙げると、

  • ●心不全の原因は理解できているか
  • ●なぜ人工呼吸器が装着されているのか
  • ●なぜ血圧が低いかを理解できているか

など、現在の状態によって慎重に適応を判断する必要があります。
ここで的確な判断ができないと、いつ離床を開始すればいいのかわからないという壁に阻まれてしまいます。
「肺炎って肺の病気でしょ?」
「心不全は心臓が原因でしょ?」
と、短絡的に考えがちですが、実際はそこまで単純なものではありません。
「重要なことは理解できるが、知識不足で自信がない…」
これまでの筆者の経験上、ICUにおけるリハビリが敬遠されがちな理由はここにあると考えます。
では、苦手意識を克服するためには独学で知識を得るしかないのでしょうか?
その答えは、次にご紹介するコミュニケーション能力が高いかどうかにかかっています。

2)コミュニケーションの重要性

  
病態の理解に苦戦するセラピストは多いですが、一人で悩んでいるだけでは解決できません。
ICUでは、毎日朝に救急医を含めた関連スタッフ間でミーティングが行われます。
ここに参加することによって、ほかの職種がなにを考えているか、今の治療状況はどうなのかなど、自身の評価と照らし合わせることが重要です。
加えて、他職種のスタッフと良好な関係を築くためのコツは、参加の際に以下の項目を意識することです。

  • ●病態や今後の治療方針について調べておく
  • ●リハビリについて意見する場合は専門用語を用いらない
  • ●わからないことはミーティング後に必ず確認する

ただし、わからないことを正直に聞くことと怠慢は別物であり、調べればわかることを逐一聞かないように注意するべきです。
「しっかり勉強しているし、このセラピストに任せると大丈夫だ!」
と、信用を得るための行動を心がけてください。

まとめ

 
本記事では、ICUにおけるリハビリの目的と求められるスキルについてご紹介しました。
その神髄は、早期介入により廃用予防を図りつつ、適切なタイミングで離床を進めていく、いわば攻めと守りのリハビリテーションなのです。
介入方法や指導内容は施設によって異なりますが、導入の段階から病棟スタッフと協議するなどして、柔軟にコミュニケーションをとれる環境づくりから始めることが成功への近道といえるでしょう。

参考:
日本集中治療医学会J-PADガイドラン作成委員会 日本版・痛み不穏せん妄管理ガイドライン.(2018年1月17日引用)
日本集中治療医学会 早期リハビリテーション検討委員会 集中治療室における早期リハビリテーション?早期離床やベッドサイドからの積極的運動に関する根拠に基づくエキスパートコンセンサス?.(2018年1月17日引用)
Schweickert WD,Pohlman MC, et al.: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated,critically ill patients:a randomised controlled trial. Lancet373:1874-82, 2009.
日本集中治療医学会 人工呼吸関連肺炎予防 バンドル2010改訂版.(2018年1月17日引用)

コメントをどうぞ

ご入力いただいた名前・コメント内容は弊社がコメント返信する際に公開されます。
ご了承ください。
メールアドレスが公開されることはありません。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)