テニス肘の治療は患部以外も忘れずに!ストレッチやトレーニング、フォームの修正の方法を紹介
テニス肘の治療には、けがが起きている肘関節周辺はもちろん、けがの原因となっているフォームやグリップの握り方なども修正する必要があります。
また、痛みのあるうちに無理なトレーニングをすることは、症状の悪化につながるため、けがの状態に合わせた治療が必要です。
そこで、けがの状態に合わせたテニス肘のリハビリ方法や、肘周辺はもちろん、患部外のトレーニング方法も合わせて紹介します。
治療は段階的に!急性期は生活指導や患部外トレーニングが重要
炎症による痛みがある場合、無理に競技を続けたり、日常生活で負担をかけたりすると、症状の悪化や慢性化を引き起こす可能性があります。
そのため、治療は段階的に行い、痛みがある場合は競技を中止して、生活指導や患部外のトレーニングをする必要があります。
●段階的なリハビリ方法の目安
いきなり患部のトレーニングをすると、損傷部位へのストレスになってしまい、症状の悪化を招きかねません。
以下に段階的なリハビリの目安を示します。
状態の目安 | グリップ時の痛みあり 握力が健側の2/3未満 |
グリップ時の痛みあり 握力が健側の2/3以上 |
グリップ時の痛みなし 患部外の動作の習得 |
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リハビリ内容 | プレーの休止 炎症緩和 生活指導 患部外トレーニング ストレッチ |
尺側グリップの練習 患部外トレーニング |
フォームの改善 患部のトレーニング |
急性期で炎症症状が強い場合は、ぞうきんを絞ったり、ドアノブをひねったりという動作で痛みがみられ、さらにひどくなると書字や箸の使用でも痛みがでます。
テニス中では練習で常に痛みを感じたり、ラケットを握るだけでも痛みがでます。
そのような場合には、プレーを休ませて、炎症症状の緩和や患部への負担軽減をしながら、患部外のトレーニングをします。
また、握力もテニス肘の状態把握する上での目安となります。
定期的に測定して、リハビリ内容への参考にしましょう。
●生活指導のポイント
テニス肘が中重度の場合、日常生活における動作でも負担が生じてしまい、症状の悪化を引き起こす危険性があります。
以下のポイントを踏まえて痛みの管理をしましょう。
- 1.肘伸展、前腕回内での把持動作を避ける
- 2.痛みのでる動作は反対側でする
- 3.サポーターを使用する
このような指導に加えて、重量物を持つ、ぞうきんを絞る、タイピングなど日常生活で痛みが生じやすい動作を伝え、極力実施しないように助言します。
●患部外トレーニングの方法
患部の安静が必要な場合、患部外のトレーニングをして、フォームの修正や競技復帰をスムーズに行えるようにします。
とりわけ、体幹や下肢のトレーニングはフォームや手打ちの修正に必要です。
以下におすすめの患部外トレーニングを紹介します。
1.体幹深部筋のトレーニング
ドローイングやダイアゴナルといった体幹のインナーマッスルを鍛えるトレーニングは、四肢の運動に先行して働き、アライメントに影響を及ぼします。
より負荷をかけたい場合は、バランスクッションなどを支持面にしてプランクやハンドニーといった体幹トレーニングをするのがおすすめです。
負荷をあげる場合、骨盤の前後傾や脊柱の前後弯、上肢の過剰な緊張などの代償に注意が必要です。
2.胸椎や肩甲帯のトレーニング
胸椎や肩甲帯の動きが悪いと、手打ちになってしまい肘への負担を強めます。
そのため、胸椎や肩甲帯の動きを改善することが重要です。
フォームローラーを胸椎に入れた状態で、肩屈曲をして胸椎伸展を促したり、cat&dogの運動をして胸椎や肩甲骨の滑らかな動きを獲得したりするようにしましょう。
3.正しい姿勢でのスクワットやランジエクササイズ
体幹と下肢をスムーズに連動させて動かすことは、正しいフォームを獲得するために重要になります。
以下のポイントを押さえながら、スクワットやランジを正しい姿勢で行えるように練習しましょう。
- ○knee-in/toe-outのアライメントにならないようにする
- ○骨盤や体幹が極端に傾斜しないようにする
鏡を用いたり、ラケットを脊柱にそうように当てたりすることで、正しい姿勢をチェックすることができます。
●疼痛管理には物理療法もおすすめ
疼痛や炎症の緩和に物理療法の使用もおすすめです。
超音波による非温熱作用を利用すれば、急性期でも疼痛緩和が期待できます。
また、微弱電流による低周波治療はスポーツなどの受傷直後の疼痛コントロールに有効とされています。
OG技研のフィジシステム CT-7では、1台で超音波や微弱電流などの低周波治療ができ、プロトコルでテニス肘に対する治療も選択できるためおすすめです。
テニス肘のストレッチやトレーニングのポイント
テニス肘の発生部位として多い、短橈側手根伸筋(extensor carpi radialis brevis muscle:ECRB)をはじめとする前腕伸筋群のストレッチやトレーニングを紹介します。
また、テニス肘になりにくい環指と小指に力を入れて握る尺側グリップを獲得するためのトレーニングも解説します。
●前腕伸筋群のストレッチ方法
肘を伸展位、前腕を回内位にした状態で、ストレッチする側と反対の手で手関節を掌屈させます。
この際、手指を屈曲すると総指伸筋を選択的にストレッチできます。
●ECRBのトレーニング方法
前腕回内で机の上に腕を置いて、環指、小指をグリップした状態で、手関節の背屈運動をします。
可能な場合は、500g程度のダンベルなどを尺側グリップを意識して把持し、手関節の背屈運動をします。
●尺側グリップ獲得のためのトレーニング方法
前腕を机の上に置いて、ラケットや棒を尺側で握ります。
その状態で、ラケットを倒すように前腕の回内外を繰り返します。
示指や中指でグリップをしないように注意が必要です。
再発予防のために必要なフォームの修正の方法
不適切なフォームが改善されないままプレーを再開すると、テニス肘の再発につながります。
特にスイング時に肩甲帯と体幹や、体幹・骨盤と下肢が連動して動かないことで、手打ちになってしまい、肘への負担が強まります。
そのため、フォームをしっかりチェックして、悪いフォームを修正しましょう。
●座位で肩甲骨や体幹の連動性を意識
片手バックハンドのフォロースルーやサーブのテイクバックでは肩甲骨の内転と体幹の回旋をうまく引き出すことが必要です。
そのため、座位で両手を頭の後ろに起き肩甲骨内転を維持しながら、体幹を左右に回旋して、連動した動きを習得しましょう。
慣れてくれば、同じ姿勢でサーブの素振りをして、フォーム修正を図りましょう。
●セラバンドを活用した修正方法
フォームの修正をする場合、軽く抵抗をかけて筋肉の収縮を加えながらすることで、正しい運動を意識しやすくなります。
そのため、セラバンドを活用することがおすすめです。
たとえば、サーブやフォアハンドのフォーム修正では、セラバンドを引っ張り、抵抗をかけながら肩甲骨の内転や体幹の回旋を実施することで、各動作を連動して動かすように意識します。
●軸足への体重移動
骨盤が後傾していると重心が後方に残りやすく、体重移動がうまくできないため、軸足に体重が乗りにくくなります。
そのため、骨盤の位置を意識しながら、軸足へとしっかり体重が乗るように修正しましょう。
●骨盤・下肢と連動した回旋動作の練習
テニスの打ち方に必ず必要な回旋動作は、体幹の回旋はもちろん、骨盤、股関節の回旋運動と連動することで、十分な可動域や滑らかな動作につながります。
打ち方別にチェックして、回旋動作で体幹、骨盤股関節の両方を使うように練習しましょう。
けがの原因を取り除いてテニス肘の再発を予防しよう
テニス肘のリハビリでは、けがの治療はもちろんですが、患部外のトレーニングやフォームの修正をして、けがの原因となっている要素を取り除き、再発を予防することが重要です。障害の状態、発生の原因を評価をして、状態に合わせて適切な治療を選択しましょう。
また、整形外科ではタイピングや家事など上腕骨外側に負担がかかる作業をする患者さんも上腕骨外側上顆炎で来院されます。
テニス競技者以外にも、ご紹介した対処法やストレッチは適応できますので、参考にしていただければ幸いです。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級