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急速に進行する筋力低下、ICU-AWという病態を理解しよう

急性期医療においては、廃用症候群を予防するために早期離床が重要であると認識されています。
しかし、安静期間が短いにもかかわらず、全身の筋力が急激に低下する病態があることをご存知でしょうか?
集中治療領域で注目されているICU-AWという病態について、その概要やリハビリテーションの必要性についてご紹介します。

ICUにおける、ICU-AWをわかりやすく解説

ICU-AWとは、急速に進行する全身の筋力低下

ICU-AWとは、急速に進行する全身の筋力低下

ここではまず、ICU-AWの病態についてご紹介します。

●ICU-AWは神経や筋肉の障害が原因

ICU-AW(ICU acquired weakness)とは、ICU入室後の重症患者さんにおいて、数日以内に発生する急性の筋力低下を総称したものです。
ICU-AWの原因は、神経伝導速度の検査結果などから、主に以下の3つに分類されます。

◯CIP(critical illness polyneuropathy)
polyneuropathyとは神経原生のことを指し、神経を栄養する微小循環の障害により、軸索損傷をきたすことで筋力低下が進行します。

◯CIM(critical illness myopathy)
myopathyとは筋原性という意味で、筋肉に異常が起こることによって筋力低下をきたします。
全身の炎症や安静臥床により、筋肉を構成するタンパクであるミオシンなどが急激に減少することが原因と考えられています。

◯CINM(critical illness neuromyopathy)
CIPとCIMの両方の病態を呈している状態がCINMと呼ばれます。

しかし、ICU入室早期からこれら3つを鑑別することは困難であるため、総称してICU-AWと呼ばれています。

●ICU-AWはなぜ発症するのか

ICU-AWはなぜ発症するのか

ICU-AWは神経や筋肉の障害によって急速に筋力低下が進行しますが、発生するリスクファクターについて少しずつ明らかになってきました。
主なリスクファクターは以下のとおりです。

  • ◯高血糖(血糖コントロール不良)
  • ◯敗血症
  • ◯多臓器不全
  • ◯全身性炎症反応症候群
  • ◯腎代替療法(透析)
  • ◯カテコラミンの投与
  • ◯深い鎮静
  • ◯ステロイドの投与

このほかにも、人工呼吸器を使用している、臥床が続いているなどの因子が挙げられますが、決定的な因子は明らかになっていません。

●発症早期には四肢の筋力低下で診断する

ICU-AWの診断には神経伝導速度の検査や筋生検が有用ですが、まず最初の診断基準として四肢の筋力を評価します。
筋力評価にはMRC(Medical Research Council)スコアと呼ばれる評価法が用いられ、上肢と下肢の筋力低下の程度で判断します
この評価方法は徒手筋力検査法(MMT)を使用し、肩関節外転、肘関節屈曲、手関節伸展、股関節屈曲、膝関節伸展、足関節伸展を評価します。
上記関節を左右ともに評価し、60満点中の48点未満でICU-AWと定義されます
中枢性の神経障害や運動器障害など、ほかに筋力低下が出現する原因がないことが前提条件になりますが、患者さんの覚醒状態が悪い場合は評価困難です。

ICU-AWの予後は厳しい?ADLやQOLが大きく低下する

ICU-AWでは急速に全身の筋力低下が進行し、重症の場合は呼吸筋や嚥下筋の筋力低下も出現します。
発症後の経過や機能的予後について、現在の知見をご紹介します。

●発症すると寝たきりの生活になることも

敗血症やその他の重症感染症などでは、鎮静下での人工呼吸器管理や床上安静が必要になるため、その間に急速な筋力低下が進行します。
実際には、鎮静管理を終了し覚醒を促す時期になった時点で、四肢の運動障害が明らかになることが多いです。
重症の場合、MMTが1〜2の状態まで筋力低下をきたすこともあり、ベッド上座位や立ち上がりに介助が必要になります
呼吸筋の低下により、人工呼吸器を外せない状態になることもあるため、ICUに入室している期間も長くなります。
また、運動機能の低下によって転倒リスクが高まることや、食事摂取が難しくなるなど、二次的な障害が発生することも考えられます。
そのため、ICU-AWを発症した患者さんが無事に退院できたとしても、ADLやQOLが大幅に低下することが懸念されます

●長期的にも運動機能が完全に回復しない

廃用症候群による筋力低下の場合、リハビリの継続によって徐々に筋力やADLは改善しますが、ICU-AWの予後に関しては少し異なります。
HermansらによるICU-AWに関するレビューでは、ARDS(急性呼吸促迫症候群)によりICU-AWを呈した患者さんの機能的予後について記述されています。
ARDSを発症後に退院した患者さんの2年間のフォローアップでは、発症していない患者さんと比較して、身体機能やQOLが有意に低下していたという報告がされています。
その背景には、単に四肢の筋力が低下することだけでなく、呼吸機能の低下や嚥下障害による栄養状態不良、また抑うつ状態などさまざまな理由が挙げられます。
敗血症やARDSなど、集中治療室での管理が必要な患者さんはICU-AWを発症する可能性が高く、生命予後や機能的予後が不良な病態であるといえるでしょう

ICU-AWの予防はできる?早期リハビリの重要性

ICU低下を招かないためのリハビリ

ICU-AWは重症化すると生命予後やADL低下に直結する病態ですが、発症後の有効な治療は確立されていません。
ここでは、発症予防に効果的な早期リハビリの必要性について、また筆者がICUでのリハビリで心がけていることについてご紹介します。

●ICU-AWに対する早期リハビリのエビデンス

ICU-AWに対しては、効果的な治療方法が確立されておらず、発症を予防することが重要になります
ICU-AWの発症に関しては、急性期治療における血糖管理不良や、ステロイドの使用などが要因として考えられていますが、関連性は明らかになっていません。
早期リハビリの効果については、日本集中治療医学会が作成した早期リハビリに関するエキスパートコンセンサスに、ICU-AWの予防と治療に関して述べられています。
そこでは、「早期離床や早期リハビリがICU-AWを予防できるというエビデンスは乏しく、機能的な改善に関しても同様である」と結論づけられています
しかし、エビデンスとしては確立されていませんが、実際の臨床場面では早期リハビリで改善が見込めるケースが多く、今後は大規模試験などでの検証が望まれます。

●重要なのは早期覚醒とせん妄予防

早期リハビリのエビデンスが不十分であっても、実際の臨床ではICU-AWを予防するために取り組むべきことは多くあります。
深い鎮静や人工呼吸器管理はICU-AWの発症に関与しているため、まずは早期覚醒を目指すことが第一です
また、集中治療におけるせん妄発症は、再鎮静や人工呼吸離脱困難などにつながるため、早期の覚醒とせん妄予防が重要になります。
筆者の施設では、せん妄予防の取り組みとして、リアリティオリエンテーションに力を入れています。
リアリティオリエンテーションとは、日付や場所などの見当識をはじめ、自分のおかれている状況や周囲環境を理解することにより、認知機能低下を予防する取り組みです
その具体的な実施例を以下に挙げてみます。

  • ◯部屋にカレンダーをおく
  • ◯ラジオやテレビを視聴する
  • ◯外の景色を見る
  • ◯毎日の出来事を記録する
  • ◯入院後の経過を説明する

救急医や担当看護師さんとその日の治療方針について共有し、ケアの時間や家族の面会時間に合わせて離床を行います
また、日々の場面を写真におさめた日記帳を作成することにより、毎日の出来事を確認してもらいます(写真撮影はご家族の了承を得ています)。
これら多職種での取り組みによって、鎮静期間や人工呼吸器装着期間を短縮することができ、結果的にICU-AWを予防できると考えています。

ICU-AWの予後改善には、チームアプローチが効果的

敗血症をはじめとした重症感染症はICU-AWを発症するリスクが高く、一度発症すると長期的な予後も不良になります。
現在、早期リハビリが効果的であるという十分なエビデンスは得られていませんが、ICUでのリハビリを通じて、人工呼吸器からの離脱や早期覚醒を進めることはできます。
集中治療領域のリハビリにおいて早期離床は重要なポイントであり、ICU-AWの予防や機能改善のためにも、チームアプローチが重要であるといえます。
そのためには、多職種間での情報共有をはじめ、集中治療領域に特化したスタッフの育成が鍵になるといえるでしょう。

あわせて読みたい:
「ICUで行うリハビリ!今注目を集める早期介入するべき3つの理由」
「苦手意識を克服しよう!ICUでのリハビリでは病態の評価と多職種連携がカギ」

参考:
一般社団法人 日本集中治療医学会:集中治療における早期リハビリテーション 根拠に基づくエキスパートコンセンサス.
https://www.jsicm.org/pdf/soki_riha_1805.pdf(2019年9月29日引用)
武居哲洋:重症患者に発症するびまん性神経筋障害:ICU acquired weakness. Journal of Japanese Congress on Neurological Emergencies vol 27 No 3,2015.
Greet Hermans, et al:Clinical review:intensive care unit acquired weakness. Critical care19,274,2015.

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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