知っておきたい不整脈の知識、催不整脈作用に注意しよう!
不整脈を評価するためには心電図の知識が必要になりますが、服用している薬剤についてチェックしておくことも大切です。
しかし、薬が不整脈を誘発する催不整脈作用について知っているセラピストは少ないのではないでしょうか?
担当患者さんが抗不整脈薬を服用している場合に注意しておきたいポイントについて、生理学的知識を復習しながら解説します。
効果とリスクは表裏一体、循環器系の薬における副作用
まずはじめに、循環器系の薬に関して注意しておきたい副作用について解説します。
●効果は強力、だけど効きすぎにも注意
循環器疾患の患者さんは、血圧や呼吸状態に異常を抱えていることが多く、それらを調整するために薬物療法が行われます。
たとえば、血圧が高い場合は降圧薬、脈が速い場合は抗不整脈薬が用いられます。
しかし、薬の効果が強すぎる場合、低血圧や徐脈などの副作用を生じることがあるため注意が必要です。
以下に、循環器系の薬における副作用の例を挙げてみます。
- ◯血圧低下
- ◯動悸
- ◯徐脈
- ◯頻脈
- ◯めまい
- ◯食欲低下
- ◯脱水
- ◯電解質異常
特に新たな薬が追加された場合や用量が増えた場合などは、上記のような変化が起こる可能性が高くなるため注意です。
これらの項目は、問診をはじめ聴診や触診などのフィジカルアセスメントで確認することができます。
●抗不整脈薬が不整脈を誘発?催不整脈作用を理解するために必要なこと
不整脈に対して薬物療法を行う場合、その主な目的は心拍数を抑えることです。
しかし、その効果が強い場合は逆に徐脈になり、心拍出量低下による心不全症状をきたすことがあります。
また、抗不整脈薬は単に脈が遅くなるだけではなく、催不整脈作用という重大な副作用があるため注意が必要です。
催不整脈作用とは、不整脈を治療する薬が不整脈を誘発することであり、しっかりとその薬理や生理学を理解しておくことが重要です。
細胞の興奮や刺激の伝導など、基礎的な生理学を臨床場面のリスク管理にどう役立てるか、以下にわかりやすく説明していきたいと思います。
不整脈を理解するために必要な生理学
ここでは、催不整脈作用を理解するために必要な生理学的知識について復習したいと思います。
●心臓の収縮(心筋の興奮)を活動電位で考える
心電図波形とは、心臓の電気活動を総合的に捉えたもので、実際はさまざまな心筋細胞が連続的に興奮しています。
個々の電気活動は活動電位としてあらわすことができ、催不整脈作用を考える上で重要になります。
心筋細胞における活動電位は、まずはじめにNaイオンが細胞内に流入することによって活動が開始します。
その後、Caイオンが細胞内に流入することによって興奮が持続し、細胞内のKイオンが細胞外に流出して興奮がおさまります。
この細胞の興奮が開始してから収束するまでの間が心臓の収縮期から拡張期になります。
脈を少なくするためには、脈の発生頻度を少なくするか、一回の収縮時間を長くする必要があります。
そのため、抗不整脈薬はその作用部位によっていくつかの種類に分類されています。
●抗不整脈の分類と活動電位に及ぼす作用
抗不整脈薬には、Vaughan-Williams(ヴォーン・ウィリアムズ)分類という分類法があり、心筋の活動電位に及ぼす作用によって4つの群に分けられています。
◯Ⅰ群 Naチャネル遮断薬
Ⅰ群に分類される薬は、細胞内に流入するNaイオンためのNaイオンチャネルをブロックします。
Naイオンの流入が遅れることによって細胞の興奮も遅延するため、結果的に心拍数が少なくなります。
◯Ⅱ群 βチャネル遮断薬
Ⅱ群に分類される薬は、心臓の興奮頻度に関係するβ受容体をブロックすることにより、心臓の収縮頻度を少なくします。
◯Ⅲ群 Caチャネル遮断薬
Ⅲ群に分類される薬は、Caイオンの流入をブロックし、心臓の興奮持続を抑える作用があります。
◯Ⅳ群 Kチャネル遮断薬
Ⅳ群に分類される薬は、Kイオンが細胞外に流出するのを抑える薬で、心臓の拡張時間が延長します。
●絶対不応期と相対不応期
前述したように、活動電位の発生にはイオンの働きが重要になりますが、催不整脈作用を理解するには細胞の不応期を理解する必要があります。
◯絶対不応期は絶対に反応しない期間
絶対不応期とは、読んで字のごとく細胞が刺激に対して絶対に反応しない期間を指します。
具体的には、心臓の収縮期を指し、活動電位に置き換えるとNaイオン流入からCaイオン流入までの区間を指します。
この間は、強い電気刺激が与えられても心臓の収縮は起こりません。
◯相対不応期は強い刺激に対して反応する期間
いっぽうの相対不応期とは、強い電気刺激が入ると細胞が興奮する時期をあらわします。
活動電位ではKイオンが細胞外に流出する時期に当たり、心臓の動きでいうと拡張期の後半に当たります。
催不整脈作用の起こる理由と、心電図上での変化を理解しよう
催不整脈作用は、前項で解説した活動電位の発生機序と不応期が関係しています。
ここでは、催不整脈作用が起こる理由と、心電図上での変化について解説します。
●相対不応期が長くなると、強い刺激に対しての耐性が下がる
前述したように、心筋細胞の興奮には複数のイオンチャネルが関与しており、それらをブロックすることで心拍数は下がります。
脈を抑えるということは、心臓の収縮〜弛緩のサイクルをゆっくりにすることと言い換えることができます(βブロッカーは除く)。
Naチャネルのブロックでは心臓の興奮するタイミングが遅くなり、またKチャネルのブロックでは心臓の弛緩が遅くなります。
しかし、抗不整脈作用によって活動電位の発生〜収束までの時間が長くなると、脈は抑えられますが、強い刺激に対しての耐性が下がります。
この時期に、心室性不整脈などの強い刺激が発生すると、心臓がパニック状態になり痙攣のような状態になります。
つまり、薬によって心臓の収縮〜拡張の時間が長くなることで、新たに心室頻拍などの不整脈が発生することを催不整脈作用とよびます。
●心電図波形ではQT時間の延長に注意
抗不整脈薬を使用している場合、活動電位上での変化が生じていますが、実際に活動電位を確認することは困難です。
そのため、催不整脈作用のリスクを確認するためには心電図の確認が必要になります。
心臓が一回の収縮を終える時間が長くなると、心電図上ではQT時間が長くなり、これをQT延長といいます。
普段より心拍数が少なく、さらにQT延長が起こっている場合は催不整脈作用のリスクが高くなっているといえるでしょう。
この状態で、心室性不整脈が出現していないか、特にT波に重なっていないか(R on T)を注意して見ておくとよいでしょう。
心室性不整脈の分類でLown(ローン)分類というものがありますが、R on Tが最重度に位置付けられている理由はここにあります。
抗不整脈薬を服用している患者さんのリハビリで注意する点
不整脈の治療において薬物療法は第一選択となりますが、効果の裏には注意するべき副作用もあります。
リハビリ場面でのリスク管理というと、転倒予防やバイタルチェックなどが挙げられますが、薬剤に関する理解も大切です。
抗不整脈薬を使用している患者さんのリハビリを担当する際は、使用している薬剤や心拍数の把握、また可能であれば心電図のチェックを心がけるとよいでしょう。
循環器系の疾患では服用する薬が多いですが、まずはカルテやお薬手帳などを確認することからはじめてみてはいかがでしょうか。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士