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認定理学療法士が教えます、臨床現場における運動負荷の設定方法とは

運動負荷量の設定に関しては、CPXなどの運動負荷試験に基づいた強度設定が挙げられますが、後期高齢患者さんでは実施できないことが多いです。
また、高価な機器やスペースが必要になるため、どの施設でも行えるわけではありません。
運動負荷試験を実施できない場合、どのようにして運動強度を設定すればよいか、認定理学療法士の立場から解説します。

運動負荷試験を実施できない場合、どのようにして運動強度を設定

高齢者の心臓リハビリでは、 CPX=運動処方ではない

心臓リハビリにおける運動処方といえば、CPXでの運動負荷試験が挙げられますが、高齢患者さんが対象の場合はその限りではありません。
ここでは、その理由について述べていきます。

●心臓リハビリの対象患者さんが高齢化している

心臓リハビリの対象患者さんが高齢化している

CPXは、一般的にトレッドミルやエルゴメーターを用いて症候限界まで運動を継続し、最高酸素摂取量や嫌気性代謝閾値(AT)を求めます。
そのため、速い速度で歩いたり、重いペダル負荷にある程度耐えられる筋力が必要になります。
しかし、後期高齢者の場合、加齢や廃用による筋力低下が進行していることが多く、これらの負荷自体が困難な場合があります。
また、変形性関節症などの運動器疾患を併存している方も多く、CPXの実施が困難なケースがあります。
このような患者さんでは、たとえCPXを実施したとしてもうまく評価ができなかったり、膝や腰の疼痛を悪化させてしまう危険もあります。

●運動負荷試験を実施するメリットが少ない

後期高齢の患者さんではCPXの実施自体が困難なことがありますが、実施するメリットも少ないことが多いです。
たとえば、もともと老人車を使用して屋外を歩行している方や、主な活動範囲が自宅内でのつたい歩き程度のケースなどです。
このような患者さんに対しては、運動強度の設定というよりは、安全に動ける範囲や自覚症状の目安などを指導することが多く、CPXは有用ではありません。
また、運動療法の効果を検証するために実施するとしても、普段から積極的なトレーニングができない場合、検査結果が変わることはないでしょう。
そのため、厳格に運動耐容能を評価するというよりは、この運動をしても安全かどうか、運動範囲を決定する目安は何かを評価する必要があります。
この場合、必要なのは高価な機器ではなく、セラピストのアセスメント能力であるといえるでしょう。
運動強度を評価する方法はいくつかありますが、臨床場面ではそれらを組み合わせて考えていくことが重要になります。

運動強度を決定するために知っておきたい評価法

運動強度を決定するために知っておきたい評価法

ここでは、運動強度を評価するに当たって知っておきたい評価法と、臨床場面における解釈について説明します。

●自覚的運動強度(Borgスケール)

自覚的強度の評価であるBorgスケールは有名ですので、臨床場面で頻回に使用する方も多いのではないでしょうか。
一般的には11〜13(楽である〜ややきつい)程度の運動強度設定が用いられることが多く、心拍数との相関があるとされています。
たとえば、60代の方では、Borg11〜13が120〜125拍に相当するとされており、またこの強度は最大酸素摂取量とも関連するといわれています。
一見すると万能な運動強度評価に思われますが、患者さんの性格やその日の気分に左右されることが多く、これだけで運動強度を決めるには心もとないでしょう。

●カルボーネン法による心拍数の設定

目標とする心拍数を設定するカルボーネン法も有名であり、使用したことのあるセラピストも多いでしょう。
カルボーネン法の式は、{(220ー年齢)ー安静時心拍数}×強度(%)+安静時心拍数で運動強度が算出されます。
この式に代入する強度(%)は、教科書的には40%〜60%が中等度であると記載されています。
しかし、80歳の患者さんの場合、安静時心拍数を60回と想定すると、40%の強度は心拍数112拍となります。
しかし、実際にカルボーネン法を用いたセラピストは思うかもしれませんが、80歳代のかたに112拍相当の運動はかなりの負荷になります。
また既往に循環器疾患があり、心拍数を抑える薬を服用している方では、まずここまで上昇しないでしょう。
心拍数での運動強度設定に関しても万能とはいえず、やはりほかの評価と組み合わせることが大切です。

●トークテスト

トークテストとは、簡単にいえば運動中に会話が可能かどうかを判定するもので、息切れの有無で運動強度を設定します。
息切れの判定は主観的なため判断が難しいですが、不自然なタイミングで息つぎを挟んだり、大きな息つぎをしている場合などは陽性と判断してよいでしょう。
息切れがする原因はさまざまですが、心不全や呼吸器疾患がない方が息切れしている場合、体内では無酸素系のエネルギー代謝が起こっています。
言い換えると、息切れが起こっていると、CPXで求める嫌気性代謝閾値(AT)を超えた強度であると判断できるため、この場合は運動強度を落とすことが望ましいです。

ケースから学ぶ、適切な運動強度の決定方法

ケースから学ぶ、適切な運動強度の決定方法

前述したとおり、運動強度の決定方法はさまざまですが、実際の臨床場面では運動強度をどう判断しているか、認定理学療法士の立場からご紹介します。

●ケーススタディ 歩行練習での負荷量を考える

ここでは、後期高齢者のリハビリ場面を想定して、実際の運動負荷の設定について考えてみましょう。
問診やカルテ情報などで、以下の内容がわかっています。

  • ◯廃用症候群を呈した80代女性
  • ◯もともと、屋外では杖歩行をしていた
  • ◯既往に不整脈(房室ブロック)があり、ペースメーカーの植え込みをされている
  • ◯勝気な性格で、弱音は吐かない
  • ◯現在はベッド上で過ごすことが多い
  • ◯医師の指示内容は、入院前ADLの獲得

担当セラピストは、ベッドサイドでの筋力トレーニングや基本動作練習を実施し、そろそろ歩行練習を開始しようかと考えました。
以下は、トイレまでの歩行練習を実施した場面です。

  • 担当「どうですか?久しぶりに歩いてみて疲れましたか?」
  • 患者「いや、大丈夫です」
  • 担当「息苦しさを数字であらわすとどのくらいですか?」
  • 患者「全然なんともないです」
  • 担当「そうですか(結構息が上がってるのにな)」
  • 担当「心拍数はあまり上がっていませんね。このくらいの運動なら大丈夫でしょう」
  • 患者「早く家に帰りたいので頑張ります」

特に問題がなさそうな場面のようですが、ここで注意するべきポイントについて考えてみましょう。

●認定理学療法士の考察と運動強度設定

この患者さんの場合、弱音を吐かない性格のため、Borgスケールは低く評価されている可能性が高く、あまり参考になりません。
また、ペースメーカーが植え込まれていますが、もともと房室ブロックという疾患があるため、運動しても心拍数が上がらないことが考えられます。
そのため、カルボーネン法による心拍数の設定も意味をなさないため、どうやって運動負荷量を設定すればいいか悩むところです。
運動時に心拍数が増加しない場合、筋肉が必要とする酸素が十分に運ばれないため、すぐに疲労が出現します。
心不全症状や呼吸器症状がなくても、末梢の筋肉が酸素不足になり乳酸が蓄積すると、体の酸を排出するために呼吸数が多くなります。
この患者さんの場合、安静臥床で筋力が大幅に低下しているため、歩行自体が過負荷になっていると考えられます。
よって、60回の心拍数でも楽に歩行できるようになるためには、もう少し筋力トレーニングを中心にリハビリを進めていくほうがよいでしょう。
心拍数やBorgなど数値化できるものだけでなく、患者さんの表情や顔色なども参考にして、生理学的な考察をもとにリハビリを進めていくことが大切です。

運動負荷の設定は、多くの情報を組み合わせよう

運動負荷量の評価というと、CPXや6分間歩行などの評価ツールを想像する方も多いですが、後期高齢者では運動負荷試験が実施できない場合があります。
その際、自覚症状や心拍数などを参考にして負荷量を設定することになりますが、単独の評価法だけではうまくいかないこともあります。
数値化できる評価項目は大切ですが、実際には患者さんの性格や表情など、さまざまな情報を取り入れて運動負荷量を考えなければなりません。
そのためにも、病態を理解するための生理学的知識や、視診聴診などのフィジカルアセスメント、患者さんの変化に気づくことができる感覚を日々磨いていくことが大切です。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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