新人セラピスト必見、血液データから病態を把握しよう「腎機能編」
医療現場で働くセラピストにとって、患者さんのリスク管理は最優先項目であり、血圧測定や脈の測り方は誰もが実践しているでしょう。
しかし、実際の臨床場面で病態を把握すること、起こり得るリスクを想定するためには血液検査を読み解く必要があります。
今回は、腎機能障害に焦点を当てて、その病態とリハビリ時に注意する点などについてご紹介します。
目次
リスク管理=バイタル測定ではない?血液データを確認するべし
まず最初に、血液検査データを確認する理由について述べたいと思います。
●血圧や脈拍の変化は、その根本的な原因を理解することが大切
リハビリ実施時に血圧や脈拍、酸素飽和度を確認することは多いと思いますが、結果で異常値が出た場合はどうしているでしょうか?
「血圧が80台だからリハビリを実施しません」や「酸素飽和度が90%以下なので関節可動域訓練のみにしました」などの判断のみで終わってはいけません。
血圧や脈拍などのいわゆるバイタルサインは、生体に起こった異常を検知するためのサインであり、必ずどこかに原因があります。
「それを調べるのは医師の仕事じゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、医師は検査結果を確認してすぐに指示を出せないこともあります。
その間にリハビリを実施する場合など、第一の判断をセラピストがしなければいけない場面もあり、わからないでは済まされません。
なぜ血圧が低いのか、なぜ呼吸苦が出ているのか、その根本的な原因を考えられないと、リハビリを開始していいかの判断もできません。
診断をするのは医師の役割ですが、安全にリハビリを進めるためには基礎医学に関する知識を習得しておくことが大切です。
そのためにも、血液データの理解は非常に有用であり、知っていると知らないとではリスク管理能力に大きな差がうまれるでしょう。
●急性期以外でも血液データを確認しておくことが大切
急性期病院において、特に内科系疾患の患者さんでは、2〜3日に1回は採血の検査があることが多いです。
その一方で、回復期病院やデイケアなど急性期を脱した状態では、ルーティンに採血されることはまずないでしょう。
しかし、患者さんに何か変化(熱発や倦怠感など)が起こった場合は血液検査が行われます。
「最近調子が悪そうだな」と感じた場合、検査結果の一覧から血液検査の有無を確認しておきましょう。
介護保険事業所などの場合では、かかりつけ医にて定期的に採血が行われているはずですので、ご本人やご家族さんに検査結果を持参してもらうとよいでしょう。
まずは血液検査に目を通すことを習慣化して、自分の中でのリスク管理項目に入れておくことが大切です。
腎機能障害とは?病態と起こり得るリスクを理解しよう
ここでは、腎機能障害を理解するに当たって必要な知識を復習しておこうと思います。
●腎臓の役割は尿の生成と体内水分量の調整
腎臓はネフロンと呼ばれる構造の集合体であり、その主な役割は体内の血液を濾過して老廃物を体外に排泄することです。
また、体内の水分バランスを保つため、余分な水分を排泄することも重要な役割です。
つまり、腎機能障害とはなんらかの原因によって血液を濾過する機能が低下した状態であり、結果的に老廃物や水分が貯留することになります。
腎機能が低下する主な理由としては、腎臓の炎症をはじめ、腎臓に血液を送る腎動脈の狭窄(または閉塞)などのほかにも、腎臓への血流低下なども挙げられます。
特に、腎臓への血流低下は腎前性腎不全(腎臓の手前に原因があるという意味)と総称され、臨床場面でも遭遇しやすい病態です。
リスク管理の観点から考える場合、腎臓はどのくらい障害されているか、尿は出ているか、水分がたまることによってほかの臓器に悪影響を与えていないかが重要です。
これらの結果により、血圧や酸素飽和度の異常値が出現するため、バイタル測定だけではわからない情報を得ることができます。
●腎機能障害では浮腫や呼吸苦などを確認しておこう
腎機能障害が考えられる場合、それによる身体面への影響を評価することが重要です。
セラピストが血液データを読み解く理由は、病態を把握することだけでなく、リハビリ場面で起こり得るリスクを想定することです。
患者さんを評価する際、押さえておきたい評価項目は以下の通りです。
◯顔面や四肢の浮腫
腎臓での濾過機能が低下すると尿の生成が少なくなるため、体内に水分がたまりやすくなります。
◯呼吸音
血管内の水分が増加すると、肺循環(心臓と肺の間の循環)にも影響が出ます。
特に心機能が低下している患者さんでは、肺にうっ血をきたす場合があるので、呼吸音を聴診して肺に水分貯留がないか確認しましょう。
◯意識状態や倦怠感
腎機能が低下すると、アンモニアなどの老廃物が体内に貯留し、尿毒症の状態になります。
普段の臨床で遭遇することは少ないですが、意識レベルや声かけに対する反応などにも注意をむけることが大切です。
◯水分摂取量と尿量
通常、体内の水分量は摂取と排泄とのバランスが保たれますが、水分の過剰摂取や尿量の低下には注意が必要です。
腎機能障害における血液データの見方と評価方法
ここでは、腎機能を表すデータ項目とその考え方についてご紹介します。
●尿素窒素とクレアチニンが腎機能の指標
腎機能の指標には尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)が挙げられ、どれだけ体内に蓄積しているかを評価します。
これらは体内のタンパク質や筋肉内のアミノ酸などが消費された後に産生される老廃物であり、通常は尿によって体外に排泄されます。
しかし、なんらかの影響で尿の産生が低下すると、これらの数値が上昇します。
また、その上昇のパターンによって、腎臓が原因なのか、腎臓以外が原因なのかを推測することができます。
腎機能障害のパターンは以下のようになります。
◯腎前性
腎前性とは、腎臓より前に問題があるという意味であり、多くの場合は腎臓への血流が低下することに起因します。
腎前性の場合、BUNは上昇しますがCreはそこまで高くならないことが特徴です。
このBUNとCreの上昇程度はBUN/Cre比として表すことができ、10以上の場合は腎臓以外に原因があると考えることができます。
◯腎性
腎性とは、腎臓そのものに原因がある場合を差し、急性腎炎など腎臓自体の障害によって起こります。
この場合、BUNとCreの両方の値が上昇する(BUN/Cre比が10以下)ことが特徴的です。
◯腎後性
腎後性とは、腎臓から後の器官である尿管の閉塞により尿の排泄が低下した状態を指します。
腎後性の場合、BUN/Cre比は10以下となります。
●脱水状態を見つけるためには腎機能と血液濃縮をみる
臨床場面で遭遇することが多いのは腎前性の腎障害であり、疾患を問わず高齢者全般のリスク管理に関係します。
たとえば、骨折術後の患者さんで血圧が低く、リハビリの進行が遅れているとしましょう。
血液検査の結果、BUN/Cre比が10以上であり、看護記録からは尿量の低下や濃縮尿が認められるという情報がありました。
また、輸血をしていないのに、以前の血液データよりもヘモグロビンやヘマトクリットなどの値が上昇しています。
この場合、血管内の水分量が少ないため単位体積あたりの血液濃度が高くなり、腎臓への血流低下によって尿量が低下していると推測されます。
もし起立性低血圧であれば、離床を繰り返すことによって改善が望めるかもしれませんが、脱水状態であれば輸液が必要になります。
つまり、繰り返し離床を進めることは患者さんにとってつらいだけであり、脱水がある程度補正されてから離床を進めることが望ましいでしょう。
心機能に問題がないのに血圧が低い患者さんがいた場合、BUN/Cre比とヘマトクリット値などをチェックして、脱水状態ではないかを評価することが大切です。
まずは血液検査結果に目を通すことからはじめよう!
腎機能障害では、BUNとCreが腎機能スクリーニングとして有用ですが、ほかの要因でも上昇するため、一概に腎臓が悪いとは断定できません。
しかし、血圧や心拍数、呼吸音や尿量などの評価に加えて、血液データから腎機能障害を評価することで病態の理解が必ず深まります。
心疾患や腎疾患患者さんが増加するなか、医療介護分野問わず、セラピストのリスク管理はますます重要になります。
まずは血液データに目を通してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士