咳や痰にまつわるお話。リハビリにも大きく関わる咳と痰の原因。感染予防と対処法についてもお話しします
体から排出される痰や、排出させるために起こる咳にはそれぞれ排出される機序がいく通りかあります。
また咳や痰は呼吸器疾患と大きく関連がありリハビリ現場でも問題となることがあります。
咳や痰の予防と対処法についてもお話していくことにしましょう。
目次
咳が起こるメカニズム、リハビリにも関わる長期間の咳を引き起こす疾患について
痰を排出する際に咳は起こりますが、痰を伴わない咳も存在します。
咳が起こるメカニズムについて詳しく解説することにしましょう。
●咳はどうして起こる?気管とカラダの防御反応、痰を主な症状とする疾患
そもそも咳は気管の中に入り込んだ異物を体の外に出すための反応として起こるものです。
ウイルスや細菌、異物の侵入を防ぎ身体や気管を守る現象であり、必要な生体防御反応です。
また、気管内にたまった痰などの老廃物を体外に排出するために咳が起こる場合もあります。
咳が起こる原因の最も代表的なものは風邪などの感染ですが、どのようなものがあるのかご紹介します。
1)風邪などの感染症
気道や気管支、肺が風邪のウイルスなどの侵入により炎症を起こし、痰が分泌され、その痰を喀出するため咳が起こります。
2)アレルギー
アレルゲンとなるハウスダストや花粉などにより気管が狭くなり、喘息様の咳を引き起こします。
3)タバコ
喫煙そのものも咳を誘発する原因となります。
さらに長期間の喫煙により慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がんなどを引き起こし、それらが咳の原因となります。
4)誤嚥
誤嚥により、気道内に入った異物を喀出するために咳が起こります。
5)その他
蓄膿症、心因性(ストレス、緊張)、冷気、心不全などでも咳は起こります。
●長引く咳には気をつけよう!8週間以上続く咳には注意が必要
風邪などの呼吸器感染は2週間程度で収まりますが、8週間以上の長期間にわたって続く咳にはほかの原因が関与している場合があります。
長期にわたる咳の継続の場合には、肺がんや肺結核、肺炎、間質性肺炎、心不全、胸膜炎などがレントゲン検査などで発見されることがあります。
ほかにレントゲンで異常がなく喘鳴を伴う咳が8週間以上続く場合には、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)が疑われます。
同じくレントゲンで異常がなく喘鳴を伴わない咳が続く場合には、後鼻漏や感染後の咳、胃食道逆流症、心因性の咳嗽などが考えられます。
長期にわたって咳が続く場合には、かかりつけ医に相談しましょう。
咳や痰の形状は臓器の障害を示唆する?それぞれの特徴とは?
疾患によって、特徴的な痰の形状や咳が顕著に出現することがあります。
代表的なものをいくつか紹介しましょう。
●痰の色や形状によりさまざまな臓器の疾患が疑われることも
痰にはさまざまな色や形状があり、それらによって疾患の関連が想起されます。
痰の形状 | 疑われる原因 |
---|---|
血が混じっている赤色の痰(血痰) | 気管支の炎症、肺がんなど |
濃い黄色、赤茶色 | 細菌感染、肺炎、結核など |
透明で粘り気がある痰 | 喘息など |
透明な泡状の痰 | 心不全など |
●咳と痰の有無のコンビネーションも疾患特定の決め手となることも
原因によっては隔離やリハビリの中止が必要となる場合もあるため、注意が必要です。
痰を伴う咳は気道や気管支などの呼吸器系の感染、肺結核、肺がん、喘息やCOPDが疑われますが、痰が出ない場合にはアトピー性の咳、百日咳、心因性の咳、気管支内の異物などが考えられます。
特に感染症や結核などの場合には隔離が必要であるため、リハビリの対象外となります。
咳や痰の対処法。リハビリ現場での処理方法と感染予防対策、咳エチケットとは?
咳や痰は飛沫感染を引き起こす可能性があり、感染予防策(スタンダードプリコーション)に基づいて適切に処理する必要があります。
風邪の流行時期には厚生省からも提案されている咳エチケットを遵守するように心がけ、患者さんにも提案しましょう。
●リハビリ中に痰が出てしまったら?感染予防策を基に処理を行おう
リハビリ中に痰が喀出された場合には感染源となるため、鼻汁や痰などは可能な限り本人がティッシュなどで拭き取り、ふたのついた廃棄物箱に捨てられる環境を用意しておきましょう。
たとえば訓練室にふたつきの汚染物質を捨てられるゴミ箱を設置しておき、リハビリ室全体に周知しておくとよいでしょう。
やむをえず、リハビリスタッフが触れなくてはいけない状況下では必ず使い捨ての手袋を着用し、痰が付着したティッシュを使い捨て手袋ごとふたつきのゴミ箱に廃棄しましょう。
●咳が出る患者さん。感染拡大予防のためにとるべき行動とは
リハビリ中の咳も感染予防策に基づき、マスクの装着や咳エチケットに配慮する必要があります。
咳エチケットの一例として以下のものがあります。
- 1)咳が出ている患者さんやリハビリスタッフにはマスクの装着を促しましょう。
- 2)咳やくしゃみの場合には、ティッシュなどで鼻と口を覆い、ほかの人から顔を背けて1m以上離れましょう。
- 3)マスクは鼻の横などから漏れがないようにぴったりと装着させる、または説明書をよく読んで正しく着用しましょう。
呼吸器疾患をお持ちの患者さんにとって、風邪などの感染症は健常人以上に呼吸苦や体の不調を引き起こします。
最悪の場合入院が必要となる場合もあります。
咳や痰は色や形状で原因が判断できることも。感染拡大の予防にも努めよう
咳や痰にはそれぞれ大きな関連があり、その色や形状、継続期間によって疑われる原因が異なります。
咳や痰の有無はリハビリ場面において、運動の一時的な中止などにも関わる原因の一つでもありますので、気をつけて観察することも大切です。
また、ほかの患者さんやリハビリスタッフ自身への感染を予防するためにも、適切な処理法についても知っておきましょう。
参考:
一般社団法人 日本呼吸器学会 Q2 せきとたんが3週間以上続きます.(2019年11月19日引用)
トヨタ記念病院 なるほど健康 咳と痰.(2019年11月19日引用)
日本気管食道科学会 せき.(2019年11月19日引用)
独立行政法人 環境再生保全機構 長引くせきの原因はなに?.(2019年11月19日引用)
厚生労働省 咳エチケット.(2019年11月19日引用)
東北大学保健管理センター 気になる咳、気にする咳.(2019年11月19日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士