膝蓋骨脱臼のリハビリの方法を紹介!整形外科の理学療法士が具体的な治療方法を解説
膝蓋骨脱臼は一度発生すると再発するケースも少なくありません。
そのため、適切に原因を把握して、再発予防のために必要な機能改善と動作の修正をする必要があります。
また、脱臼で靭帯や関節軟骨などが損傷している場合、状態に応じた治療をしなければ、症状の悪化を招くこともあります。
今回は膝蓋骨脱臼の要因や必要な評価を解説して、具体的なリハビリの方法や治療上の注意点を紹介します。
膝蓋骨脱臼の原因や症状
発生の原因や症状の特徴を理解することで、評価や治療につながります。
そこで、解剖学的な要因や機能的な要因、特徴的な症状について紹介します。
●膝蓋骨脱臼の解剖学的な原因
膝蓋骨の脱臼は、膝蓋骨が不安定になりやすい解剖学的な要因の1つとされています。
具体的には以下のような原因が挙げられます。
- 1.大腿骨滑車または膝蓋骨の形成不全による膝蓋大腿関節の適合性低下
- 2.Q-angleの増加
- 3.内側膝蓋大腿靭帯(Medial patellofemoral ligament:MPFL)の弛緩
- 4.内側関節包の弛緩または外側関節包の緊張
膝蓋大腿関節の適合性低下は先天的な要因による場合が少なくありません。
また、MPFLは内側広筋が付着しており膝蓋骨を内側から支える重要な役割を果たします。
このような、脱臼を起こしやすい要因を持っている場合は、筋機能や動作の改善を行っても再脱臼のリスクが高い場合があります。
そのため、しっかりと主治医と連携をしてリハビリを行っていくことが重要です。
●膝蓋骨脱臼の機能的な原因
膝蓋骨脱臼の原因としてポイントなるのが大腿四頭筋の働きです。
大腿四頭筋がバランス良く働き、膝蓋腱と相対した方向に膝蓋骨を牽引すれば脱臼のリスクは低くなります。
しかし、内側広筋の働きが低下して、外側広筋の働きが強い場合などは、膝蓋骨を外側に引っ張るような力が働くため、外側への脱臼する要因となります。
Q-angleが増加している場合は、より内側広筋による牽引力が必要になるため、内側広筋の弱化は膝蓋骨脱臼のリスクを高めることになります。
●膝蓋骨脱臼の症状
膝蓋骨脱臼は主に外側に膝が外れます。
また、脱臼による周辺組織の損傷による炎症症状が見られます。
整復後も脱臼時の組織の損傷や膝蓋骨のアライメント不良により、次のような症状や障害が残る場合があります。
1.膝くずれ・不安定感
膝がガクッと力が抜けるような状態になったり、踏ん張りが効かなかったりします。
2.膝蓋骨の異常な動き
膝蓋骨が外側へ過剰に動くようになります。
3.荷重困難
体重をかけると疼痛を生じます。
4.可動域制限
受傷による組織の損傷や不動により可動域制限が残る場合があります。
これらの症状が見られた場合は、再脱臼の危険性があるため、評価・治療により再脱臼のリスクを軽減する必要があります。
機能評価だけでなく動作分析も重要
膝蓋骨脱臼の評価では、関節可動域や筋力といった身体評価に加え、アライメントや動作をしっかり評価することが重要です。
●膝蓋骨脱臼に必要な身体評価
以下に膝蓋骨脱臼で確認すべき身体評価をまとめます。
- ○炎症症状の有無
- ○疼痛の確認(圧痛、荷重時痛、運動時痛)
- ○筋ボリューム(特に内側広筋や外側広筋)
- ○腫脹や水腫の有無
- ○下肢ROM
- ○下肢MMT
- ○膝蓋骨モビリティ
炎症症状や疼痛、腫脹、水腫などが強くなっている場合は、すぐに医師と連携して、急性期における治療の検討をしていく必要があります。
また、下肢関節や筋肉の評価は、次の項目で解説するアライメントや動作の評価結果と結びつけながら、脱臼の要因となっている部分を導きだして、トレーニングにつなげていきます。
●アライメント評価のポイント
膝蓋骨脱臼では次のようなアライメントが見られます。
- ○Q-angle増加
- ○下腿の外旋
- ○下腿の外方偏位
これらのアライメントは内側広筋や内側ハムストリングスの緊張低下から引き起こされるため、しっかり収縮を促す必要があります。
●動作分析のポイント
アライメントのポイントでも紹介したように、Q-angleが増加するような下腿の外反や外旋が見られるような動きは膝蓋骨を脱臼方向に動かすリスクを高めます。
実際に荷重時や歩行時にそのような運動が生じていないかをチェックすることで、脱臼リスクの確認をすることができます。
急性期から無理をしない!状態に合わせた具体的なリハビリ方法
組織の損傷などがあり状態が安定していないときに無理な運動をすると、組織の修復を阻害したり、再脱臼のリスクを高めます。
そのため、状態に合わせた適切なリハビリが大切です。
●急性期はアイシングや物理療法で回復促進や症状緩和を
受傷直後で炎症症状がある場合は、アイシングや非温熱設定による超音波療法を実施して、症状緩和を実施します。
また、微弱電流による組織修復の促進もオススメです。
●運動はまず内側広筋のトレーニングから
損傷の回復に合わせて徐々に体重をかけていくことになりますが、その際膝蓋骨の外側への動きを制御する内側広筋を鍛えなければ、脱臼再発の危険性が高まってしまいます。
そのため、パテラセッティングを積極的に実施して、内側広筋の機能を回復するようにしましょう。
可能であれば、電気刺激療法を併用することで効率的に機能回復を図れますので活用しましょう。
●CKCでのトレーニングで安定した動作を目指す
ある程度荷重がかけられるようになったら、スクワットや立ち上がりの運動などCKCで膝伸展の運動をして、動作につなげるようにしましょう。
片足でのスクワットやバランスパッドなどの不安定な面で行うと、難易度を高めた運動になるので、段階的に負荷を調整していきましょう。
●競技復帰のために必要な移動動作の練習
競技復帰のためには実際に動作の中で、膝の外反や外旋がなく、安定した支持が行えるようにトレーニングする必要があります。
たとえば、Knee bend walkでは、前後の重心移動をする場合の膝の安定性を鍛えることができます。
また、左右の重心移動の練習ではサイドランジやサイドステップで膝の安定性を鍛えます。
これらの動作が安定して行えれば、ランニングやストップ動作など医師と連携を取りながら負荷を高めていきます。
これらの動作の練習の場合に、膝の外反や外旋が見られた場合は、要因をしっかり分析して、しっかり内側広筋のトレーニングやCKCでの運動などで改善を図りながら段階的に負荷を上げていくことが重要です。
病期ごとの適切な評価と段階的なリハビリで再発予防をしよう
膝蓋骨脱臼は反復性のある外傷で、保存療法による予防が困難な場合は手術が必要な場合もあります。
そのため、医師の判断で保存療法の適応となった場合は、再発を防ぐことがリハビリをする上で重要なポイントとなります。
今回ご紹介したように、まずは損傷の回復をして、脱臼を防ぐような状態を作った上で、動作に反映させるようにトレーニングを実施しましょう。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級