下腿切断のリハビリのポイントを解説!必要な評価や断端の管理、運動療法、生活指導を紹介
近年、下肢切断の原因は閉塞性動脈硬化や糖尿病によるものが増加し、下肢切断の中でも下腿切断の割合が多くなっています。
下腿切断は大腿切断にくらべ歩行獲得の可能性が高く、術後早期から継続的なリハビリが重要になってきます。
そこで今回は下腿切断のリハビリに必要な評価や断端管理のポイント、運動療法や生活指導について解説します。
下腿切断後に必要な評価とは?心理面や生活状況も把握しよう
下腿切断に限らず切断をした患者さんは、身体機能だけでなく心理面や切断後に生活を送る上で必要な生活環境など幅広い評価をする必要があります。
それぞれ評価のポイントを解説していきます。
●身体機能の評価
身体面の評価は以下の項目が挙げられます。
1.断端の評価
断端は断端長、周径、疼痛、浮腫、皮膚の状態(発赤、傷、水泡、かぶれなど)を観察します。
断端に疼痛があったり、軟部組織の欠損や瘢痕の癒着の状態が悪かったりする場合はソケットの適合やパーツの選択に注意が必要なため、しっかりと観察する必要があります。
また、末梢循環障害がある場合は、断端に容易に傷ができやすく、治りにくいため、頻回にチェックするようにしましょう。
2.関節可動域
残存している股関節や膝関節の可動域を測定します。
切断術後は屈筋と伸筋のアンバランスにより拘縮を生じやすいですが、下腿切断に関しては大腿四頭筋やハムストリングといった二関節筋が残存するため、拘縮につながるアンバランスは生じにくい状態といえます。
しかし、膝関節屈曲拘縮が起こりやすいため、可動域を適宜評価して拘縮を起こさないように注意する必要があります。
膝関節屈曲拘縮は以下のような理由で生じやすくなります。
- ○膝伸展に伴い皮膚や軟部組織が引っ張られることで生じる痛みを避けるため
- ○下腿の長さが短くなるため膝が簡単に曲がってしまうため
3.筋力
下腿切断では股関節と膝関節といった歩行などに必要な筋力が十分発揮できる場合が多く、歩行や日常生活に必要な筋力を定期的に評価しながら、運動療法や動作練習を進めていくことが必要です。
Nadollek Hらによると切断側の股関節外転筋力は切断側への体重負荷量や歩行速度、歩幅などと相関があるとされています。
また、体幹筋力も切断側での立脚の際に必要不可欠になります。
上肢や非切断側の筋力は、義足装着時だけでなく非装着時の日常生活動作のためにも重要になるため、併せて評価していく必要があります。
4.バランス
バランス評価は「下肢切断 理学療法診療ガイドライン」において推奨グレードBとされており、バランス能力が歩行獲得において重要な要因であるとされています。
特に非切断側での片脚立位バランスは歩行獲得のために重要な要因なので評価をしていきましょう。
また、Timed up and go testやファンクショナルリーチテストも切断後の歩行や活動量との関連が見られています。
5.体力
義足での歩行は義足非装着時の歩行にくらべ多くの体力を必要とします。
とりわけ、高齢者が義足での歩行を日常的に実施するためには体力のチェックは欠かせません。
陳は高齢者大腿切断者の義足歩行獲得には、予測最大酸素摂取量の50%以上の運動ができるかどうかが目安としており、必要な体力の目安として活用できる指標です。
●心理的な変化の観察
切断をした患者さんは自分の体の一部を失ったことに対して大きな喪失感を感じます。
将来に向けた不安や混乱から、リハビリに対する意欲を失うこともあります。
そのため、理学療法士だけでなく医師や看護師、臨床心理士などの専門スタッフと連携を図り患者さんの心理面の変化を観察していく必要があります。
●認知・学習面の把握
断端の管理や義足を使用しての日常生活動作の獲得にとって、認知面や学習面の問題が大きな妨げとなります。
そのため、術前・術後に患者さんの認知面や学習面に問題がないかを評価することが必要になります。
●環境面の評価
義足を装着した状態で日常生活動作を習得する場合、個人の生活環境に合わせて必要な動作を練習していくことが重要です。
そのため、できるだけ早い段階で生活環境を把握することが効果的です。
さらに職場復帰を目標とする場合は、家屋周辺の環境だけでなく、職場環境や通勤手段の評価もする必要があります。
下腿切断に対する断端の拘縮予防や運動療法の方法
下腿切断は大腿切断にくらべ歩行獲得の可能性が高く、自立歩行を目指した運動療法を実施していく必要があります。
そこで断端の拘縮予防や運動療法の方法を紹介します。
●断端の拘縮予防
前述の通り下腿切断の場合は膝関節の屈曲拘縮が生じやすいため、可能な範囲で膝の伸展を意識して実施することが大切です。
痛みが原因で膝を屈曲させていることが多いため、痛みの程度に合わせて膝の屈曲角度を徐々に小さくするようなポジショニングをしていきましょう。
●歩行獲得のための運動療法
歩行獲得のための具体的な運動方法を紹介します。
1.荷重練習
平行棒や歩行器を活用して荷重練習を実施します。
義足側の下肢を前方に出し、歩行周期を意識しながら、立脚中期の膝伸展や股関節伸展の運動、立脚終期の十分な股関節伸展や前足部への荷重の移動を確認しましょう。
荷重が十分にできるようになれば、階段を使用した練習がおすすめです。
義足側の下肢を一段上に乗せた状態から、反対側の下肢を持ち上げます。
このとき、体幹が義足側に側屈したり、前屈したりしないように注意しましょう。
2.重心移動練習
重心の移動練習では平行棒などの支持物を活用した練習に加え、壁を活用した練習がおすすめです。
体の義足側を壁につけて、手を上げた状態で立ちます。
そして、義足側を一歩前に出した状態から、義足と反対の下肢を前に降り出します。
そうすることで、義足側への体幹側屈を防ぎ、膝と股関節の伸展筋力を発揮した立脚の獲得につながります。
3.その他の運動療法
上記のような運動のほかにも、スクワットや切断側の片脚立ち、セラバンドを使用した抵抗運動を自主トレーニングとして指導して、歩行に必要な筋力向上を目指しましょう。
生活指導の工夫や注意点を紹介
下腿切断の患者さんにとって義足を装着しての生活ができるようになって退院しても、日常生活を送る上でさまざまな変化やトラブルに対応していく必要があります。
そのため、断端の管理はもちろん、シリコーンライナーなどの管理や断端に傷ができたときなどの対処方法も指導していく必要があります。
●断端管理の指導
断端管理は入院中や受診を頻回に行う時期は専門スタッフが行うため断端の状態が良好でも、いざ自宅での生活が主になると患者さんがしっかりと管理できないことも少なくありません。
そのため、断端の管理方法を十分に指導して、自己判断を過信しすぎず問題がありそうであればすぐに受診をするように意識づけする必要があります。
高齢者や末梢循環障害の患者さんは断端が乾燥したり、不潔だったりすることで傷や感染を容易に引き起こします。
そのため、保湿クリームによる保湿や入浴による洗浄、断端袋の毎回の洗濯など生活上で必要な管理方法を資料にして渡しましょう。
また、自身で断端の状態を観察できるように入院中に鏡を使ってフィードバックしていき、自宅でも鏡を使用した状態評価ができるように指導しましょう。
認知機能や学習面での課題がある場合は、家族への指導も重要になります。
●シリコーンライナーの管理方法
シリコーンライナーは義足の適合に不可欠な道具ですが、正しく装着・管理しなければ断端のトラブルを引き起こしかねません。
そのため、断端管理と同様にシリコーンライナーの正しい装着方法や管理方法を資料にして、自宅でも活用できるようにしましょう。
特にシリコーンライナーの消耗を早めたり、カビが生えたりしないために、毎日ぬるま湯や中性洗剤で洗浄して、型崩れしないようなペットボトルなどを活用して乾かすように指導しましょう。
●義足非装着時の日常生活動作についても練習する
いくら断端の管理をしっかり行い、活動量を高めて義足を活用できていても、何らかのトラブルで義足を着用できない可能性があります。
そのような場合、生活ができなくなってしまっては困るので、入院中から義足非装着時の日常生活動作についても練習しておきましょう。
必要に応じて福祉用具(車椅子や歩行補助具、手すりなど)の活用も検討に入れながら練習をしましょう。
●体重管理の重要性を伝える
退院後に断端の状態が変わったり、義足を装着した歩行が難しくなったりする要因の1つに「体重の増加」が挙げられます。
入院中はしっかりと栄養やカロリーの管理がされていますが、退院後は自分のペースで食事をとり、さらに義足装着による活動量の低下も相まって体重が増加しやすくなります。
すると断端が大きくなり義足が適合しにくくなったり、体重を支える筋力が足りず歩行が難しくなったりといった悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、体重増加によるリスクを伝え、受診時などに体重変化も定期的にチェックすることが重要です。
下腿切断後の生活を見据えた長期的な視点でリハビリを実施しよう
下肢切断では歩行を獲得できるケースが少なくありませんが、そのためには拘縮予防や断端の管理、十分な運動療法をすることが欠かせません。
また、退院後の生活を想定して、さまざまなケースに対応できるような長期的な視点での生活指導も重要になります。
急性期や回復期だけでなく長い生活期においても、切断患者さんが自分らしい生活を送るために必要なことを身につけるリハビリを実施していきましょう。
参考:
Nadollek H, Brauer S, et al.: Outcomes after trans-tibial amputation: the relationship between quiet stance ability, strength of hip abductor muscles and gait. Physiother Res Int 7: 203-214, 2002.
大籔弘子,高瀬泉,他:高齢下肢切断者の在宅生活ー理学療法のポイントと生活支援における課題ー.日本義肢装具学会誌32(2):110-115,2016.
寺村誠治,宮城新吾,他:下腿切断者に対する理学療法ー評価から生活指導までー.理学療法32(4):322-333,2015.
-
執筆者
-
整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級
岡崎良介 さん
2020年6月6日 5:35 AM
1年前に大腿部切断のため、現在、仮義足で生活しています。ソケットや膝継手が自分に合っているのか不安です。誰に相談すればよいのか分からず悩んでいます。