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クリニック・治療院 OGメディック

  • 蔵重雄基

    公開日: 2020年09月30日
  • 患者さんのケア

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#パーキンソン病

パーキンソン病患者さんの環境調整のポイントは?症状に合わせた調整をしよう

パーキンソン病の症状が進行していくと、身体機能へのアプローチや動作練習だけでは患者さんの在宅での生活動作が難しくなってくることを経験したことはありませんか?
そのため、患者さんの症状に合わせて、生活の場面ごとに環境調整をすることが在宅生活を継続するために重要になります。
今回はパーキンソン病の症状に合わせた環境調整のポイント、移動や排泄、入浴に着目して紹介します。

パーキンソン病の症状と注意したい生活動作

移動に関する環境調整のポイント

パーキンソン病では「すくみ足」や「小刻み歩行」といった歩行を呈することで移動が困難になります。
そこでさまざまな手がかりによる代償を検討しながら環境調整をする必要があります。

●まずはどの場面で症状が出るかを把握する

まずはどの場面で症状が出るかを把握する

すくみ足や小刻み歩行が出現しやすい場面として以下のような場面が挙げられます。

  • ○狭い場所
  • ○目標地点の手前
  • ○方向転換のとき
  • ○歩き始め
  • ○物を運ぶとき(二重課題)
  • ○人とすれ違うとき
  • など

どの場面で症状が出るのかを把握することで、環境を調整しなければならない場所や方法が異なってきます。
そのため、まずは症状の出る場面をしっかり聴取して、実際に同じ場面で症状を再現していくことが重要です。

●外的刺激の活用を検討しよう

もっとも代表的な外的刺激は「視覚刺激」です。
聴取・再現した症状の出やすい場所に、目立つ色のテープで一定の間隔に線を引き、それを目安に足を踏み出すことですくみ足や小刻み歩行の改善が見られることがあります。
また、歩行開始時にすくみ足が出やすい場合は、先端から光が出る杖や歩行器を活用することで、一歩目が出やすくなります。
狭い場所、目標物の手前で症状が出る場合は、家具やベッドの配置を工夫する必要があります。
なるべく壁に沿うように配置して幅広い導線を確保できるようにしましょう。
狭い場所という環境を取り除くことができるのはもちろん、目標物に直線的に近づく必要がなくなり、弧を描くように目標物に向かえるためすくみ足を防げる場合があります。
どうしても広いスペースが確保できない場合は、手すりの設置や視覚刺激の活用が有効です。
たとえばトイレや浴室での方向転換ではできるだけ手の届く位置に手すりを配置して、さらに色テープなどで視覚による代償を促すことで足が出やすくなることがあります。

●多彩な歩行補助具を使いこなそう

多彩な歩行補助具を使いこなそう

前述のような光の出る杖や歩行器のほかにもパーキンソン病の患者さんの移動に使える歩行補助具はたくさんあります。
たとえば、突進歩行の患者さんには抑速機能付きの歩行車を使用することで、急な突進をある程度防ぐことができます。
また最近では光だけでなく音の出る歩行器も登場しています。
物を運びながらといった二重課題で症状が出る場合は、物を載せて移動ができる点でも歩行器の活用はおすすめです。

●つまずきそうなものは置かない

小刻みやすり足歩行が出やすいパーキンソン病の患者さんにとって、通常の転倒予防同様に絨毯のめくれや床のものなどを無くすことは重要です。
そのほかの転倒予防対策も有効ですので、再確認しておきましょう。

※転倒予防の対策については「PT・OTが身につけたい転倒予防の知識。リハビリで求められている評価と介入」で紹介しています。

●状態に合わせて転倒してもけがをしない対策も必要

いくら移動に対する環境調整を実施しても状態が進行すると完全には転倒を防げないこともあります。
そのような場合には、ヒッププロテクターや保護帽、膝サポーターといった道具を使用してけがを防ぐ対策も必要です。

※転倒によるけがの予防に関しては、「転倒による⾻折を防ぐ⽅法とは? 体の状態に合わせた具体的な対策を紹介します」で紹介しています。

排泄や入浴に関する環境調整のポイント

排泄や入浴に関する環境調整のポイント

排泄や入浴に関しては「狭い場所での移動」が伴うことが多いため、前述のような狭い場所での移動に対する環境調整をする必要があります。
またドアの開閉が必要となるため、ドアの形状や位置によっては住宅改修の必要があります。
姿勢反射障害が強いと、開き戸の場合に後方へバランスを崩して転倒を招くリスクが高くなります。
そのため、引き戸にしたり、ドアの位置をなるべく方向転換の少ない場所に変えたりする工夫が必要です。
入浴動作では以下のようなポイントで環境調整の工夫ができます。

  • ○滑り止めマット
  • ○手すり
  • ○シャワーチェア
  • ○入浴リフト

上記のような福祉用具の使用を状態に合わせて使い分けることが大切です。
たとえば、浴槽のまたぎを見ても、状態の良いときは立位で可能であっても、OFFのときや症状が進行した場合には座ってでなければまたげないことがあります。
そのため、手すりの位置をどちらのまたぎ方でもできるように設置するといった工夫が必要になります。
さらに症状が進行した場合には入浴リフトの導入の検討もします。
特に入浴動作は転倒や溺死といった事故につながるリスクが高いため、無理をせずに積極的な道具の活用が望まれます。

整容・更衣・そのほかに関する環境調整のポイント

整容・更衣・そのほかに関する環境調整のポイント

最後に整容や更衣、睡眠、食事といった場面での環境調整のポイントを紹介します。

●整容や更衣は道具を工夫して時間短縮をしよう

整容や更衣は症状が進行すると時間がかかり、本人はもちろん家族の負担も増えていきます。
そのため動作が行いやすいよう以下のような工夫をしましょう。

  • ○ボタンの小さい物を使わない(マジックテープであればより良い)
  • ○袖や襟の滑りやすい素材を使う
  • ○少し大きめで伸縮性のある素材を使う
  • ○ウエストのゴムを緩めにする
  • ○電動歯ブラシを使う

●寝具の工夫で睡眠を促そう

睡眠ではベッドを使用することはもちろんですが、布団の重さを軽くする、ひもと布団をつなげて引っ張れば布団がめくれるようにするといった工夫ができます。
ひもは結び目をつけて引っ張って起き上がりに利用することも可能です。
もちろん据え置き型の手すりを利用して、起き上がりや立ち上がりをしやすくすることも検討しましょう。

●食事姿勢は嚥下に重要

症状が進行すると嚥下機能の低下が見られます。
そのため、少しでも嚥下をしやすいような姿勢の調整が必要です。
また、箸ではなくスプーンやフォークを利用したり、滑りにくい食器を活用するなどの食事動作をしやすくする工夫もおすすめです。
二重課題が苦手な場合は、テレビを見ながら食事をすることで、うまく食事動作ができないことがあるため食事に集中してもらうようにしましょう。

※嚥下のしやすい姿勢については「姿勢を見直して誤嚥を減らそう!誤嚥性肺炎予防のためにできること」で解説しています。

患者さんの症状に合わせたオーダーメイドの環境調整を工夫して在宅生活を支援しよう

パーキンソン病は患者さんそれぞれで症状や進行度合いが異なります。
それに加えて、生活環境や家族構成、それに伴う介護力も違います。
そのため、患者さんの置かれた状況をしっかり把握して、それぞれに適したオーダーメイドの環境調整をしていくことが重要です。
今回ご紹介した例を参考にしながら、患者さんに合わせて環境調整を実施していきましょう。

  • 執筆者

    蔵重雄基

  • 整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
    現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
    医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。

    保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級

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