発達障害児の検査フィードバック。セラピストの言葉次第で保護者も障害受容に前向きになる!
発達障害児の支援現場では、発達検査フィードバックの言葉次第で、親の障害受容が進むことがあります。
反対に親が拒絶すれば子供に必要な支援を提供できません。
セラピストの説明で親を前向きにした例から、フィードバックのポイントをお伝えします。
発達検査を受ける前に親子が置かれる状況の過酷さ
発達検査を行うセラピストにぜひ知っておいていただきたいのが、検査にたどり着くまでの親子が置かれる状況の過酷さです。
発達障害は早い子では1歳、2歳くらいから「育てにくさ」が顕著となり、一般的な育児方法では対処が難しい生活場面が続々と出てきます。
睡眠の浅い子や癇癪がひどい子がいる家庭では、親の自己肯定感が低下し、鬱状態になり追い詰められる場合もあります。
しかし1歳半健診では「まだ診断できないので3歳くらいまで待ちましょう」と言われることもあり、診断を受けていなければ療育機関にも通えないという自治体もあります。
ただ発達障害は見た目では他人にはわからない分「しつけができてない」「この歳ならこれくらいできるでしょう」などと言われ、診断がなければ親は自分を責めることに。
つまり発達障害児を持つ親の多くは、3歳までは周りに大変さを理解されず、必要な専門家のアドバイスもなく孤立した状態で親だけで対応する孤立無援の日々が続きます。
やっと3歳児健診を迎え「要検査」となっても、父親や身内の検査への抵抗、専門医の少なさや検査希望者の多さから検査や診察に1年以上の待機期間が発生することもあります。
実際私が会った親のなかには「癇癪に耐えきれず子供を叩いてしまう」という人もおり、疲れ切って自分から自治体や保健師にSOSを発せられない段階の人もいました。
検査を受けることになっても、直前は親も不眠や不安で落ち込みが激しく、自ら検査を希望していたとしても「検査が子の一生を決める恐怖的なイベントと感じる」こともあります。
検査や障害について、インターネットや本で調べつくして不安いっぱいで張り詰めた思いで検査の日を迎える親もいます。
検査当日、親子が無事にそこに予約時間通り来院できていたなら。
セラピストはその親子がそこにたどり着くまでに経験した苦労にも想いを馳せてみていただけると良いフィードバックになると感じます。
ある親子が発達検査で前向きになれたフィードバック
例としてある親子が体験した発達検査について見てみましょう。
自閉症スペクトラムの傾向があり児童発達支援施設に通っている4歳児に、作業療法士による「新版K式発達検査」と親への聞き取り(感覚プロファイリング)が実施されました。
その子の困りごととして親は「耳からの指示が通りにくい」「大きな音にパニックになる」「言葉が遅い」「癇癪がひどい」と感じています。
長時間の検査をなんとか終え、親へのフィードバックの時間となり、セラピストの第一声は次のような言葉でした。
「お母さんもお疲れ様でした。お子さん、大変良く頑張られましたね。」
「検査からわかったのは、お子さんはほかのお子さんよりも世界が素晴らしく魅力的に見えているということ。見える世界がワクワク楽しい興味のあるものばかりに見えるんですね」
これには悪い検査結果ばかり言われると身構えていた親も驚き、前向きな言葉をかけられホッとして肩の力が抜けて涙さえ出てきたといいます。
この親はあまりに癇癪が多い子供なので、子の目には世界が「納得のいかない、嫌なものばかり」に見えて生きるのが苦しいのでは、と悩んでいたためです。
一般的なフィードバックでは「聴覚フィルタリングが弱い」と専門用語で説明したり、数値的説明から始める場合もあるでしょう。
しかしこのセラピストは最初に親が安心できる表現で特性について説明を開始したことで、その後の具体的な説明に対する親の心理的ハードルを下げることに成功しました。
これがいきなり数値説明や専門用語を突き付けて説明されていると、親も落ち込んでその後の説明も頭に入らなかった可能性があります。
このセラピストは、次に「お子さんは見える物への興味が強いから、耳からの指示に注意が向かず、目の前の楽しみを中断すると癇癪を起こす可能性もありますね」と説明しました。
数値の説明よりも、親が困っていることがなぜ発生するかの説明を優先したことで、親はセラピストへの信頼感を持て、その後の具体的な数値説明なども落ち着いて理解できました。
このフィードバックを受けた保護者は、子供を今後どう支援していくべきかをよく理解し、現在も親子で前向きにリハビリを続けています。
発達検査は時に検査結果に納得のいかない父親が怒ったり、その後の支援を拒否することも起こりますが、このようなフィードバックならまた結果も違ってくることでしょう。
発達検査の障害受容を助けるフィードバックのポイント
実際に現場でフィードバック後の親子の反応を見て、「セラピストの方にとっては当たり前かもしれないがやはり効果的だ」と感じたフィードバックのポイントをまとめました。
●検査結果は数値や専門用語だけでなく前向きな言葉で伝える
発達障害児の親は「戦闘兵と同程度の高いストレスを持つ」と例えられることもあります。
特に特性が強く出る幼少期は親に強いストレスがかかり、子への虐待の恐れもあります。
そのため特に幼少期の検査フィードバックでは、数値や専門用語だけでなく、できる面から説明したり、少し先の未来に明るい見通しを持てるような言葉でフィードバックすることが障害受容に有効です。
●困りごとへの具体的な対応策を伝える
親が知りたいのは「検査結果をどう生活上の困りごとに生かせばよいか」ということ。
親子の具体的な困りごとも聞き取り、検査結果だけでなく、具体的に日々の暮らしですぐ実行できる工夫を1つでも伝えられるとベストです。
たとえばセラピストが「視覚支援の絵カードが有効」と思ったら、そういう具体的な方法をフィードバックのときに伝えます。
そうして「困りごとは1つずつ工夫次第で改善していけるのだ」と良いイメージを持てれば、障害受容も進みます。
●検査結果の伝え方も「個別化」する
医療者としては検査を重ねると、ある種のパターンが見えてくるものですが、発達障害児の特性は千差万別です。
困りごとの種類や組み合わせ、程度も子供によってバラバラで、同じ診断名の子でも、親子ごとに困っていることや程度が違います。
そのため検査結果の伝え方も、親子の困りごとを毎回確認し、十人十色の特性に合わせて「個別化」した説明を行う必要があります。
「個別化」はご存じの通り、対人援助で用いられる「バイスティックの7原則」の1つで、どんなに似た状況に見えても「個々の人間の状況は独自なものであり、1つとして同じ問題はない」とする考え方です。
この個別化の視点で見ていることが患者に伝わると、患者自身が自分に価値を感じ、自分の問題を自分で解決する力が生まれるとされています。
発達障害には特にオーダーメイドのように、その親子の困りごとに合わせて説明の仕方を変えて対応するのが効果的です。
●否定的反応があっても「非審判的態度」で受け止める
現代の保護者は検査を受ける前に既に障害についてネットや書籍でかなり勉強していることがあります。
そのように予備知識があり覚悟して検査に来ていたとしても、やはり発達検査の結果を聞くとショックは大きく、結果に対し怒り出すなど親が否定的反応を示すことがあります。
既にご存じの通り、ここでもバイスティックの7原則にある「非審判的態度」を保つことで、まだ障害受容できていない親の気持ちを一緒に受け止めることができます。
つまり「支援者は自分の価値観で患者の態度を批判や審判しない」と伝わる態度・気持ちで親子に寄り添います。
支援者の気持ちは態度で伝わってしまうので、内心で批判することも避けましょう。
たとえば保護者に「この子は障害なんてない、支援も必要ない」と言われても「でも」とは考えず「そうですよね、できることがたくさんあるので、良いところを伸ばして行きたいですね」という気持ちで接するなどです。
そうすることで、保護者は「子に障害が見られる」「福祉の支援が必要な子である」と決めつけられることへの恐怖や自分の態度への罪悪感を軽減でき、受容につながっていきます。
●やはり専門家の「これからも一緒に考えましょう」という言葉は嬉しい!
専門職としてよく使うワードだとしても、やはり「これからも一緒に考えていきますよ」という言葉は、発達障害児の親にとってはとても嬉しいものです。
発達障害は見た目でわからない分、日常的に親子で世間の批判にあって孤立しがちなので、理解者やアドバイスをくれる存在は貴重です。
医師、療育施設スタッフなどのサポートだけでなく、セラピストもまた自分の育児を応援してくれる存在であると実感できると、障害受容に前向きになれる一助となります。
特に今後何度も受けることになる発達検査は、親にとって苦痛を伴うものでもあります。
次の検査への不安を取り除く意味もこめて、検査の終わりには「これからも一緒にお子さんを見守りましょうね」と一言伝えていただけると幸いです。
フィードバックは良くも悪くも親子の羅針盤になる!
発達検査はこれから子供に必要となる支援やリハビリについて、親が前向きに必要性を理解できるようなフィードバックの仕方が重要です。
特に親子にとって「初めての発達検査」では、セラピストのフィードバックが言葉次第で良くも悪くもその親子の生き方・障害への向き合い方の「羅針盤」となってしまいます。
動揺する保護者もいますので、ぜひフィードバックの時間をしっかりとって実施頂き、発達障害児と親の生きる道筋が明るく照らされるよう手助けしていただけると幸いです。
参考:山縣文治・柏女霊峰(編): 社会福祉用語辞典 第4版. ミネルヴァ書房, 東京, 2004, p.103, p.297.
-
執筆者
-
大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。
保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士