正しい知識で褥瘡予防!医師が解説する褥瘡のメカニズム
寝返りができなくなってしまうと発生しやすくなる褥瘡(じょくそう)。
一般的には「床ずれ」といわれる褥瘡がどうして発生してしまうのか、そのメカニズムについて説明します。
褥瘡とは?
日本褥瘡学会では褥瘡を「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」と定義しています。
わかりやすくいうと、身体に加えられた力によって、骨と皮膚表面の間の血流が悪くなり、その状態が一定時間続くことによって栄養や酸素が行き届かなくなってしまい、傷が治らない状態となって褥瘡が発生してしまうのです。
つまり、褥瘡の原因は
- ①身体の一部に圧力が加えられてしまう
- ②血流量が少なくなり傷が治りにくい
の2つにあるといえます。
逆に、力がかかりにくくする、傷を治しやすくすることが褥瘡対策になります。
そのことについて詳しく説明していきます。
褥瘡の原因となる3つの応力
褥瘡の部分に発生する力として、3つの応力と、それに伴う血流障害および変形があります。
- ①圧縮応力
- ②せん断応力 + (阻血障害、再灌流障害、リンパ障害、変形)
- ③引張応力
まず力について説明をします。
①圧縮応力
身体がベッドに押しつけられるように働く力です。
体重で垂直にかかります。
②せん断応力
ベッドのある面で滑って落ちないようにするずれによる摩擦の力です。
座位では特にずれの力がかかり、接触面積も小さくなるため要注意です。
③引張応力
身体に力がかかることで、引き伸ばすように作用する力です。
①の圧縮応力は簡単にいうと体重としてかかる力です。
体重に反発して床からかかる放射状の力によって身体が圧迫され、皮膚や皮下組織はダメージを受けやすくなります。
特に腰や肩など、服の上からでも骨がたどれる脂肪の薄い部分で褥瘡が起こりやすくなります。
さらに②のせん断応力、つまりずれによる力が加わることで当たっている部分の組織にダメージをより与えることになり、③の引張応力で皮膚および皮下組織が引き伸ばされて、その組織に栄養がいかない虚血状態になって循環障害が起きます。
またそういったずれによる褥瘡は、いったん起きてしまうと治すことができない、不可逆な状態になりやすいといわれています。
座っていると、接触面積が小さいため体重である①の圧縮応力が大きくなるだけではなく、身じろぎや衣服やおむつと身体とのずれの力による②のせん断応力によって、褥瘡が起きやすくなります。
褥瘡が起きやすい方で、座ることすら難しいことの多い場合は、前傾姿勢をとってしまうと体重でずり下がってしまい、摩擦の力、すなわちずれの力が発生しやすくなります。
また、このような①から③の力がかかることに加え、血が流れない阻血障害、および一度途絶えてしまった血流が再開する再灌流(さいかんりゅう)障害や毛細血管周囲のリンパ管障害、変形などに伴った褥瘡が発生してしまうのです。
褥瘡の起きやすいところは?
日本褥瘡学会の調査によると、仙骨部が40~50%と圧倒的に多く、その後尾骨、踵部、大転子部(それぞれ10~20%)と続きます。
褥瘡が起きやすいところ、それは体位でも変わってきますが、ずばり、骨が突出しやすい場所です。
一般的に仰臥位では、後頭部、肩甲骨部、肘部、仙骨部、踵部に、側臥位では、耳介部、肘部、大転子部、膝関節部、外果部に、座位では、背部、尾骨部に起きやすいといわれています。(図参照)
また、褥瘡の起きる場所や発赤の特徴をよく知ることで、褥瘡と間違えられやすいかぶれや蜂窩織炎(ほうかしきえん)などのスキントラブルにも気をつけましょう。
スキントラブルについては「高齢者によくあるスキントラブル”発赤” その発赤、緊急性はある?ない?」を参考にしてください。
褥瘡が起きるメカニズムを知り、褥瘡になりにくい身体をつくろう
褥瘡の対策としては、
- ①力がかからないようにする
- ②褥瘡になりにくい身体をつくる、傷が治りやすくする
力がかかりにくくするには体位変換をこまめに行うことです。
身体の状態に応じて、約2時間ごとの体位変換が推奨されています。
また、体圧分散寝具は身体の接触面積を増やすことで、骨が当たる部位の圧力を減らすことができます。
ずれによる摩擦力を減らすためには、クッションを挿入した後、クッションと身体の間に手を入れる圧抜きも効果的です。
便や尿で皮膚がぬれて蒸れたり、汚染されたりすると褥瘡になりやすいため、清潔を保ち、撥水効果の高いクリームやオイル、保護テープを使用しましょう。
また、低栄養で痩せがひどいと、褥瘡になりやすく、また治りにくくもなります。
高エネルギー、高タンパクの食品を積極的に摂取するようにしましょう。
参考:
武田利明: 褥瘡ケアを支援する基礎研究-実践知を見える化するための工夫-. 日本褥瘡学会誌 第20巻1号, 2018.
日本皮膚科学会 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―2:褥瘡診療ガイドライン(2020年12月10日)