呼吸リハビリ中に予測すべきCO2ナルコーシスの発生機序と所見の見方、注意点をマスターしよう
血液中の酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度が上昇した状態を呼吸不全と呼びますが、二酸化炭素が体内に蓄積しすぎた状態をCO2ナルコーシスと呼びます。
呼吸リハビリを行う上で呼吸機能だけでなく、さまざまな症状を引き起こすCO2ナルコーシスはリスク管理の上でも重要な兆候です。
今回はそのCO2ナルコーシスについて解説または対処法についてお話ししたいと思います。
目次
CO2ナルコーシスはなぜ起こる?引き起こされる症状と呼吸リハビリに与える影響
ではまずCO2ナルコーシスの定義とそれに伴う症状について、また呼吸リハビリとの関連についてもお話しすることにしましょう。
●CO2ナルコーシスはこうして起こる。急激な高濃度酸素には注意が必要
CO2ナルコーシスは肺胞の低換気が背景にあります。
慢性的な呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)など)の方は、低酸素であるだけでなく体内のCO2も健常人より高い状態ですが、身体が低酸素であることに慣れています。
そのような患者さんに突然高濃度の酸素を与えると脳の呼吸を司る延髄は、酸素が十分にあると認識してしまうのです。
その結果、肺胞でのガス交換をやめてしまう(呼吸停止)またはセーブしてしまい、二酸化炭素を排出できず体内に蓄積してしまい、体内のCO2が高濃度となります。
これをCO2ナルコーシスと呼びます。
●CO2ナルコーシスは意識障害、呼吸停止などを引き起こす
CO2ナルコーシスは呼吸停止もしくは減弱だけでなく、CO2が体内にたまることで呼吸性のアシドーシス(pHが低下する)になり意識状態が低下します。
重度の場合には意識消失し、呼吸状態の悪化も伴って危機的な状態に陥ります。
もちろん、何らかの原因や疾患により急激な酸素不足に陥った場合は、高濃度の酸素は身体を酸素不足から回復させるためには必要です。
その場合には継続的な観察を行い、呼吸状態や意識状態の悪化の前に挿管などによる強制的な換気を行います。
リハビリ中にも、患者さんの呼吸や意識状態の変化に十分な注意を払いましょう。
特に注意すべきCO2ナルコーシスの身体所見と検査所見
CO2ナルコーシスは呼吸リハビリを行う上で、リスク管理の一つとしても重要な要素です。
どのような検査所見や身体所見に気をつければよいのでしょうか。
●CO2ナルコーシスに気をつけるために、血液検査データ、呼吸状態を観察
CO2ナルコーシスの診断には動脈血ガス分析値を確認する必要があります。
この動脈血ガス分析では、pH、PaCO2、PaO2、HCO3-に注目し、pH<7.30、PaO2>80Torrであれば、CO2ナルコーシスになっている可能性が高いと考えられます。
動脈血は静脈血とは異なり酸化すると分析値に誤差か生じるため、採取後すぐに測定する必要があり、ICUなどに分析機器が置かれているところもあります。
動脈血ガス分析は、初診時など動脈に留置カテーテルなどが挿入されていない場合は、医師により採取されるということもあり、頻回に行われる検査ではありません。
呼吸状態の観察は呼吸の深さ(胸の沈み込み具合や呼吸補助筋の活動の有無や変化)や呼吸数などに注目してリハビリを進めましょう。
●既往歴に慢性呼吸器疾患を持っている場合は、CO2ナルコーシスに十分に注意をする
まずはCOPDなどの慢性呼吸器疾患を既往歴に持っている方は増悪前の血液ガス分析値の履歴がないか確認しましょう。
またレントゲンなどで、慢性呼吸器疾患の疑いがないかどうか、喫煙歴についても呼吸リハビリを始める前に問診または評価しておくことも大切です。
呼吸リハビリ中に気をつけたいCO2ナルコーシスのリスクと注意点
CO2ナルコーシスを発症させないためにどのようなことに気をつけ、実際に患者さんに接し、指導するべきなのかについてお話ししましょう。
●まずはきちんと呼吸不全の原因について考察し、CO2ナルコーシスになる可能性があるのかを予測しよう
まず呼吸不全と呼ばれる病態には、
a)I型呼吸不全
○換気血流比の不均等
気道・肺胞疾患や肺循環障害、間質性肺疾患など
○拡散障害
間質性肺炎、広範な無気肺や肺切除、COPD、多発性の肺血栓塞栓症、肺門部の腫瘍による肺動脈の血流不全、貧血など
○左右シャント
無気肺や肺炎、肺内の血管シャント、心臓内の左右シャントなど
b)II型呼吸不全
○肺胞低換気
COPD、脳血管障害(脳幹出血)、神経筋疾患(重症筋無力症、筋ジストロフィーなど)、側湾症、極度の肥満、重度の気管支喘息など
に大きく分けられ、PaCO2の上昇を伴うII型呼吸不全の場合にはCO2ナルコーシスに陥る可能性があるとされています。
まずは患者さんの呼吸不全の原因がどれに該当するのか、I型なのかII型なのかについて呼吸リハビリを始める前に確認しておくとよいでしょう。
●CO2ナルコーシスにならないように呼吸リハビリ中は酸素流量を確認、患者さんにも酸素流量などをあげないように指導する
CO2ナルコーシスはこれまでに説明したように、高濃度の酸素投与で起こり得ます。
高CO2血症の可能性がある患者さんでは、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が90%前後になるようにコントロールされるため、健常人の参考数値よりも低い目標であることを知っておきましょう。
在宅酸素療法などをすでに行っている患者さんは普段吸引している酸素の量を熟知しています。
しかし息苦しさから酸素流量をあげてしまわないように、患者さんにもCO2ナルコーシス、パニックコントロールについて説明しておくとよいでしょう。
また呼吸リハビリ中においても、酸素流量が正しいかを確認し、リハビリスタッフの独自の判断などで、流量の変更は行わないようにしましょう。
CO2ナルコーシスは呼吸リハビリにおいても重要。予測と教育が大切
CO2ナルコーシスは呼吸リハビリを行う上で、その危険性を予測しておくことで、リスク管理また患者さんへの指導などに用いることが可能です。
患者さんの既往歴や状態を確認し、CO2ナルコーシスに陥っていないか注意を払うなど、患者さんに関わる医療従事者全員が共通の認識を持っておくことが重要です。
参考:
京都府立医科大学大学院医学研究科 外科学教室 呼吸器外科学部門 CO2ナルコーシス(2020年12月24日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士