発達障がいの患者さんには「絵カード」を用いた診察が効果的!活用方法を説明します
発達障がい者が病気やケガで受診する際には、越えなければならないハードルが多数存在し、時にはパニックになることも。
しかし「絵カード」で視覚的に理解できる配慮をすると、スムーズに診察できる場合も。
具体的に絵カードの用意や活用方法を説明します。
目次
発達障がい児・者がケガや病気で受診する際のハードルは高い!
医療機関では患者負担が最小限になるよう診療環境づくりがされていますが、それでも発達障がいのある方、特に子どもが病気やケガで受診するには多くのハードルがあります。
たとえば自閉症スペクトラムの場合、見通しの立たない状況では不安が強くなり、人によってはパニックになります。
初めての人や場に極端に弱い場合もありますし、聴覚や視覚・触覚に過敏があると口に診療道具が触れたり医療者の大きな声がしたりすると恐怖に感じる場合もあります。
気持ちの切り替えが難しく、次の診療過程になかなか進めない子どももいます。
注意欠如・多動性障害では次々と色んなものに興味が出て座っているのが難しい場合も。
そうした半面、発達障がいには「耳情報より文字や図形が理解しやすい」「見通しがわかればきちんとできる」「長い複雑な説明よりシンプルな説明がわかりやすい」という特徴も。
こうした障がいの特徴を活用した「見てわかりやすい工夫」は一部の小児科や歯科では導入されていますが、まだまだ取り入れている医療機関は少ないのが現状です。
障がい特性にあった配慮があると患者は受診に恐怖心を持たなくてすみますし、何より医療者がラクに診察でき十分な治療ができます。
障がいのある方が安心して受診できる病院やクリニックが広まるよう、医師だけでなく看護師やコメディカルの方にも興味を持っていただき、積極的に導入していただけると幸いです。
「絵カード」は発達障がい者の特性をカバーしてくれる
発達障がいの人の受診で配慮すべき点はいくつかありますが、なかでも「絵カード」を導入すると診療がスムーズにいくことが期待できます。
筑波大学医学医療系・水野智美准教授の研究(2015年)によると、特に発達障がい児への絵カード使用には以下のメリットがあります。
●「視覚優位」な特性をうまく活用できる
発達障がい児のなかには「視覚優位」の特性がある子もおり、耳からの説明ではわからなくても目で見る手がかりがあれば理解できるため、言葉に加えイラストや写真も一緒に示して指示すると言葉の意味を理解しやすい
●自身の衝動を制御でき適切な行動が取れる
思いつきで衝動的に動いてしまったり、不測の状況に取るべき行動がわからなくなったりしそうなときも、絵カードがあると自身をコントロールできやすくなる
●ワーキングメモリの弱さをカバーできスムーズに行動できる
発達障がいによりワーキングメモリが弱い場合があり、一度に複数を覚えたり同時にタスクを処理するのが苦手な人もいる
→絵カードがあると記憶の保持を補え次にすべき行動を確認でき、落ち着いて行動できる
「絵カード」は実際に小児科や障がい者歯科分野で導入されており、たとえば筆者の子どもが通う小児科では診察室にイラストで診察手順が掲示されています。
特に「診察の手順の見通しがわからないと混乱する」タイプのお子さんには、自作の絵カードで受診前に子どもに言い聞かせて病院に行く保護者もいるほどです。
障がいの有無に関係なくどんなお子さんも耳の聞こえにくい高齢者もイラストやマークがあると一目で手順がわかりますし、高価な道具がいらず絵だけなのでコストもかかりません。
「絵カード」の用意と活用方法
では実際に病院やクリニックで使用する「絵カード」をどのように用意するか、具体的な方法と活用の仕方を説明します。
●絵カードを自作するには無料イラストサイトを活用!
絵カードは自作することもできます。
手書きのイラストでもいいですし、webの無料画像サイトからイラストや写真をダウンロードして作成が可能です。
たとえばこちらは無料イラスト素材提供サイト「イラストAC」で提供される無料イラストを使って私が作成した絵カードです。
この場合は「病院 診察 こども」というワードでイラスト検索しました。
ほかにも無料写真素材を提供するサイトがあります。
なお絵カードを作る際、前述の筑波大学水野智美准教授によれば次のような点に注意が必要です。
<絵カード作成時のポイント>
1)絵や写真に映るノイズを減らす
→背景に伝えたいもの以外が映ると注意がそがれるので無背景で撮った写真を使うなど
2)1つのカードに複数の意味を持たせない
→たとえばイスに座って嬉しそうにVサインをしたイラストだと、座るのかVサインするのかわからない
3)実物とカードの色や形態がかけ離れないように
→実際に診察に使うモノがはっきりしている場合、できればその写真を使ったり実物に近い形のイラストを使用したりすると混乱しにくい
4)絵カードのサイズは大きすぎないように
→発達障がいがあると注意して見ることができる範囲がせまくなるので、カードが大きすぎると一部にしか注意を向けられないため、写真L判サイズくらいがのぞましい
なおカードを見せるときは簡単な声かけとともにタイミングよく見せる、カード通りにできた場合は必ず「ほめる」ことも重要ということです。
また小児歯科学雑誌に掲載された平田涼子・海原康孝らによる報告(2014年)によると、字が読める自閉症傾向の子には絵カードだけでなくホワイトボードを活用することも有効です。
ホワイトボードに「①おくちをあける ②はみがき ③おくすり(りんごあじ) ④ごほうび」など、手順を数字とひらがなで書き、終わるごとに1つずつ本人に消してもらう方法です。
こちらの方法は消すことで達成感も得られます。
●「絵」カードを公開する機関のサイトからダウンロードも可能
またweb上には医療機関で使える絵カードを公表している機関もあります。
以下のサイトでは医療用の「絵カード」やイラストのダウンロードや購入が可能です。
1)大阪府「医療サポート絵カード」
こちらの大阪府サイトでは「医療サポート絵カード」を誰でもダウンロードでき、使用方法も書かれています。
(同じ絵カードを「社会福祉法人 大阪市知的障害者育成会」でも購入できます)
掲載されているカードはこちら
2)Sプランニング「コミュニケーションボード」
知的障がいのある方向けの本の出版社のホームページで、医療機関向けのコミュニケーションボードがダウンロード可能です。
保険証の提示など診察の前段階からのイラストがあり、CTや心電図など検査のためのイラストもわかりやすく作られています。
掲載されているカードはこちら
3)荒川区「コミュニケーション支援ボード」
こちらは荒川区のホームページに災害時の備えとして障害のある方や意思疎通が難しい人とのコミュニケーション支援に使えるボードが掲載されています。
発達障がいにかぎらず、痛みのある場所や痛みの程度をイラストで確認したり、障害手帳や身内・連絡先の確認ができたりする内容となっています。
掲載されているカードはこちら
4)ドロップレット・プロジェクト
お子さん向けのかわいらしい印象のイラストを視覚的支援用に作成されています。
一部(セット3)以外は無料でダウンロードが可能です。
「6-6.健康診断、保健」カテゴリでは、「舌圧子を口に入れる」「診療台に寝る」「駆血帯をつける」「検尿」「超音波検査」など詳細なイラストが用意されています。
掲載されているカードはこちら
以上のようなカード・イラスト提供サイトの規約をよく読み有効活用して、色んな特性を持つ方の診療にお役立てください。
●診療場面に合わせた活用方法
絵カードの具体的な活用方法として、厚生労働省障害保健福祉推進事業より「医療機関のみなさまへ」というパンフレットが作成されています。
http://www.rehab.go.jp/application/files/9215/8408/8104/6acffbb68a603d51d56e746114849d15.pdf
これには治療の順番を絵で示す・手に持ちながら診療を受けられるカードにする・ブックレットのようにして待合室で見て見通しを持ってもらうという方法が載っています。
また検査室をあらかじめ見学する、ほかの人が検査を受ける様子を見せる、終了時間を示す、といったことに触れられていますので絵カード活用の参考にご覧ください。
障がいに配慮した診療環境はほかの患者や医療者にもメリット大!
発達障がい者に配慮した環境は、ほかの患者にとってもわかりやすく不安が少なくなります。
何より、医療者にとってもスムーズに診療を提供できる安心感につながります。
自分で絵カードを用意しようとする保護者もいますが、病院で具体的にどのような処置を受けるかあらかじめわからず用意が難しい側面もあります。
診療の一部でも絵カードなどの配慮を取り入れ、効果をお試しいただけると幸いです。
参考:
厚生労働省 発達障害の特性(代表例)(2021年2月16日引用)
水野智美: 保育者が行う絵カード作成の誤りおよび不適切な使用方法の分類ー指示カードの誤りに着目して―. 教材学研究26(0): 165-172, 2015.(2021年2月16日引用)
平田涼子, 海原康孝, 他: 歯科診療時における自閉症スペクトラム児の個々の特性に合わせた対応. 小児歯科学雑誌52(1): 90-96, 2014.(2021年2月16日引用)
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執筆者
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大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。
保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士