慢性硬膜下血腫の予防にもなる患者さんに対する指導方法
頭部外傷後に、数カ月たってから慢性硬膜下血腫で来院される患者さんを目にします。
頭部外傷などエピソードが明確な場合、受診時の指導で慢性硬膜下血腫は予防ができることも。
この記事では、慢性硬膜下血腫の予防のために看護師としてどのような指導ができるのかをお伝えします。
患者さん自身には気づきにくい慢性硬膜下血腫
●慢性硬膜下血腫の病態
頭部外傷後などに、硬膜とくも膜の間に出血が起こり、肉芽組織である被膜が形成されます。
被膜は血管が豊富であり、出血をしやすい状態にあります。
また、一度破綻した血管は修復されることなく、少しずつ出血を繰り返すため、徐々に血腫は増大していくのです。
原因となる受傷起点は頭部外傷が主です。
しかし私が関わった方のなかでも、バランスを崩して転倒して頭部裂傷を受傷した方、机の下にあるものを拾おうとかがんだときに頭部を机にぶつけた方など、外傷の程度はさまざまでした。
軽微な外傷ですと患者さん自身も、これが命に関わる病態になりうるとは思わないのかもしれません。
また、慢性硬膜下血腫は原因が不明な特発性のものもあり、周囲も気がつきにくいケースもあります。
症状は緩徐に進行し、長期間放置した場合は脳ヘルニアにいたり死亡します。
●慢性硬膜下血腫の症状
慢性硬膜下血腫の症状は頭痛・嘔気・嘔吐・歩行障害などの頭蓋内圧亢進症状が主なものです。
しかし、高齢の患者さんですと疼痛の感覚が鈍化することがあり、頭痛の訴えがないケースもあります。
また、すでに認知症に罹患していると、自覚症状をうまく言語化できないケースもあり、発見が遅れることもあるのです。
●画像所見
頭部CT上に三日月形の低~高吸収域が見られます。
慢性硬膜下血腫の指導内容
頭蓋内圧亢進の具体的な症状に加え、症状が起こりうる時期などを用紙にプリントして渡します。
具体的には以下の内容です。
- 1)頭部外傷後は時間をかけて頭の中に血液の塊ができてしまう場合がまれにあります。 (慢性硬膜下血腫といいます)
- 2)この症状は頭のけがから2週間から3カ月の間ぐらいに起こることがあります。
この期間は症状が出ないか注意してください。 - 3)具体的な症状は、頭痛・吐き気・歩行障害・転倒する回数が増えた・尿失禁・認知症状などです。
なかには、何となく食欲がない、活気がないという症状の方もいます。
いつもとくらべておかしいと感じたら、脳外科を受診してください。
指導対象者は若い世代の方も
高齢の患者さんが受診されたときに家庭環境を伺うと、一人暮らしや配偶者との二人暮らしの高齢世帯というケースが多いです。
その場合、指導をしてもプリントを読んでいただけない場合や注意したことを気に留めていただけないケースもあります。
高齢夫婦の二人暮らしで双方が軽度の認知症の家庭ですと、指導内容の理解は困難な場合もあり、高齢世帯への指導の難しさを実感します。
そこで、指導は付き添いの子ども世代の方にも行います。
高齢の患者さんのみで受診した場合は、お子さんに用紙を読んでいただくようお願いします。
さらに、ケアマネジャー、ヘルパーなど、患者さんの生活に関わっている方すべての方に伝えるのが理想的です。
周囲の方に観察してもらうことで、慢性硬膜下血腫の兆候を発見してもらえる可能性が高まります。
実際に「よく転ぶようになった」と息子さんに連れてきてもらった患者さんもいらっしゃいました。
慢性硬膜下血腫は症状が緩徐に進んでいくために、発見するまでに時間的猶予があります。
この間に、本人もしくは周囲の方が「様子がおかしい」ということに気がつけば、受診が可能です。
硬膜下血腫が発見され、血腫が小さければ薬物療法、大きければ開頭により血腫除去を行えば治癒も可能なのです。
慢性硬膜下血腫は、早期発見・早期治療が重要であり、そのためには周囲の知識、観察も必要になってきます。
看護指導が慢性硬膜下血腫の予防の一助となる
頭部外傷の患者さんが受診されると、処置や検査などに追われることが多く、ひとまずCT・処置が終了後帰宅となると看護師も患者さんもほっとして終わり、ということも多いのではないでしょうか。
その後の指導まで徹底されていないケースもあるかと思います。
救急外来・脳外科外来には頭部外傷をされた患者さん向けの指導用紙を置いてあると思いますが、いま一度、指導対象者も含めて見直してみてはいかがでしょうか。
慢性硬膜下血腫は知識のもと症状を観察できれば予防できることもあると考えます。
参考:
医療法人徳洲会 岸和田徳洲会病院 受診される患者様へ(2021年5月7日引用)
脳神経外科疾患情報ページ 慢性硬膜下血腫(2021年5月7日引用)
医療情報科学研究所(編): 病気がみえる Vol.7 脳・神経 第2版. メディックメディア, 東京, 2017, p.544.
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執筆者
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小児外科・整形外科病棟・総合病院の外来などを経て2015年より医療・看護ライターに。並行して派遣看護師としてデイサービス・整形クリニック・健診機関などで勤務しています。看護師歴は20年以上。看護の知識と実践で得たことを糧に、読者様にわかりやすい記事を届けます。
保有資格:看護師・介護支援専門員