クローヌスは日常生活やリハビリ運動を阻害する。ガイドラインに沿った治療法、リハビリについて解説
クローヌスとは自分の意思とは関係なく起こってしまう筋肉の痙縮です。
時にリハビリを阻害したり、日常生活動作に影響を与えたりします。
患者さんにリハビリ指導をするときに押さえておきたいポイントや、クローヌスとうまく付き合う方法やコントロール方法を指導するときに知っておきたいクローヌスのメカニズムについて解説します。
目次
クローヌスとは上位ニューロンが障害された状態。そのメカニズムとは
クローヌスはどのようなメカニズムで起こっているのでしょうか。
●クローヌスは自分でのコントロールが困難な上位ニューロンが障害された状態
クローヌスは上位ニューロン障害であり、中枢神経疾患と呼ばれる脳卒中や脳外傷、脊髄損傷などにより引き起こされます。
筋肉が引き伸ばされる伸長刺激により、運動の抑制が効かなくなり、中枢(この場合脳)からの刺激に対し過度の反応をしてしまいます。
関節がほんの少しの刺激で何度も動いてしまい、随意的にコントロールできない状態をクローヌスと呼びます。
ほかにも痙縮(スパズム)や姿勢の異常、筋肉が同時に収縮してしまう同時収縮なども上位ニューロン障害の症状です。
●クローヌスは日常生活やリハビリの阻害因子として大きな影響を及ぼす
クローヌスを筆頭とする上位ニューロン障害により、筋の短縮や関節可動域制限を後続的に引き起こし、疼痛や歩行、日常生活動作を障害します。
- ○更衣動作に時間がかかる、もしくは介助が必要となる
- ○家事動作に影響が生じる
- ○他動的に動かそうとすると痛みを生じる
- ○歩行、階段昇降など移動の際にクローヌスが起こることで動作が障害される、もしくは中断が必要となる
- ○日常生活動作において杖などの歩行補助具や歩行介助が必要となる
クローヌスの出現は上記のような影響を及ぼし、リハビリの阻害因子となります。
クローヌスとの付き合い方、コントロールはリハビリの上でも大切
患者さんがクローヌスと上手に付き合っていくにはどのようなことに気をつけると良いのか、また、患者さんへの指導はどのようにしたら良いのかについて解説します。
●クローヌスには痙縮の強い筋群の十分なストレッチや装具による痙縮の強い筋に相対する伸筋群の伸長
クローヌスは痙縮と同様に屈筋群の筋肉の緊張度合いが亢進して起こります。
その屈筋群のストレッチにより、関節可動域の制限を改善することで日常生活動作上の困難を軽減または取り除きます。
重力下では上肢では屈筋群、下肢では伸筋群の筋緊張の亢進が見られることが多いと言われており、クローヌスはこれらの筋緊張が亢進している筋が急激に伸長される刺激が加わった際に起こります。
そのため、下肢の強い痙縮により起こる内反尖足には装具などによる持続的なストレッチは筋緊張の抑制効果を有するといわれており、これらのストレッチや装具の使用は行うように勧められる根拠があるといわれています(推奨グレードB)。
クローヌスを引き起こす可能性があるであろう痙縮に対するストレッチや装具の使用は、リハビリを行う上でも考慮すると良いでしょう。
●ほかに温熱療法や経皮的電気刺激(TENS)も
温熱療法に関しては、20分間の下腿三頭筋の冷却により、足クローヌスの低下が認められるが、その関節可動域の改善度はわずかであり、十分なエビデンスには至っていません。
温熱療法は上肢の場合、安静時の筋緊張亢進を和らげるために、痙縮を起こしている屈筋群に施行します。
経皮的電気刺激(TENS)は刺激頻度やその施行期間により推奨されています。
特にTENSは下肢の場合、クローヌスを引き起こす筋緊張の高い伸筋群の拮抗筋である屈筋群の随意運動時に用いることで、運動能力の改善とともに痙縮の改善、しいてはクローヌスの改善も認められるといわれています。
TENSを用いたバイオフィードバック療法は痙縮やクローヌスの軽減だけではなく、歩行能力の改善などにも効果があるといわれており、有用なリハビリの一手段といえます。
リハビリ以外のクローヌスの治療には手術療法、薬物療法なども
リハビリ以外でのクローヌスの治療法についてもここでご紹介しておきましょう。
●クローヌスの非侵襲的な治療としてはエビデンスに基づいた薬物療法も推奨される
2015年の脳卒中ガイドラインでは、痙縮に対してダントロレンナトリウムやチザニジン、ジアゼパム、バクロフェン、トルペリゾンといったいくつかの薬剤についてはエビデンスに基づき推奨されています。
体内にカテーテルポンプを植え込み、バクロフェンを持続的に投与できるITB(intrathecal baclofen)療法は顕著な痙縮に対して行われ、推奨されている薬物療法の一つです。
顕著な痙縮による内反尖足や足クローヌスにより、日常生活動作が妨げられる場合には脛骨神経や下腿筋に対してボツリヌス療法(ボツリヌスを注射)が行われることもあります。
ほかにも筋緊張が高い筋への神経ブロック(フェノールブロック)もガイドラインでは推奨されています。
●痙縮に対する手術療法も
痙縮による内反尖足に対してはアキレス腱の延長術などが行われる場合もありますが、ほかに選択的脊髄後根遮断術(SDR)などにより痙縮の軽減を図ることもあります。
特にアキレス腱の延長術は小児の例において行われ、効果の持続がもっとも期待できる方法です。
しかし、手術に際しては慎重に判断する必要があり、担当の医師とよく相談されることをお勧めします。
クローヌスに対してエビデンスに沿った効果的なリハビリや治療を
脳卒中や脊髄の損傷などによる筋緊張の亢進で起こるクローヌスは、日常生活動作、移動能力、リハビリにも大きく関係します。
エビデンスに沿ったリハビリや治療法により、クローヌスの軽減が効果的に行えますので、診療の一助に役立てましょう。
参考:
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン [追補2019] 委員会 脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019] pp.292−294(2021年5月17日引用)
脳卒中治療ガイドライン2009 痙縮に対するリハビリテーション(2021年5月17日引用)
池田巧, 栗林正明: リハビリテーション医療における痙縮治療. 京都第一赤十字病院医学雑誌1巻1号, 2018.(2021年5月17日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士