経鼻胃管挿入中に起こるインシデントの種類と予防方法
経鼻胃管のインシデントは、誤挿入による誤嚥性肺炎・鼻孔の潰瘍など多々あります。
全国で毎年起きている経鼻胃管挿入中のインシデント。
なかでも、重篤なものは胃管入れ替え後の死亡例もあります。
こうした事故防止のために何ができるか。
対策や観察点について考えていきます。
目次
経鼻胃管挿入患者さんの特徴
経鼻胃管を挿入する患者さんは、嚥下機能の低下などにより自ら栄養を経口摂取できない、上部消化管の癌により経口摂取ができない患者さんです。
なかでも、脳梗塞、進行性核上性麻痺、パーキンソン病など脳・神経系の疾患で言語能力の低下を伴っている場合は、言葉による訴えが十分にできない患者さんも多いようです。
経鼻胃管をしている患者さんのなかでも意思疎通が困難な患者さんは、経鼻胃管による合併症を起こしても苦痛を訴えることが難しくなります。
このため、合併症の発見が遅れる場合があるのです。
身ぶりなどによる感情表現も少ないか、ほとんどないことも多いため、経鼻胃管挿入の合併症の発見は私たち看護師の観察力にかかっているということを頭に入れておいたほうが良いでしょう。
経鼻胃管挿入時に注意すること
看護手順は基本に忠実に行い、製品の添付書も頭に入れて行うことが重要です。
セオリーと異なる手順で挿入したために起こるインシデントは多く発生しています。
たとえば、経鼻胃管の挿入確認は、胃内の空気音の確認のみでは不十分です。
空気音の確認は単独の方法として取り入れず、胃液を吸引してpHを確認する必要があります。
看護手順通り、二重三重のチェックをすることで、誤挿入のリスクを低減できます。
また、静脈経腸栄養ガイドラインでは、胃管の挿入が4週間以上になる場合は胃ろう増設を選択するなど、経鼻胃管の長期挿入をしないよう求めています。
これは、経鼻胃管を留置すると合併症である逆流のリスクが高まるためです。
経鼻胃管挿入中のインシデント例:誤挿入
経鼻胃管が本来挿入されるべきではない位置に挿入されることによる重大な事故では、患者さんが死に至る例が多くなっています。
気管内や肺内に誤挿入されるのみでは直ちに患者さんは急変しません。
しかし、挿入した胃管には必ず栄養剤が挿入されます。
この栄養剤の挿入により、肺が機能不全となり、胃管を誤挿入された患者さんが死に至るケースやのちに障害が残ってしまうケースが発生してしまいます。
先述した通り、経鼻胃管を挿入した患者さんは意思疎通が難しい患者さんも多く、なかには意識レベルが低下している方もいます。
意思疎通が難しい患者さんは嚥下反射も低下している方も多いため、誤挿入により気管を通ったときの咳嗽反射も少ないのです。
さらに、栄養剤を気管や肺に注入されても苦痛を訴えることもできず、SpO2の低下や顔色不良で初めて誤挿入に気づく、という例が多くなっています。
経鼻胃管挿入中のインシデント例:逆流・嘔吐
本来食事は口腔内で咀嚼してアミラーゼと混ざり、少しずつ胃内に運ばれるもの。
ところが、経鼻胃管からの注入は高濃度の栄養剤がダイレクトに胃内に注入されます。
この栄養剤に患者さん自身の消化能力が追い付かない場合、嘔吐の原因になります。
また、高齢により噴門部のゆるみがある場合、逆流性食道炎にり患し、胃内に注入されたものが少しずつ逆流し、嘔吐の原因となることがあります。
少量ずつの逆流に気づかずにいると誤嚥性肺炎の原因となりますので、注入開始時は特に患者さんの状態を注意深く観察する必要があります。
経鼻胃管挿入中のインシデント例:閉塞
経管栄養使用時は、栄養剤の濃度が高いため、それだけでも詰まるリスクはあります。
しかし、詰まりの原因となることが多いのは内服薬です。
経鼻胃管挿入中で内服をしていない患者さんはほとんどいないのではないでしょうか。
内服は事前に微温などで溶解する、減らせる内服は主治医と相談して減らしてもらうのが良いでしょう。
注入の遅れやフラッシュ時に抵抗があるときに無理に使用すると、胃管に亀裂が生じる場合があります。
閉塞したら早めにルート交換をするのが良いでしょう。
経鼻胃管挿入時その他合併症
経鼻胃管を固定している鼻孔周囲にカテーテルが当たり、周囲の皮膚が炎症を起こす場合があります。
炎症を放置すれば潰瘍となることも。
毎日の清拭時に鼻腔周囲の皮膚を観察し、必要であれば固定の位置を少しずつ変えるようにします。
訴えが少ないからこそ十分な観察でインシデントを防ぐ
経鼻胃管の対象患者さんは高齢で神経系疾患がある方が多く、意思の疎通が難しいこともあります。
自ら苦痛を訴えることが難しい患者さんは、合併症の発見も遅れてしまう場合もあり得るのです。
誤挿入など、重篤な合併症に陥るようなインシデントを防ぐためにも、看護手順は基本通り、観察はいつも以上に十分に行っていきましょう。
参考:
日本コヴィディエン 経鼻栄養チューブハンドブック(2021年5月23日引用)
医療事故調査・支援センター 栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析(2021年5月23日引用)
横浜市病院経営局 平成23年度 医療安全管理の取組について(2021年5月23日引用)
日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 第43回報告書(2021年5月23日引用)
日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養ガイドライン 第3版(2021年5月23日引用)
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執筆者
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小児外科・整形外科病棟・総合病院の外来などを経て2015年より医療・看護ライターに。並行して派遣看護師としてデイサービス・整形クリニック・健診機関などで勤務しています。看護師歴は20年以上。看護の知識と実践で得たことを糧に、読者様にわかりやすい記事を届けます。
保有資格:看護師・介護支援専門員