新人リハビリスタッフが知っておきたい、血液・生化学データの見方
血液・生化学検査データを読みとくことはリスク管理につながります。
特に貧血・低栄養・脱水の有無は、高齢者の健康管理に影響を与えます。
超高齢社会で心不全の高齢者が増加傾向にあるなか、心機能や炎症状態の見方について理解を深めておくと良いでしょう。
目次
運動するときに疲れやすくなる!貧血の見方
1)チェックする項目:RBC(赤血球)とHb(ヘモグロビン)
貧血があると、RBCとHbが低下します。
貧血の代表的な原因のひとつに鉄欠乏性貧血があります。
鉄欠乏性貧血はMCV(平均赤血球容積)の低下で起こるので、Hbが低下している場合には、MCVもあわせて確認します。
鉄欠乏性貧血では、薬物療法のほか、鉄分を多く含んだ食材を食べるといった食生活の見直しも大切です。
2)貧血によるリハビリ場面でのリスク管理
赤血球数が減ると、酸素の運搬機能が低下します。
体に十分な酸素が送られないことで、頭痛やめまいが生じることがあります。
また、症状が重い場合には食欲低下が起こったり、吐き気をもよおしたりすることもあります。
これらのことから、貧血は低栄養を引き起こすきっかけにもなりうるので、注意が必要です。
運動時には、息が上がりやすくなったり、疲れやすくなったりします。
貧血の場合には、血圧が下がりすぎないかを確認したり、必要に応じてSpO2を調べ訓練負荷が高すぎないかを確認したりすることも大切です。
高齢者は特に気を付けたい!栄養状態の見方
1)チェックする項目:ALB(アルブミン)、ChE(コリンエステラーゼ)
栄養状態が不良になるとALBが低下します。
注意が必要なのが、ALBの数値は20日前の栄養状態を反映しています。
つまり、つい最近の栄養状態がわかりづらいのです。
そのため、低栄養を確認する場合は、食事摂取量やBMIといった体重の変化も確認が必要です。
また、タンパク合成など肝臓の働きをみるChEも、低栄養を判断する指標になります。
2)低栄養によるリハビリ場面でのリスク管理
低栄養は廃用症候群を悪化させる要因にもなります。
慢性的な低栄養(ALB3.5g/dl未満)になると、運動時に筋タンパクを分解して生じたアミノ酸を、エネルギーとして使用するのです。
つまり、低栄養の状態で「体力が落ちているから筋力をつけよう」と、過負荷な筋力増強訓練や動作練習を行うと、かえって筋萎縮が進んでしまうこともあるのです。
また、低栄養は浮腫の原因にもなります。
浮腫により、関節の可動性が低下したり、動作能力の低下を引き起こすことも。
さらに、皮膚トラブルを引き起こしやすくなるので、寝たきりの高齢者の方は褥瘡の発生にも注意が必要です。
夏場は特に気を付けたい!脱水の見方
1)チェックする項目:BUN(尿素窒素)、Cr(クレアチニン)
脱水の所見は、BUN/Crの比でわかり、正常では10以上であると脱水が疑われます。
さらに、Na、Kといったミネラルや、尿量や尿の色も確認します。
尿は通常は黄土色をしていますが、脱水になると血しょう成分が減るので色が濃くなります。
2)脱水によるリハビリ場面でのリスク管理
脱水が起こると疲れやすくなり、ミネラルが足りないと筋出力が下がるため、筋力増強訓練では過負荷にならないよう配慮します。
また、脱水が起こると血液量が少なくなるので血圧低下が起こりやすくなるため、注意が必要です。
超高齢社会で心不全の高齢者が増加傾向。知っておきたい心機能の見方
1)チェックする項目:BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
BNPは主に心室から分泌するホルモンで、心不全の診断やその重症度を知るのに有効です。
また、心不全では腎不全や貧血を合併しやすいので、CrやBUN、RBCやHb値も確認します。
≪BNPの基準値と治療目安≫
18.4pg/ml以下:正常域
40pg/ml以上~100pg/ml未満:要観察
100pg/ml以上~200pg/ml未満:要精査・要治療
200pg/ml以上~500pg/ml未満:専門医による治療が必要(入院が必要となる)
500pg/ml以上:厳重な治療が必要
2)心不全によるリハビリ場面でのリスク管理
BNPの数値が上昇傾向にある場合は心不全のリスクがあるので、運動療法は慎重に行う必要があります。
また、リハビリ初回に数値を確認するだけでなく、その経過を確認した上で、訓練内容やその負荷量を検討します。
炎症反応は起こっていないか、経過はどうか?炎症状態の見方
1) チェックする項目:CRP(C-リアクティブプロテイン)
CRPは体内で炎症や組織破壊が起こっている場合に、血中に出現します。
炎症が起こった場合に、12~24時間に検出され、炎症の重症度や、炎症状態の経過を判断するのに有効です。
2)炎症値の上昇によるリハビリ場面でのリスク管理
疾患の炎症状態の経過がわかることで、その状態を踏まえた訓練内容や負荷を検討できます。
また、CRPはどの臓器に炎症が起こっているかまでは診断できないため、数値の上昇が著しい場合は、医師に確認しその原因を探る必要があります。
たとえば、数値の上昇が非常に高いと、関節リウマチなどの膠原病や悪性腫瘍などの疾患が想定されます。
軽度の場合はウイルス感染症などが想定されます。
検査値から判断する際に注意したいこと
検査値が正常か否かを判断するには、その検査値の基準値をみます。
基準値は健康な方の95%が含まれる範囲を指します。
つまり、健康であっても5%の人が基準値から外れてしまうのです。
そのため、「基準値から外れる=異常である」とすぐに判断するのではなく、ほかの検査や医師の診察などを踏まえた上で判断します。
その上で安全にリハビリが進められるよう対応していくことが大切です。
参考:
岡田定: 血算の読み方・考え方. 医学書院, 東京, 2011.
西崎統: 検査値読み方マニュア. エス・エム・エス, 東京, 2002.
落合慈之: リハビリテーションビジュアルブック. 稲川利光(編), 学研メディカル秀潤社, 東京, 2011.
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執筆者
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作業療法士資格取得後、回復期病院や療養病院に勤務しました。結婚・出産を機に福祉の視点も学びたいと思い、社会福祉士資格を取得しました。
作業療法士としての知識が、在宅で介護をされる方や福祉施設等で働く方、健康に関心がある方のお役に立てればと思い、ライターを始めました。
現在は作業療法士として小児分野の施設で働きつつ、在宅でのライティングを行っています。医療・福祉の視点や知識を活かし、わかりやすく、かつ生活に役立つ記事を作成できるよう、心掛けております。
保有資格:作業療法士、社会福祉士