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【インタビュー】デンマーク流・フォルケホイスコーレに留学して学んだ精神保健サービスの魅力

北欧というと福祉が充実しているというイメージをお持ちの方も多いことでしょう。
今回は、福祉先進国であるデンマークに留学した森本康平さんにインタビュー取材を行いました。
留学時に森本さんが特に印象に残ったと話す、「デンマークにおける精神保健の在り方」に着目し、詳細を伺っていきます。
今回、森本さんへのインタビューを通して、筆者も日本の精神保健が抱えている問題に改めて気付かされました。
精神保健分野に従事している方は、ぜひこの記事を通してデンマーク流の精神保健サービスについて学んでみてください。

自由度の高さと学費の安さが魅力 デンマークの成人教育機関「フォルケホイスコーレ」

デンマークには、フォルケホイスコーレという成人教育機関があります。
デンマーク政府が助成しているため、学費の負担が少ないというメリットもあり、国籍の制限もないことから日本人にとっても学びの場として活用できるチャンスが広がります。
2017年4月〜6月に留学された森本さんに、フォルケホイスコーレとはどのような学びの場であるのか、詳しくお話を伺いました。

●森本さんが留学した「フォルケホイスコーレ」という学校について教えてください。

フォルケホイスコーレは18歳以上の成人なら国籍などにかかわらず試験なしで学べる全寮制の教育機関で、170年以上前に初めてデンマークにできました。
主に3~6カ月程度の短期間で、自分の好きな科目を余裕のあるカリキュラムで学びながら、今後の人生をどう生きていくか考えたり、それまで忙しかった生活から離れて休息する場として使ったりすることができます。
僕はデンマークにある「ノーフュンスホイスコーレ(Nordfyns Højskole)」に留学しました。
ノーフュンスホイスコーレは、デンマーク人にも人気のあるプライベートスクールです。

●数あるフォルケホイスコーレの学校から、デンマークの「ノーフュンスホイスコーレ」を選んだ理由はどこにあったのですか。

僕が2017年の4月から6月まで過ごしたノーフュンスホイスコーレは、もともと千葉忠夫さんという日本人が建てた学校がベースになっています。
社会福祉の授業を、日本人の先生が日本語で実施してくれることが魅力的でした。
北欧で福祉を学びたいと思って探していたときにこのフォルケホイスコーレを見つけて、学費の安さもあってここに決めました
僕はもともとフォルケホイスコーレに行きたかったわけではないのですが、北欧の福祉を学べる場を探していたところ、たまたまノーフュンスホイスコーレに出会ったのです。

デンマークで学んだことは「手厚い精神保健サービス」と「地域に開かれた雰囲気」

森本さんがデンマークで学んだなかで印象に残ったことは、充実した精神保健サービス、そして精神病院の地域に開かれた雰囲気だったと言います。
次に、デンマークにおける精神保健の在り方で、森本さんが特に印象的だと感じたエピソードについて伺っていきます。

●デンマークのフォルケホイスコーレに留学して、最も印象的だったことを教えてください。

最も印象的だったことを決めるのが難しいので、2つお話しさせてください(笑)
一つ目は「Psyk-Info」という公的機関が、デンマークの精神保健サービスの向上に大きな役割を果たしていたことです。
各地域にあるPsyk-Infoでは、統合失調症やPTSD、発達障害、虐待、アルコール依存など、さまざまな困難を抱える人に役立つ情報をパンフレットやSNSで発信していました。
困った人がPsyk-Infoに行くと無料でカウンセリングを受けられたり、自助団体を紹介してもらえたりします。
また、精神病院内にもPsyk-Infoがあって、患者が自ら自分の病気について学べることが印象的でした。
Psyk-Infoは、1970年代に精神病院からの患者を開放する動きがあったときに設置されたそうです。
新しく入所施設を建てる際には、地域住人に必要な説明をしたり、理解を促したりすることもしていたようです。
今は著名人をポスターに起用して、精神病への偏見をなくすキャンペーンも行っています。

●公的機関によるサービスが充実していることは大きいですね。もう一つ印象に残ったこととは、どのようなエピソードでしょうか?

もう一つ印象に残ったのは、精神病院がとてもオープンで、患者の自由を奪わないことです。
留学中に、殺人などの重い犯罪をした触法患者もいる精神病院の見学に行かせてもらいましたが、「地域に開かれた病院」であることがコンセプトになっていて、病院外の人が気軽に院内のカフェなどに入ることができるようになっていました。
法的な制約がない限り、入院患者も自由に外出することができ、病院内には筋トレルームや体育館、調理スペース、木工部屋などの娯楽も充実していました。

●日本の精神病院とくらべても、デンマークでは雰囲気が大きく異なるということですね。

こうしたオープンな雰囲気は、日本の精神病院にはないものだと感じました。
僕の祖母が日本で入院していた病院は、建物は新しくきれいでしたが、入院するとスマホや携帯を没収され、閉鎖病棟では刺激になるからといって読書や日記さえも禁止されていたのです。
また、精神病院に10年入院していた知り合いがいますが、調子が回復していてもなかなか退院していいと医師に言ってもらえず、身内が医師に掛け合ってくれてやっと退院したと言っていました。
日本の精神病院はいまだに閉鎖的なところが多く、厳しすぎるルールの適用や隔離、長期入院患者に診察をしないなどの人権侵害がいまだに少なくないことは問題であると感じます。
ノーマライゼーションの生まれたデンマークでも、昔は精神科患者に対する人権侵害はあったようです。
しかし、その反省を踏まえて、今は支援者が施設や病院の住人の人権にとても配慮しているのです。
デンマークの取り組みや姿勢は、日本の精神保健が変化していくうえで参考にできることが多いでしょう。

日本の精神保健を変えるために取り入れたいデンマーク流の取り組み

福祉先進国のデンマークでは、精神保健におけるサービスが非常に充実していることが分かりました。
日本の精神保健においては、入院の長期化や社会復帰の難しさなどまだまだ多くの課題がありますが、デンマークではそれとは対照的な姿勢が浸透しているようです。
デンマーク流の取り組みから、日本の精神保健がどのように変わっていくことが期待されるのかお尋ねしていきます。

●日本において、精神保健の現場が取り入れるべきだと思う姿勢や取り組みなどがあれば教えてください。

まずは、デンマークにおける「Psyk-Info」のように、正しい情報を国民に伝えるための公的機関を作るなどして、国民の理解を促すことを積極的にしていく必要があると思います。
姿勢としては、各々の精神病院が営利目的で多剤の投与や不必要に長期的な入院をさせることがないよう、診療報酬の仕組みを見直すことがポイントになるかもしれません。

●日本ではいまだに精神病院における長期入院が問題視されていますが、その課題に対する提言があればお願いします。

本来病院は治療のためにあるべきで、治安維持という観点で長期間社会から隔離すべき場所ではないと思うのです。
本来は治安維持の役割は司法が担うべきで、少なくとも民間の一般精神病院がするべきことではないはずです。
あとは、デンマークのように「より地域に開かれた病院」にすることですね。
外部の人との関わりを増やすことで、患者さんが社会復帰する際の不安も軽減されるのではないでしょうか。

まとめ

デンマークの精神保健においては、公的機関が十分な情報提供を行っており、患者さん・国民の理解を促せるような支援をしていることが分かりました。
また、日本の精神病院には閉鎖的な側面が残っているケースもありますが、デンマークでは「オープンな雰囲気」が浸透していることが魅力だと感じました。
日本でも国が精神科における長期入院の削減に向けて動いていますが、福祉先進国の成功例に倣うことができる部分は、積極的に取り入れていくことが求められるでしょう。

【プロフィール】

森本 康平(もりもと こうへい)

1992年生まれ。京都大学で臨床心理学を学ぶ。在学中に北欧の福祉について関心を持つようになり、卒業後にデンマークへ留学。社会福祉法人わたぼうしの会で働く傍ら、大阪精神医療人権センターでのボランティア活動にも参画している。

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