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高齢者は二重課題(デュアルタスク)の能力が低下している?転倒リスクとの関連を研究報告から考える

従来は転倒リスクといえば筋力の低下や関節可動域、バランス機能などに焦点を当てることが主流でしたが、二重課題(デュアルタスク)というキーワードはトピックの一つになっています。
今回は、高齢者における二重課題(デュアルタスク)の能力の低下や転倒リスクとの関連について研究報告からお伝えするので、理学療法士や作業療法士の方は参考にしてみてください。

二重課題(デュアルタスク)が運動パフォーマンスに与える影響とは?

一度に複数のことを行おうとすると、その課題を単独で遂行する場合とくらべ、作業や動作の質が低下してしまうことは想像に難くありません。
二重課題(デュアルタスク)の基本的な考え方と、運動に及ぼす影響についてみていきましょう。

●二重課題(デュアルタスク)とは?

「Aをしながら、Bをする」といったように、2つの要素に注意を向けることが求められる課題のことを、「二重課題」や「dual-task(デュアルタスク)」と呼びます。
同時に2つの情報を処理する際には、それぞれの課題に対して注意を配分したり、切り替えたりする力が必要となります。

●二重課題(デュアルタスク)と運動パフォーマンスの関係性

Fujitaら(2016)は、対象者をワーキングメモリ容量が大きい群と小さい群に分け、4つの課題を行い、その際の身体動揺について調査しています。
身体の動揺は、運動のなかでも特に姿勢制御の能力を測るための指標としてしばしば用いられ、揺れが大きいほど制御の精度が低いという判断になります。




<研究で用いた課題>
1.両足立ち
2.両足立ち+二重課題
3.片足立ち
4.片足立ち+二重課題(※二重課題にはStroop testを使用)

実験の結果、両群ともに「4」の条件でのみ身体動揺が有意に大きくなったというデータが得られています。
つまり、運動と認知の双方に最も大きな負荷がかかる条件(=二重課題の負荷が大きい条件)では、特に運動の精度が低下することを示しています。
転倒や運動に関わることは身体機能にだけアプローチすれば良いというわけではなく、認知的な情報処理との兼ね合いも含めて総合的に考えていく必要があるのです。

研究報告から考える!高齢者の転倒リスクと二重課題(デュアルタスク)の関係

先にご紹介した研究報告は、二重課題(デュアルタスク)と運動パフォーマンスの関係性について着目したものです。
この情報だけでは「二重課題(デュアルタスク)が転倒リスクを高める」とまでは断言できませんが、少なくとも複数の課題の同時進行が運動に影響を及ぼすという事実はわかります。
次に、高齢者の転倒歴や転倒発生との関連をみた研究をご紹介していきます。

●Lundin-Olssonら(1997)の研究:会話をすると歩行が止まる高齢者の転倒リスク

こちらは20年以上も前に発表された研究ですが、この頃から高齢者の二重課題(デュアルタスク)下での歩行については関心が持たれていました。
この研究では、58名の高齢者を対象に、理学療法士が会話の開始時に歩行が止まるかどうかを記録しました。
対象者の12名では会話の開始とともに歩行が停止しましたが、そのうち10名は6カ月間のフォローアップ期間中に転倒が生じたとされています。
観察評価による研究ではありますが、会話が始まる(=二重課題になる)ときに運動への注意配分が低下した層では、実際に転倒が起きる可能性が高いという知見が得られています。

●森下ら(2013)の研究:転倒群では歩行テスト+認知課題時のパフォーマンスが低下する

Timed-Up & Go Test(TUG)は、転倒リスクの検出に有用な評価ツールです。
単純にTUGを行うだけではなく、認知課題を付加した場合の反応をみた研究報告があります。
この研究では、運動機能の評価としてTUGを実施し、さらにTUGでの歩行中に左右どちらに回るかを判断する課題を加えています
転倒群・非転倒群に分けて分析を行った結果、年齢やTUGだけでは有意差がみられませんでしたが、TUGに認知課題を付加した条件下では転倒群の所要時間が有意に延長しました。
TUGに二重課題(デュアルタスク)の条件を加えることで、単純な運動では遂行能力が低下していない層の転倒リスクを検出できるようになる可能性があるといえます。

転倒経験の有無は転倒リスクを検出する上で有用な指標となりますが、いずれの研究でも二重課題(デュアルタスク)で運動の精度が低下した対象者で転倒が起きていることは興味深いです。

高齢者のリハビリに二重課題(デュアルタスク)の視点をプラスしてみよう

研究報告では、歩行と認知課題の組み合わせなど、二重課題(デュアルタスク)の条件下で転倒群のパフォーマンスが低下することがわかっています。
実際の日常生活においては「運動だけ」を行う機会のほうが少なく、多かれ少なかれ認知的な処理が求められることが多いといえます。
運動のベースとなる筋力やバランス機能に課題を抱えている方も多いので、リハビリ室で運動機能だけを評価することは必要です。
しかし、運動機能には問題がなくても、認知課題を付加したときにパフォーマンスが低下する高齢者もいるので、この層を見逃さないようにしましょう。
リハビリ中に歩行訓練をすることがあれば、話しかけてみて歩行速度の低下や姿勢の乱れがないか観察しても評価の視点が増えますし、研究で用いられているパラダイムを参考に評価してみることもおすすめです。
また、二重課題のトレーニングが必要と思われる高齢者の方には、こちらの記事(二重課題(デュアルタスク)のトレーニング例は?リハビリ室ですぐに使える訓練のアイデア3つ)でご紹介している訓練も活用してみてください。

運動機能だけでは不十分!転倒リスクの評価と介入は包括的に

転倒予防においては、筋力増強訓練やバランス訓練などを単一で行うのではなく、複数のアプローチを組み合わせることが有効という考え方が普及してきています。
さまざまな角度から高齢者の転倒リスクを考えていくことは非常に重要であるため、今回ご紹介した二重課題(デュアルタスク)の考え方も評価・介入に応用してみてください。

参考:
Hiroyuki Fujita, et al.:Role of the frontal cortex in standing postural sway tasks while dual-tasking: A functional near-infrared spectroscopy study examining working memory capacity. Bio Med Research International, 2016.(2018年8月10日引用)
Lillemor Lundin-Olsson et al.:”Stops walking when talking” as a predictor of falls in elderly people. The lancet349(9052): 617, 1997.
森下将多, 他:Timed-Up & Go Testに認知課題を付加した場合の動作遂行時間への影響−転倒群と非転倒群での比較. 理学療法ジャーナル47(3): 259-264, 2013.
(2018年8月10日引用)

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