ADHDの子どものリハビリに役立つ!小学生・中学生の療育における視点・ヒントを大公開
ADHDの小学生や中学生の療育に携わる職種はさまざまですが、作業療法士などのリハビリ職が提供するアプローチもあります。
小学生と中学生では臨床像が変わってくるため、介入のあり方にも少し違いが出てきます。
今回はADHDの子どものリハビリで役立つ視点やヒントをお伝えしますので、日々の臨床の参考にしてみてください。
ADHDの小学生・中学生にみられる行動の特徴
ADHDの子どもに対するリハビリを考える前に、まずは学校や家庭生活においてどんな行動の特徴があるのか知っておく必要があります。
ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分類できます。
小学生と中学生では行動の特徴が変わってくるため、それぞれ確認していきましょう。
●小学生の特徴
就学前とは異なり、小学校に入るとより一層「枠組み」の中での行動が求められます。
子どもによって不注意が目立つのか、多動・衝動が目立つのか、あるいはそれが混合しているのか、状態には違いがあります。
不注意 | ●勉強や活動に集中することが難しい ●興味のあることには過剰に集中する ●目や耳に入ってくる刺激で集中が途切れる ●物をなくす、忘れることが多い |
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多動性 | ●授業や活動の途中で離席する ●足や体を動かしている ●おしゃべりが止まらない |
衝動性 | ●順番を待つのが苦手 ●話を最後まで聞かずにさえぎってしまう ●気に入らないことがあれば容易に怒ってしまう |
小学生の子どもでは、特にこのような行動が現れることが多いです。
多動や衝動は行動として目に見えやすいですが、不注意だけが目立つときは、周囲がADHDだと気づかない場合もあります。
どのタイプであっても、学校や家庭での生活にも影響が及んでしまうので、療育を通して対応していく必要があります。
●中学生の特徴
中学生になると、小学生の頃と共通した部分もありますが、多動の症状が減少していく子どもが多いです。
学校での活動において途中で離席するなどの落ち着きのなさは減っていく傾向にありますが、不注意や衝動性に関する特徴は残りやすいです。
順序や論理立てた考えとはかけ離れて感情的に物事を進めてしまう、会話の中で話題がとぶ、忘れ物・宿題のやり忘れが多い、授業や試験に集中できないといった問題が見受けられます。
また、不注意や衝動性によって学業や人間関係におけるネガティブな出来事があると、自尊心の低下につながるケースもあります。
ADHDの小学生・中学生のリハビリ
ADHDの子どもの治療では、薬を使った医療的なアプローチによって症状を緩和する方法があります。
また、療育を行っていくことで、生活のしにくさの解消を図ります。
ここでは、作業療法士などのリハビリ職が手がけるアプローチについて解説するので、ADHDの子どもと関わる際の参考にしてみてください。
1.小学生のリハビリ
小学生の場合は、多動が目立つ子どもも多いため、じっと椅子に座って活動することは難しくなります。
学年や状態にもよりますが、リハビリの中で遊びを通じて対応していくことが基本です。
また、子どもの家庭や学校での様子についてもご家族からの情報収集を行い、ニーズをしっかり把握することが重要となります。
●落ち着きのなさへのアプローチ
多動や衝動が気になる落ち着きのない子どもには、遊びや集団活動の中で「順番を待つ」「離席しないで活動に取り組む」など適応的な行動を促していきます。
同じニーズを抱える子どもがいれば、リハビリの時間を合わせてグループでの活動を取り入れると、良い練習の場となります。
また、活動の内容に「壁にピタッとくっつく」など静止を伴うものを取り入れることも、多動を抑制する一助となります。
これ以外にも、「人の話を聞けない」「忘れ物が多い」という課題があれば、物の名前を覚えて買い物をする模倣遊びをするなど、ニーズに合わせて活動の内容を工夫していきましょう。
子どもが抱える課題も対応も多様ですが、大切なのはニーズに合致した要素を含むアプローチになっているかどうかということです。
●リハビリにおける環境調整
離席が気になるときは、ホワイトボードなどに活動の順番を示し、見通しを持って行動できるように支援します。
また、順番が待てない子どもには、待機すべき場所に丸いフープやマットなどを置いて目印とすると、行動が逸脱しにくくなります。
リハビリの時間は限られていますが、前半にトランポリンやブランコなどの粗大運動を行って衝動を発散し、後半に机上課題を行っていくと落ち着けることが多いです。
このように、落ち着いて行動できる状況や環境を設定した上でリハビリを進めることも大切になります。
2.中学生のリハビリ
中学生になると、不注意や衝動性の問題、ソーシャルスキル、学習面へのフォローに主軸を置きます。
次に、項目別に介入のヒントをお伝えしていきます。
●注意・集中を促すアプローチ
不注意による影響が生じていれば、決められた時間の中で集中して課題に取り組む練習をする、見落としをなくすための戦略を共に考えるなどのアプローチがあります。
目や耳から入る刺激のせいで集中できないのであれば、机の上に使わないものを置かないなどの対策を習慣化していくこともできます。
近年は自分の脳活動をリアルタイムで確認しながら注意・集中のセルフコントロールを促す「ニューロフィードバック」の有用性も注目されています。
●感情面・コミュニケーション面のアプローチ
「怒りの感情が抑えられない」という衝動があれば、今の怒りは10段階のうちどれくらいなのか視覚化し、認知面からコントロールを促す手法もあります。
また、「一方的に話してしまう」という課題があれば、やりとりの中で相手がどんな考えを持っているとわかったか発表してもらうなど、「聞く」ための練習をすることも可能です。
●学習面のアプローチ
学習のフォローは塾やデイサービスなどで行っている場合もあれば、一切フォローがない場合もあるため、学習状況を確認しながら検討していきましょう。
通知表や学校のノート、試験の答案などを持参してもらうと、学習状況やつまづきがみえてきやすいです。
その子どもの認知機能や注意機能の特性から「図形問題が苦手」「これくらいの時間を越えると集中が途切れる」など、状態を評価することも大切です。
リハビリの時間は限られているため、学習に関してはやり方を教えてホームワークを活用すると効率的です。
なお、発達障害の子どものソーシャルスキルトレーニングについてはこちらの記事(発達障害の小・中学生に実施するソーシャルスキルトレーニングの方法と実際)でも解説しているため、ご興味のある方はご参照ください。
家族のフォローもリハビリの一環
ADHDの小学生や中学生のご家族は、「何回言っても忘れ物をする」「人の話が聞けない」「集中力がない」など、さまざまな困り感を抱えています。
なかにはついつい叱ってしまうという親御さんもいますが、子どもの自尊心が低下していくことのないようにしなければなりません。
子どもたちは悪気があってそのような行動に及んでいるわけではなく、根底にはADHDに起因する特性があることを理解してもらう必要があります。
医療者からご家族に子どもの行動の意味を伝えていくことも大切であり、こうした環境因子へのアプローチもリハビリの一環といえます。
子どものニーズに対応するための引き出しを増やす
ADHDの小学生や中学生は、不注意・多動性・衝動性に関連したさまざまな課題を抱えています。
年齢とともにある程度落ち着いていく症状もありますが、ニーズは人それぞれ異なります。
その子どもに合ったアプローチを提供できるように、自分の中で引き出しを増やしていきましょう。
参考:
国立精神・神経医療研究センター ADHD児童に対するニューロフィードバック訓練の臨床研究に成功.(2018年10月28日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士