リワークとは?精神科で行われる復職支援の目的・内容・注意点を解説します
精神科でリワークのプログラムを導入済みの施設もあれば、そうでない施設もあります。
今回は、精神科でうつ病などの患者さんに提供するリワークプログラムにご興味のある医療従事者向けに概要をお伝えします。
復職支援の目的や方法を整理し、患者さんに対するアプローチとして取り入れられる要素を探っていきましょう。
リワークとは?精神科で行われるプログラムの概要と目的
精神科で働く医療従事者であれば「リワーク」を耳にしたことがあることでしょう。
リワークを導入していない病院もあるため、まずはリワークとはどのようなものなのか、概要と目的をご紹介します。
●リワークの概要
リワークとは、うつ病などの精神疾患によって休職中の方が再び職場へ復帰することです。
精神科など医療機関で行われるリワークプログラムもあれば、地域の障害者職業センターなどで行われるリワーク支援もあります。
このうち、前者は治療の一環として位置づけられていますが、すべての病院で実施しているわけではありません。
医療機関では、作業療法士、臨床心理士、精神保健福祉士などがリワークのプログラムを進めていきます。
●リワークの目的
精神疾患の症状が少し落ち着いたからといって、すぐに復職すると心身がついていかずに再び調子を崩してしまいやすくなります。
まずは「朝起きて、決まった時間に出勤する」「自宅以外の環境で終日過ごす」など、基本的なところからトレーニングを始める必要があります。
また、リワークプログラムで目指すことは「職場復帰」ですが、その方の休職につながった根本的な原因について対応策を学ぶことも行います。
目先の職場復帰を実現するだけでなく、復職したあとに再び症状が出現して休職することのないよう、土台を作るという目的もあるのです。
リワークの内容!定番のアプローチを4つに分けて解説
うつ病などの病気では、まずゆっくりと休むことが大切になります。
心身の調子が落ち着いてから、リワークプログラムへの参加を検討します。
次に、精神科のリワークで実践できる具体的なプログラムの内容を解説していきます。
1.生活リズムを整える
うつ病などで休職をしている方では、不眠や早朝覚醒などの症状から、生活リズムが乱れてしまうことが少なくありません。
まずは朝起きてリワークに通い、そこで半日や1日を過ごすことが大きな一歩になります。
通勤や就労に耐えうるだけの体力を回復させることも大切で、プログラムの中でウォーキングやミニバレーなどの軽い運動を行うケースも多いです。
程よく体を動かすことでよく眠れるという側面もあるので、結果的に生活リズムを整える一助となります。
2.ストレスへの対処法を学ぶ
復職してからうつ病を再発してしまうことのないように、まずは「自分にとってなにがストレスとなるのか」「どんなエピソードによって体調を崩すのか」を客観的に振り返ります。
仕事の量や内容、人間関係など、なにがストレスと感じるのかは人によって異なるので、まずは自己理解を深めていきます。
そして、うつ病の方では病気によって「考え方の傾向」があることもわかっています。
たとえば、「あの人はこちらを見て笑っているから、バカにしているに違いない」という否定的な認知(自動思考)が生じる場合、違うとらえ方ができるように支援します。
これは認知行動療法にも通じるものですが、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事(うつ病の治療に活用したい「認知行動療法」とは?やり方をわかりやすく解説)も参考にしてください。
3.集中力を回復させる
うつ病などの病気によって集中困難に陥る方もいますが、少し調子が回復した段階でも、やはりまだ作業への集中が続かない方もいます。
リワークを始めた頃には、その場にいることがリハビリになりますが、徐々に就労を見据えて集中力も回復させていく必要があります。
その方のニーズやレベルに応じて、塗り絵や手工芸といった軽作業から始め、徐々にパソコン作業などに移行するなど、負荷を調整していきましょう。
10分、30分、1時間、1時間を3セット…といった具合に、徐々に作業に取り組む時間を増やしていきます。
視覚化された情報のほうが理解しやすい方も多いため、経過時間や残り時間がグラフや図になって表示されるタイマー(スマートフォンのアプリ)などを活用することも方法です。
また、周辺に余計なものがあると注意が途切れてしまうのか、睡眠時間によって集中力が左右されるのか、注意集中を阻害する要因を共に探して対応していきます。
4.仕事で必要なスキルをトレーニングする
復職を目指す上では、「人前で話す」「人の意見を聞く」など基本的なコミュニケーションの練習も大切になります。
リワーク参加者で集まる「朝の会(朝のミーティング)」などでお題に沿ったスピーチを行い、少しずつ慣れていくことも可能です。
求められる仕事内容も個人のスキルも異なるため、電話対応・プレゼンなどが必要であれば、それに合った練習を個別に行う方法もあります。
リワークのメリットにはさまざまなものがありますが、「似た境遇の人に出会えることが励みになる」という方は少なくありません。
復職の前段階として必要な準備を進めるとき、精神疾患のある方が支え合う「ピアサポート」のような側面が含まれることも強みといえます。
リワークに携わる医療従事者が知っておきたい注意点
リワークプログラムによって、参加者は復職に向けて大きく前進することができます。
しかし、リワークに携わる医療従事者が知っておくべき注意点もあります。
●「守られた場」との違いを認識する
自宅やリワークを行う場は、ある程度「守られた場」です。
リワークに通っているときは周囲の理解も得られますし、作業の量や質も調整していくことができます。
しかし、一歩社会に出ると大きなストレスが加わることも多く、現実的に復職可能なのか、しっかりと見極める必要があります。
そして、医療従事者が「復職できる」と判断しても、職場で思ったようなパフォーマンスが発揮できないと、自信や自尊心の低下につながってしまいます。
リワークの環境でできていることが、100%そのまま職場で実現できるわけではないことは頭の片隅に置いておきましょう。
●復帰後も段階的に負荷は上がる
医療従事者としては、患者さんが無事に復職できるとうれしいものですが、復職がゴールではありません。
復帰して間もないうちは、毎日決まったスケジュールで就労するだけでもハードになります。
職場が配慮して業務の負担を軽くしてくれることもありますが、そのことが逆に精神的な負担となり、「申し訳ない」と自分を責めてしまいかねません。
また、数カ月経つと周囲が普通どおりの業務を期待するようになるため、負荷がもう一段階上がることになります。
リワークプログラムの中で行うトレーニングによって対処できる部分もありますが、よくあるパターンについてはイメージを持っておきましょう。
そして、患者さんには、困ったときには無理せずにSOSを出すよう伝えておくと安心です。
復職はゴールではないが、大切な目標になる
就労の意欲がある方が再び仕事に当たれるようになることは、個人にとっても、社会にとってもメリットがあるものです。
復職できればそれで万事解決というわけではありませんが、就労によって社会的な役割を持つことができ、自己有能感を高めてくれることもあります。
今回ご紹介した内容や注意点を参考にしながら、精神科リハビリの一環としてリワークを導入してみてはいかがでしょうか。
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士