「生活行為向上マネジメント」の使い方とは?現役作業療法士が実践方法を伝授!
作業療法士は、理学療法士とくらべて、仕事内容が理解されにくい側面があります。
こうした問題を解消すべく、日本作業療法士協会では作業療法の役割を示した「生活行為向上マネジメント(MTDLP)」を開発しました。
今回は、作業療法士の間でも認知度が高まってきた生活行為向上マネジメントの実践方法をお伝えしていきます。
生活行為向上マネジメントとは?
まずは、生活行為向上マネジメントにおける基本的な考え方を整理していきます。
そもそも生活行為とはなにか、具体的なマネジメントの手順はどうなるのか、基本的な事項を確認してみましょう。
●「生活行為」という言葉の意味
日本作業療法士協会によると、生活行為は「人が生きていくうえで営まれる生活全般の行為」として位置付けられています。
たとえば次のような行為が含まれます。
- 1) セルフケア
- 2) 仕事
- 3) 趣味・余暇活動
このように、生活におけるあらゆる行為を「生活行為」とみなし、作業療法士がマネジメントしていきます。
生活行為に着目したアプローチを徹底することにより、これまでなかなか理解されない部分があった作業療法士の役割を、明確化していこうという動きがあるのです。
理学療法士が身体機能のエキスパートだとすれば、作業療法士は生活行為を扱う専門家ということになります。
病院や施設によっては、理学療法士・作業療法士の業務が明確に区別されていないケースもありますが、そうしたわかりにくさを解消することに寄与するでしょう。
今日から実践!生活行為向上マネジメント5つのステップ
生活行為向上マネジメントは、たとえ身近に実践しているスタッフがいなくても、日本作業療法協会で発行している資料やパンフレットを見ながら進めていくことができます。
次に、協会で発行している資料を参考にしながら、具体的なマネジメント手順をまとめていきます。
1) インティーク(聞き取り)
日本作業療法協会で配布している「生活行為聞き取りシート」を活用して、まずはご本人・ご家族が希望する生活行為についてお話を伺います。
「興味・関心チェックシート」を使ってニーズを引き出すことも効果的です。
活動内容の一覧から「している」「してみたい」「興味がある」の3段階でチェックしていきます。
シートを活用しながらインティークを行うと、「もう一度畑仕事をしてみたい」「もっと自分で料理を作りたい」などのニーズを把握することができるでしょう。
2) 生活行為向上アセスメント
このステップでは「生活行為向上マネジメントシート」を使用します。
臨床家が使いやすいように、1枚のシートにアセスメントや計画の内容を反映させることができるようになっており、次の項目に沿って記入を行います。
- ●生活行為を妨げている要因
- ●現状能力(強み)
- ●予後予測(いつまでに、どこまで達成できるか)
この3つの項目を、ICF(国際生活機能分類)に沿って、心身機能・構造、活動と参加、環境因子に分けながら記入していきます。
現在の能力における強みや、予後予測についても作業療法士がアセスメントを行います。
この結果を踏まえながら、ご本人やご家族と相談し、解決すべき課題に対して合意形成を図ります。
合意した目標を設定する際は、ご本人の自己評価として「実行度」と「満足度」を記入していただきます。
10段階評価で記入する実行度・満足度は、介入の前後で効果を比較する際に有用であるため、忘れないようにしましょう。
3) 生活行為向上プラン
生活行為向上マネジメントシートを用いて、実際にどのようなアプローチをしていくのか計画を立てていきます。
目標にした生活行為を実現していくためには、作業療法士だけでなく、ご本人・ご家族・そのほかの支援者で役割分担をしていく必要があります。
「いつ・どこで・誰が・なにを実施・支援するのか」といった内容を表のなかに書き込んでいきます。
4) 介入
本人と合意形成した目標を達成するために必要な練習・支援・調整を行います。
作業療法士が通常行うアプローチから、大きくかけ離れるわけではありませんが、「希望される生活行為の実現」を意識して進めていく点に意義があるのです。
5) 再評価・見直し
介入を一定期間続けたら、アセスメントを再び行います。
この結果を受けて、介入を継続するか、終了するかを決めていきます。必要があれば、介入の方法を見直すこともあります。
介護支援専門員などに情報を共有し、申し送りを行うところまでがマネジメントのプロセスです。
普段の臨床業務のなかで、なんとなくニーズの聞き取りを行い、目標を立てて介入しているという方も多いかもしれません。
しかし、生活行為向上マネジメントを活用することによって、ご本人のニーズに対応することができ、さらに作業療法の介入効果をだれにでも理解しやすい形で示すことができます。
またこのツールを活用することにより、作業療法士が「生活行為を扱うエキスパート」であることを他職種にもPRできるでしょう。
高齢者・脳卒中の後遺症にも効果あり!作業療法士が行う生活行為向上マネジメントのメリット
生活行為向上マネジメントは、高齢者に対する介入から始まりましたが、次第にさまざまな領域で事例が集まってくるようになりました。
日本作業療法協会が発行している「生活行為向上マネジメントの展開 多分野からのMTDLP実践報告」の事例からメリットを探っていきましょう。
●事例:慢性期脳卒中患者がゴルフ再開を目指したケース
こちらの事例では、ご本人から「ゴルフのスイングが両手でできるようになりたい」という生活行為の目標が挙げられました。
また、キーパーソンである妻は「本人の希望をかなえる手伝いがしたい」と目標設定しています。
実際の介入では、ゴルフのスイングをするために必要な動きを、お手玉やコーンを使って練習していきました。
ご本人はもちろん、そのご家族も、自宅で麻痺手を使った場合は称賛を送るなどの関わりを続けています。
ゴルフのスイング動作が徐々に向上し、介入前は実行度・満足度ともに「1」だったところが、10日後には「3」になり、1年後には「7」まで向上しました。
こちらの事例以外にも、認知症・骨折・脊髄損傷・心疾患など、非常に多くの実践が報告されています。
生活行為向上マネジメントは特定の領域において使えるのではなく、幅広い対象者に応用することができる点もメリットといえます。
それはすべての人にとって、「生活行為」というものが必ず存在するからです。
「生活行為」にアプローチできる専門家として活躍するために、作業療法士の方は積極的に生活行為向上マネジメントを実践していきましょう。
まとめ
今回ご紹介したように、ご本人のニーズに対して必要な関わりを継続していくことは、その方の人生にも大きな影響を与えるでしょう。
生活におけるニーズと能力を引き出していくことが、作業療法士の仕事ともいえます。
年々、事例も多く集まってきているため、ご自身の専門分野に関連した事例を見てみることも参考になるでしょう。
生活行為向上マネジメントを通して、作業療法士の専門性を確立していきたいところです。
参考:
生活行為向上マネジメント(2018年1月17日引用)
生活行為向上マネジメントの展開 多分野からのMTDLP実践報告(2018年1月17日引用)