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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2019年03月27日
  • リハビリ病院の悩み

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新人セラピストが知っておきたい、業務上起こり得るトラブルとその対策

2019年2月にリハビリ専門職の国家試験が終わり、4月からは多くの新人セラピストが誕生します。
新社会人は期待と同時に不安も抱えており、また指導者側もどう教育すればいいのか悩むケースも多いでしょう。
本記事では、臨床現場で働くにあたり、起こり得るトラブルとその対策についてお伝えします。

新人セラピストが知っておきたい、業務上起こり得るトラブルとその対策

「患者さんとうまくコミュニケーションをとるには?」まずは信頼を築くことが大切

「患者さんとうまくコミュニケーションをとるには?」まずは信頼を築くことが大切

どんな優れた技術や知識をもっていても、まずは患者さんとの信頼関係を築けるかどうかが大切です。
臨床場面では幅広い年齢の方とコミュニケーションをとる必要があります。
患者さんとのコミュニケーションにおいて、注意しておきたい点について挙げてみます。

●タメ口=フレンドリーではない!敬語や表情をうまく組み合わせる

臨床実習でのケースバイザーやほかのスタッフが、患者さんとタメ口で話しているのを見たことはありませんか?
「仲がよさそう」「友達みたい」と思って、関係が築けると敬語からタメ口に変わるものと勘違いしてはいけません。
社会に出てすぐは、スタッフをはじめ患者さんなど周りの人すべてが先輩になります。
尊敬・丁寧・謙譲など敬語を100%理解することはできなくても、「◯◯ですか?」「◯◯してください」などの基本はおさえておきましょう。
その一方で、慇懃無礼(いんぎんぶれい)という言葉があるように、表面上は丁寧な言葉遣いでも、印象などで失礼と感じることもあります。
機械的に淡々と話せばいいのではなく、相手の目を見て話す、柔らかい表情で安心させるなど、言葉と感情を組み合わせることが大切です。

●自分の知識が正しいと思い込んではダメ!相手に寄り添う気持ちをもつ

専門的な知識をつけ、論文など科学的に論証された事実に基づいて職務をこなすことは重要です。
しかし、自分が正しいと思うことが常にいい結果につながるとはいえません。
筆者の経験談ですが、ある患者さんに対して「早期リハビリが重要」、「廃用が進んだら家に帰れない」など、自分が正論と思うことを説明しました。
しかし、患者さんは「放っておいてくれ!」「お前に言われなくてもわかっている!」との一点張りでした。
このとき筆者は「なんで専門家の意見を聞かないのか」、「この人のことを思って言っているのに」と呆れてしまいました。
しかし、後日判明した事実によると、その方は大切な家族を病院で亡くされており、医療従事者に対する不信感をもっていました。
なぜ拒否する理由を考えられなかったのか、一方的な押しつけではなく、選択肢を提示してあげるべきであったと今でも反省しています。
医療は患者さんが選択するものであるため、決して感情論にならずに、まずは相手の気持ちを理解することが大切です。

「休みがない!」「手当はつくの?」労働組合を活用しよう

「休みがない!」「手当はつくの?」労働組合を活用しよう

近年では働き方改革が提唱され、2019年4月には労働基準法(労基法)が改正になります。
残業や各種手当の有無など、自身の待遇に関する知識を持っておくことも大切です。

●サービス残業が当たり前になってはダメ

新卒で業務に慣れない間は、書類作成などに時間がかかり、定時内に終われないことも多いです。
効率的に業務を終わらせることは社会人として必要なスキルですが、急なカンファレンスやサマリー作成などにより、時間外労働が生じることもあるでしょう。
職場によっては「◯カ月目から残業OK」などと決められていることもありますが、法律上は「週40時間を超えた分は時間外労働」とみなされます。
しかし、人件費削減のため時間外の申請に対して許可がおりない場合や、タイムカードを通す時間を指定されるケースもあります。
過労死など労働環境への対策として、2019年4月に労基法が改正され、時間外労働は月45時間以内とするよう規定されました。
ただ、数字上では45時間以内に抑えるため、それを超える時間外労働に対して、許可をしないという問題も懸念されます。
そのため、正当な理由があって時間外労働をしていてもサービス残業扱いにされる可能性があります。
その場合はほかの上司に相談したり、後述する労働組合に相談するとよいでしょう。

●労働者の立場を守る、それが労働組合

病院などの従業員が多い職場では、労働者の権利を守るための労働組合が結成されています。
労働組合とは、使用者(ほとんどの場合は院長)と労働者が対等な関係になるよう、賃金や休暇などの待遇改善に取り組む組織です。
減給や休暇取得を制限されたりなど、労働者にとって不利な状況は労働組合を通じて交渉することが大切です。
また、各種学会による認定資格が給与に反映されるか、業務量に見合った役職手当てが支給されているかなど、賃金に関してのトラブルも多いです。
賃上げに関しては、大きな組織の場合、個人が要求してもまず成功しないでしょう。
わが国において、労働組合を通じて団結することは合法であり、労働者は自身の権利を主張できることを覚えておきましょう。
また、セクハラやパワハラなどの各種ハラスメントに対しても、個人的に訴えを起こせない状況などは労働組合に相談するとよいでしょう。

「医療事故が起こってしまった!」賠償責任保険への加入は必須

「医療事故が起こってしまった!」賠償責任保険への加入は必須

日本理学療法士協会
日本作業療法士協会

安全管理を徹底していても、ヒューマンエラーを0にすることはできません。
医療事故が起こった場合、当事者個人の責任が問われる場合もあります。
万が一の場合に備えて、リハビリ職が加入できる賠償責任保険についてご紹介します。

●賠償責任保険制度とは

リハビリ場面において、「関節可動域訓練で骨折をした」、「介護予防の体操でけがをした」など、セラピストの予期せぬ事故が起こることもあります。
相手側が訴訟を起こした際、多額の損害賠償支払いが命じられると、これまでの生活や将来の人生設計が崩れる可能性があります。
そのため、理学療法士・作業療法士など各職能団体において、賠償保険制度への加入を勧めています。
理学療法士協会・作業療法士協会ホームページでは以下の保険が紹介されています。
両保険ともに、基本プランに関しては、協会員となった時点で自動加入となりますが、上乗せプランに関しては任意契約となります。

名称 保険料 加入条件 上乗せプランの保険料
理学療法士 理学療法士賠償責任保険 協会が負担 協会員かつ会費を
納入している
3,500円
(自己負担)
作業療法士 作業療法士総合補償保険 協会が負担 協会員かつ会費を
納入している
2,840円
(自己負担)

●具体的な補償内容

前述した保険の補償範囲はほぼ共通しています。
作業療法士総合補償保険制度の補償内容例を以下にご紹介します。

基本プランでの補償 事故の例
対人・対物賠償
(個人賠償責任)
なし 買い物中に誤って店の商品を壊してしまった
人格侵害権 なし 個人情報が漏れて、プライバシー侵害で訴えられた
被害者対応費用 なし 事故の対象となった家族への見舞金など
対人賠償 あり 患者さんを転倒させてけが(死亡)させてしまった
対物賠償 あり 患者さんの持ち物を壊してしまった
初期対応費用 あり 訴訟に備えるため、状況調査などを依頼した
死亡・後遺障害 あり 業務中・業務外を問わず、加入者(会員)が事故で死亡した

●医師の指示のもと=すべてが医師や病院の責任ではない

医療事故などは病院全体の問題であり、「個人の責任は追求されないのでは」と思うかもしれませんが、決してそうではありません。
たとえば、明らかに倫理観を外れた虐待行為や、効果が証明されていない治療などが行われた場合、個人を対象に訴訟を起こされることもあります
仮に、医療従事者個人を対象に提訴されて賠償責任が確定した場合、前述した保険の基本プランだけでは到底支払えないでしょう。
誰もが善意で仕事をしていると思っていても、対人トラブルや医療事故を0にすることはできません。
また、一度大きな事故が起こってしまうと、その後の経過によっては現職で働き続けることが困難になる場合もあります。
万が一のために、今回ご紹介した保険には必ず加入しておきましょう。

卒後の課題「社会人としての基礎力」を固めよう

リハビリ専門職として社会に出たあとは、医学的な知識や治療技術だけでなく、社会人として必要なスキルを習得していくことが必要です。
どれだけ秀でた技術をもっていても、患者さんと信頼関係が築けない場合や、安全管理ができないと働き続けることはできないでしょう。
礼儀作法をはじめ、医療安全やコミュニケーションスキルなど、社会に出てからも学ぶべきことは数多くあります。
本記事で挙げたトラブルなどに見舞われないよう、まずは社会人としての基礎力を固めることを大切にしていきましょう。

参考:
公益社団法人 日本理学療法士協会ホームページ.(2019年3月20日引用)
一般社団法人 日本作業療法士協会ホームページ.(2019年3月20日引用)

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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