関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは?目的や期待できる効果を解説
関節可動域訓練は、リハビリのなかでも使用頻度が高く、多くの患者さんに用いられています。
手技を身につけるために練習することも大切ですが、患者さんの状態やニーズに合わせたプログラムを提供するためには、その訓練を行う目的について理解しておくことが不可欠です。
今回は、関節可動域訓練の目的と期待できる効果に焦点を当てて解説します。
関節可動域訓練とは
関節可動域訓練は、筋力トレーニングと同じくらいリハビリでよく用いるメニューです。
理学療法士や作業療法士が知っておきたい基本的な事項を整理していきましょう。
●関節可動域の基本
関節可動域とは、体の各関節が動く範囲(角度)のことです。
関節ごとに測定方法が決まっており、目安となる角度は「参考可動域」と呼ばれています。
参考可動域や健側と比較して、どれくらい可動域に制限があるのかを把握します。
関節可動域に制限が生じる因子は骨性、軟部組織性に分けられます。
骨と骨が当たってそれ以上動かない場合は骨性、筋肉や腱、関節包などが関節を硬く固定している場合は軟部組織性の制限となります。
何らかの理由で上肢や下肢に運動障害が生じたり、寝たきり・座りきりになったりして、体を動かさなくなると、関節可動域は狭くなっていきます。
健常な人でも、毎日ストレッチなどをしていて体が柔軟な人と、あまり関節を動かさない人では、関節可動域に違いがあります。
可動域の制限が大きくなると、姿勢や日常生活動作にも影響を及ぼすことになります。
●関節可動域訓練とは
関節可動域訓練は、体の各関節を自動的・他動的に動かす訓練であり、関節が動く範囲を維持させたり、拡大させたりすることを目標にします。
関節可動域訓練では、患者さんが自分で関節運動を行う「自動運動」と、セラピストや看護師、家族が関節を動かす「他動運動」の2種類があります。
関節可動域訓練では、ただ関節を動かせば良いのではなく、何が原因となって動きに制限が生じているのかを見極めることが大切です。
骨性の制限はリハビリでの対応が難しいため、通常は軟部組織性の制限に対する介入を行います。
●関節可動域訓練の呼び方
関節可動域は英語で「Range of Motion」であり、略して「ROM(アール・オー・エム)」となります。
したがって、関節可動域訓練は「ROM訓練」や「ROMエクササイズ」と呼ばれています。
カルテなどに記載するときは、「ROM ex.」という表現を用いて簡略化する理学療法士・作業療法士もいます。
あるいは、ROMエクササイズのことを単に「ROM」と呼ぶケースもあります。
関節可動域訓練の目的と期待できる効果
関節可動域訓練の目的や期待できる効果について整理しておくと、リハビリのプログラムを選択するうえで役立ちます。
「関節は動かさないよりも動かしたほうが良い」と認識している方も、具体的にどんな効果が期待できるのか知っておきましょう。
●主な目的は拘縮の予防や改善
関節を動かさないまま過ごしていると、関節可動域に制限が生じ、拘縮が生じます。
拘縮とは、軟部組織が原因で生じる関節可動域制限のことであり、関節が動く範囲が狭くなると日常生活にも影響が及びます。
拘縮の発生や促進に関する要因には、加齢、痛み、痙縮、罹病期間などが挙げられます。
いずれも不活発・不活動を引き起こす因子であり、関節を動かさないことで拘縮が発生しやすい状態になります。
リハビリでは、関節を自動的・他動的に動かす機会を持つことで、拘縮の予防や改善を目的とします。
●関節可動域の拡大はADLにもつながる
関節可動域が拡大すると、日常生活動作(ADL)を制限する要因がひとつ減ります。
たとえば、肩関節に屈曲制限があり、上肢を挙上できないことで、整髪動作が困難な患者さんがいたとします。
関節可動域訓練によって肩関節の屈曲角度が少し広がると、頸部を屈曲させるなど代償的な運動も取り入れながら、整髪動作が自立する可能性があります。
また、下肢の可動域が改善すれば、立位姿勢や歩容が安定する人もいます。
実際にADLを自立させるためには、筋力や協調運動、認知機能などさまざまな要素が求められますが、関節可動域もそのひとつに含まれます。
関節可動域訓練を実施する際の注意点は?
関節可動域訓練を行うときには、安全に実施するためにいくつかおさえておきたいポイントがあります。
無理に動かすと関節に負担をかけることになるため、注意点として覚えておきましょう。
1.関節可動域の目安を把握しておく
関節可動域訓練を行うにあたり、患者さんの関節可動域を評価することになります。
だいたいどれくらいの可動域があるのか把握しておくと、実際の訓練のときに見当がつきやすいです。
また、ある程度の目安がわかっていると、可動域制限のある関節を無理に動かしてしまうのを防ぐことにもつながります。
そして、関節可動域訓練の結果、どれくらい効果があったのか確認するためにも、評価は欠かせません。
2.痛みが生じない範囲で行う
関節可動域訓練は、痛みが生じない範囲で行います。
可動域を拡大する目的で、少し痛いと感じるところまで動かすこともありますが、訓練後に痛みが持続しない範囲にとどめます。
患者さんに口頭で痛みの有無を聞いたり、表情をしかめていないか観察したりして、疼痛の程度を把握しましょう。
口頭でのやりとりや表情からうまく読み取れないときは、VAS(Visual Analog Scale)を用いて、どれくらいの痛みなのか数値化してもらうと、痛みの程度をとらえやすくなります。
3.禁忌事項をよく確認する
関節が炎症を起こしているときや手術の直後などは、その関節の可動域訓練を行うことができません。
たとえば、関節リウマチの患者さんでは、基本的に関節に負担をかけないように保護しながら過ごすことになります。
しかし、可動域の維持も大切であるため、朝のこわばりがなくなり、関節の炎症が落ち着いているときに、痛みのない範囲でゆっくりと関節を動かします。
このように、疾患の特徴をおさえておくことも欠かせませんが、訓練をしても良いか判断できないときは、主治医に禁忌事項を確認しておくのが確実です。
関節拘縮を生じさせないリハビリを
関節可動域訓練は、理学療法や作業療法における基本のアプローチです。
担当している患者さんに拘縮が生じないよう、理学療法士や作業療法士が責任をもって訓練を行っていきましょう。
目的や効果、注意点を念頭におきながら、実際の訓練にあたってみてください。
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士