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なぜ精神科病院では身体機能のリハビリをしないのか?筆者が見てきた現場の実態を解説します

精神科病院にもリハビリ部門が設置されていることは多く、作業療法士をはじめとするリハビリ職が入っています。
しかし、精神科病院で行うリハビリは精神・心理状態の改善を目標とするものが大半であり、たとえ高齢の患者さんであっても身体機能への介入は行わないことが通常です。
精神科病院の高齢化は問題視されていますが、ここでのリハビリについてあるべき姿を考えていきましょう。

これが精神科リハビリの実情…!必要があっても身体機能には介入しない

精神科病院では、症状が良くなっても居場所がないために退院できない、いわゆる「社会的入院」という状態を続けなければならない方がいます。
これは社会問題にもなっていますが、精神科病院では長期入院を継続している方が非常に多いのです。
厚生労働省の「地域定着支援の手引き」のなかでは、精神障がいで入院している高齢患者を対象とした退院・地域移行支援が、2010年に開始されたことに触れています。
このように、少しずつ精神科病院への高齢化対策は進んでいますが、まだまだ高齢患者の方は多く、すべての方が退院できる状態にあるとも限りません。
高齢の患者さんでは、加齢に伴い身体機能面での機能低下に直面するケースも増えています。
たとえば、年齢とともに次のような診断がつく方が増えてきます。

  • ●廃用症候群
  • ●運動器疾患
  • ●脳血管疾患

など

精神科の患者さんが、上記のような状態から身体機能訓練を必要とするケースが増えているのです。
しかし、精神科のリハビリ現場においては「精神機能」への介入だけが重視されている傾向にあります。
これは、精神科のリハビリに携わる方なら一度は感じたことがある部分ではないでしょうか?
もちろん精神科のリハビリスタッフは患者さんの精神機能・心理状態・行動の評価を行う能力には長けています。
しかし入院患者が高齢化している現状を考えると、精神機能だけにアプローチしていればいいという状況ではなくなってきたのです。
それに加え、もともと作業療法士は患者さんの「生活」を扱う職業であることから、精神機能だけでなく、身体機能も含めて包括的に介入していくことが本体の姿だといえるでしょう。

なぜ?精神科リハビリで「身体」の問題を扱えない2つの理由

筆者が知る限り、精神科で身体機能のリハビリを実践しているケースは非常にまれです。
なぜ、必要があると思われる場合でも身体機能のリハビリを行わないのか、その理由を検討してみました。

●理由1 リハビリスタッフがノウハウを持っていない

精神科において、リハビリのスタッフが身体機能への介入を行わない大きな理由には、スタッフの知識・経験不足が挙げられます。
精神科に勤務する作業療法士と話すと、次のような声があがってきます。

  • ●身体機能を適切に評価するためのノウハウがない
  • ●運動学や解剖学の知識を忘れてしまった
  • ●職場に教えてくれる人がいない
  • ●患者さんのトランスファー(移乗動作)などに不安がある

これまで、「精神科のリハビリは、精神機能のことだけ考えていれば良い」という風潮が少なからずありました。
このスタイルで長年やってきた病院では、身体機能に介入する必要性を理解していたとしても、「なにから始めて良いかわからない」というのが正直なところでしょう。
実際に筆者の知人でも「必要性はあると思うけれど、やり方がわからないのが現状」と述べている人がいました。
確かに、精神機能と身体機能では評価方法も違えば、リハビリの方法も大きく異なります。
ここは一朝一夕で身につくものではないため、スタッフ全員で必要な研修会に参加したり、情報収集を行うなどして準備していく必要があるでしょう。

●理由2 医師が身体機能のリハビリの必要性を認識していない

精神科で長年勤務している医師は、作業療法士などのスタッフがどのような勉強をしてきて、なにができるのかをすべて把握しているわけではありません。
しかし、基本的にリハビリのスタッフは、医師のオーダーに従って業務を行わなければなりません。
リーダーとなる医師に、身体機能のリハビリに対する具体的なイメージがなく、その必要性を理解してもらえないとなれば、導入するためのハードルは高くなるでしょう。
ここはリハビリ部門から身体機能に介入する必要性を訴求することも可能ですが、理事長・院長クラスの医師の考え方によっても結果は変わってくるものです。
ただ必要性を訴えるだけでは聞く耳を持ってもらえない可能性があるので、患者さんにとって、病院にとってどのようなメリットがあるのかを説明する必要があります。

その気になれば実現できる、精神科病院で行う身体機能のリハビリ事例

割合的にはそれほど多くはありませんが、精神科病院の患者さんに対するリハビリのなかで、身体機能に関わるアプローチを行っている病院もあります。
いくつかの事例をご紹介していきます。

●精神科でも身体機能の評価・介入にも手を抜かない

精神科病院でも、精神機能と身体機能の両方に介入している病院もあることは、ときどき耳にします。
筆者が大学で作業療法学を学んでいたころ、実際にそうした病院の方の講義を聞いたことがあります。
そのなかで、「作業療法士たるもの、患者さんの機能をトータルで見られなければならない」という情熱が伝わってきました。
これまで精神科リハビリのエキスパートとして活躍されていたリハビリ部門で、違う分野のリハビリを行えるような体制を築きあげるには、相当なエネルギーが必要になることでしょう。
しかし、それを実現している病院が存在することも事実なのです。

●理学療法士が精神科リハビリに参入する例も

これまでは精神科のリハビリというと、作業療法士しかいないというイメージがあったと思います。
しかし現在では、精神科領域でも理学療法士が関わる事例がでてきています。
石橋ら(2017)の報告によると、精神科病棟の入院患者に理学療法を行ったところ、精神機能・生活機能に改善がみられたとされています。
この報告では、薬物療法や作業療法の影響について十分考慮されていないため、今後の検討事項として挙げられています。
このように理学療法士が精神科でリハビリを展開する例は非常に少ないため、これからの動向が注目されます。
本来ならば精神機能・身体機能の両方を扱うことができる専門家(作業療法士)が運動介入までできることが望ましいです。
しかし、その実現が難しい以上は、理学療法士に専門性を発揮してもらうということも方法なのかもしれません。

まとめ

精神科のリハビリ部門では、たとえ作業療法士のような専門職が入っていたとしても、ニーズのある患者さんに身体機能への介入を行わないことが多いです。
ここは、作業療法士自らができることをPRしていくべき点であると感じます。
理学療法士が参入するケースもでてきており、それも選択肢の一つではありますが、身体機能も精神機能も扱うことができるはずの作業療法士が取り組みを見直していくべきでしょう。

参考:
厚生労働省社会・援護局 地域定着支援の手引き(2018年1月19日引用)

石橋雄介, 西田宗幹, 他:精神科病棟入院患者の現状と理学療法の効果. 理学療法科学32: 509-513, 2017.

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