固有感覚とは?リハビリに携わる人が知っておきたい概要や評価方法をご紹介
理学療法士や作業療法士として働く人は、「固有感覚」という言葉について理解しているでしょうか。
今回は、体の運動と密接な関わりのある固有感覚が、どのようなものなのか概要をお伝えします。
また、リハビリですぐに使える評価方法、対象となる患者さんの例についてご紹介します。
固有感覚とは?
固有感覚とは、体の動きに関する情報を伝えてくれる大切な感覚です。
視覚や聴覚、味覚などとくらべれば、一般の方にはなじみの薄い感覚でしょう。
しかし、運動機能や生活動作を扱うリハビリ職にとっては、必ず知っておきたい感覚機能といえます。
●固有感覚の概要
固有感覚とは、関節や筋、腱の動きを検出する、体の位置や動き、力に関する感覚のことです。
種類 | 検知するもの |
---|---|
位置覚 | 体の各部の位置 |
運動覚 | 運動・動きの方向や速度 |
振動覚 | 振動 |
筋や腱の受容器には、筋紡錘とゴルジ腱器官があり、関節の動きに関する受容器には、関節包にあるルフィニ小体などが挙げられます。
固有受容器が検出した情報をもとに、体がどのように動いているのか、変化しているのかを知覚するために、重要な役割を担っています。
●固有感覚の呼び方
固有感覚には、さまざまな呼び方があるため、セラピストの中には理解があいまいになっている方もいるかもしれません。
次の名称は、すべて同じ事柄を指します。
- ●固有覚
- ●固有受容感覚
- ●固有受容性感覚
- ●深部感覚
- ●深部覚
リハビリの現場などでは、その施設の慣習・領域にもよりますが、呼びやすさから「固有覚」や「固有感覚」、「深部感覚」を使うことが多い傾向にあります。
固有感覚の評価方法
小児の場合は、「臨床観察」や「JSI-R」などの評価方法を用いる場合もありますが、ここでは一般的な検査について紹介します。
特に成人を対象とする病院、施設では次のような評価を用いる機会も少なくないため、ぜひ覚えておきましょう。
●位置覚・運動覚の検査
用意するもの:ゴニオメーター |
- 1.患者さんの上肢または下肢を持ち、上下左右のいずれかに動かす
- 2.どの方向に動いているか答えてもらう(運動覚)
- 3.動きをとめ、どのような肢位になっているか、対側で再現してもらう(位置覚)
最初にやり方をデモンストレーションするときは開眼、実際の検査は閉眼で行います。
位置覚については、角度を模倣してもらうため、ゴニオメーターを使うと正しく記録できます。
●位置覚の検査
用意するもの:なし |
- 1.閉眼で、片手の親指を立てる
- 2.対側の手で、立てた親指をつかんでもらう
上肢の位置覚を、簡単に検査できる方法です。
これと似た方法に、両手を広げた状態から、目を閉じて両手の示指がくっつくように近づけていく検査も行うことができます。
●振動覚の検査
用意するもの:音叉(一般的には128cps) |
- 1.振動した音叉を骨突起部に当て、振動が止まったら「はい」と言ってもらう
- 2.対側の同じ部位に移動し、振動が継続しているか聞き、左右差を調べる
音叉を当てる部位は、胸骨、肘頭、尺骨茎状突起、上前腸骨棘、外果など、骨が突出している部位を選びます。
ただし、皮下脂肪が多い人では、反応が鈍くなる場合があるため、振動覚の検査に影響を与える要因として念頭に置いておきましょう。
固有感覚の障害が認められる患者さんの例
子供から高齢者まで、固有感覚に障害が認められることはあります。
具体的にどのような患者さんにおいて、固有感覚の課題が見受けられるのか、いくつか例をお伝えしていきます。
●脳血管障害
脳血管障害では、固有感覚が障害されることがあり、日常生活動作においても影響が現れるケースがあります。
たとえば、寝返りのときに麻痺側の上肢が背面に残ったり、体の下敷きになったりすることがあります。
脳血管障害の場合は、触圧覚など表在感覚の障害も関係していると推測されますが、深部感覚の低下も一因となっている可能性があります。
●高齢者
高齢者では、さまざまな感覚機能が低下するといわれていますが、固有感覚も例外ではありません。
固有感覚の低下と転倒リスクの関係を調べた研究も散見されます。
第44回日本理学療法学術大会で発表された演題では、高齢者の位置覚(股・膝・足関節)、障害物のまたぎ動作の分析を行い、転倒リスクとの関連を報告しています。
その結果、膝の位置覚、またぎ動作に関して、転倒要注意群と転倒非要注意群で有意差が認められたとされています。
また、高齢者では加齢にともない振動覚なども低下している場合があるため、評価の際は若年者の反応と違う可能性があることを念頭に置きましょう。
●発達障害
発達障害のある子供では、感覚機能にアンバランスさが認められることが多い傾向にあります。
固有感覚に弱さがあると、自分の体がどのように動いているのか知覚したり、どれくらいの力加減が適切なのか調整したりすることが難しくなります。
学校で友達を強い力で叩いてしまい、トラブルになる子供がいたとき、本人に悪気はなく、単に力の調整ができていないだけという可能性もあるのです。
また、発達障害のある人の視覚や聴覚は過敏になることがありますが、くわしくはこちらの記事(感覚過敏とは?聴覚や視覚が敏感な人の特徴と対処法を解説)で解説しています。
患者さんの状態を評価する上で欠かせない視点
固有感覚は、視覚や聴覚ほどよく知られている感覚ではないものの、運動や動作において大きな役割を担っています。
子供でも、高齢者でも、固有感覚の低下によって、日常生活上の動きに支障が出てしまうケースはあると考えられています。
リハビリで患者さんの状態をひもとく上でも欠かせない視点であるため、固有感覚に関する知識を身につけておきましょう。
参考:
高齢者における表在感覚及び固有感覚が転倒予測における重要性.(2019年7月30日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士