ADHDの子供で取り入れたいグループセラピーの概要を解説
ADHDの子供を対象として、作業療法などのセラピーを展開している施設はいくつもあります。
個別のセラピーで、一対一で関わることが有効に作用する場合もありますが、グループセラピーが奏功するケースも存在します。
今回は、ADHDの子供に対するグループセラピーをテーマに解説します。
ADHDの子供に対するグループセラピーのメリット
ADHDの子供は、不注意・多動性・衝動性によって、他者とのコミュニケーションがうまく取れなかったり、トラブルを起こしてしまったりすることがあります。
個別のセラピーによって、じっくり対応することで、運動面や認知面でのトレーニングをじっくり行えるなどの利点はあります。
ただ、セラピストとの関係においても、ある程度のやりとりは学ぶことができますが、やはり「対大人」と「対子供」ではコミュニケーションの在り方も大きく変わってきます。
大人であれば意図を汲み取ってくれますが、子供同士の付き合いではそうもいきません。
対子供のコミュニケーション能力を伸ばしたり、社会性を育んだりするためには、やはり実際の交流を通して訓練していくことが大切になります。
作業療法などの場面でも、グループセラピーを積極的に活用してみましょう。
ADHDの子供に対するグループセラピーの組み方
ADHDの子供を何人か集めて、グループセラピーを行うことを計画しているとき、次の点を参考に進めてみてください。
●対象とする子供
グループセラピーを行うときは、規模にもよりますが、同じように行動上の課題を抱えている子供を対象にします。
発達段階を考慮して、年齢が似通っている子供を選んで一つの小集団にすると、同じ目的に向かってトレーニングできるでしょう。
ただ、同級生とはうまく話ができなくても、年下の子供であれば口数が増えるというケースもあります。
その場合は、うまくできた点をフィードバックして行動の強化や自信の回復につなげるなどの対応ができます。
ケースバイケースではあるため、その子供の特徴を考慮しながらメンバーを選んでいくことになります。
●スケジュールの組み方
「Aくん、Bくん、Cちゃんでグループセラピーをしたい」と考えても、実際には対象とした子供を同じ時間帯に集めることが難しい場合もあります。
習い事やご家族のご都合などの関係もありますし、セラピーに来る日程が合わせられないことも多々あります。
たとえば、1時間のセラピーのうち、20分や40分だけでも集団が組めそうであれば、そのように対応することもできます。
20分、40分などの時間はグループセラピーを行い、それ以外の時間は個別の課題に向き合うことも可能です。
また、土曜日にリハビリを行う施設であれば、土曜日はグループセラピーの日と決めてしまうこともできるでしょう。
親御さんには、グループセラピーの意義やメリットをお伝えするようにすると、予定の合間を縫ってでも来たいと思ってもらいやすくなります。
ADHDの子供に対するグループセラピーの実際
グループセラピーでは、遊びや机上課題を通して、子供たちの適応的な行動を引き出していくことができます。
集団でセラピーを行うことによって、特に得られる経験についてお伝えします。
●挨拶や自己紹介を練習できる
グループセラピーでは、初めて会う子供もいるため、都度挨拶や自己紹介などを行う機会が持てます。
どのように挨拶をしてよいかわからない場合も、繰り返すことで自然とパターンとして身についていきます。
●ルールを守る練習ができる
複数の子供で集団で活動することによって、順番ややり方などのルールを守る必要に迫られます。
大人相手であれば甘えが生じてルールを破ってしまっても、対子供の場合はそうもいきません。
相手の子供もなんでも許してくれるわけではなく、きちんと自分を抑制して行動する経験につながります。
明確にルールを示し、それに沿って行動できたときは褒めてあげることで、その行動の強化になります。
●他者や環境に配慮しながら活動する
走り回ったり、人にぶつかったり、次々と物を出してきてしまうなどの行動がある子供では、グループセラピーで周りに目を向ける練習をすることができます。
セラピスト側から「みんなの様子を見てごらん」などと促して、適応的な行動を学んでもらうように支援していきます。
たとえば、2人1組になって、新聞や板の上にボールを乗せて運ぶ活動などを選択すると、他者にも環境にも注意を向けながら遊ぶ経験になります。
●感情をコントロールする
自分の思い通りにいかないと、かんしゃくを起こしてしまう子供もいますが、それほど怒ることだったのか、どうやって気持ちを伝えればよかったのか、セラピストと一緒に振り返ることができます。
グループの中で、ほかにかんしゃくを起こしている子を見て、「ああやって叫ぶのはよくないことだな」と客観的に考えられる子供もいます。
衝動性の強い子供の行動の様子を見ることで、自分の感情をコントロールしていけるようになるケースもあります。
ADHDの子供にはグループセラピーを活用してみよう
ADHDの子供とグループセラピーを行うことで、今回ご紹介したようなことが得られます。
それ以外に、ほかの子供と友達になれることによって、学校以外に通う「居場所」のような位置づけになる場合もあります。
特に、学校生活でトラブルを起こしてしまい、うまくなじめていない子供にとっては大切な場所になることもあります。
不注意・多動性・衝動性の症状が気になる子供がいれば、スケジュールを組んでグループセラピーを取り入れてみましょう。
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士