増えすぎ?急増した理学療法士・作業療法士の養成校の現状を考える
理学療法士・作業療法士の養成校は、その数が飛躍的に増えました。
それは高齢化社会を迎え、リハビリの需要が高まっていることを表しているといえるでしょう。
もちろん養成校が増えることによって得られる恩恵も大きいですが、今回は「教育の質」に着目して、そのあり方を考察していきます。
理学療法士・作業療法士の養成校は急増した
理学療法士・作業療法士の養成校が次々と開設され、筆者が暮らす地域でも、電車内やCMで学校の広告を見かけることが増えてきました。
2016年に「医療従事者の需給に関する検討会」で用いられた資料のなかでは、1999年に養成施設のカリキュラムが改訂され、規制緩和があったことにより理学療法士の養成校が急増したと記載されています。
大学や専門学校のなかに理学療法学科や作業療法学科が新設されたケースもありますが、専門学校が大学化した例もあります。
理学療法学科・作業療法学科の新設が増えていたピークの頃は、筆者も「◯◯大学 理学療法学科 開設準備室」などと書かれた名刺をいただく機会も多かったです。
養成校が増加したことによって、理学療法士・作業療法士を目指す方にとっては選択肢が広がったことになりますし、教員を目指す方にとっては職場を見つけやすくなりました。
高齢化を迎えている時代においてはリハビリのニーズがあると見込んで、養成校を増やしているのでしょう。
養成校の急増で問われる教員の質
理学療法士や作業療法士の養成校が増加すると、教員のポストはたくさんできますが、優秀な人材が分散してしまうという事態になります。
また、ポストが空いているためにキャリアや学位が基準を満たしていないと思われる場合でも、教員として採用するケースがあります。
大学が増加しすぎることに関しては、理学療法・作業療法の分野に限らず議論になっています。
ただ、リハビリ業界に関しては、やはり臨床に軸足を置く方が多いため、教育研究にあたることができる人材が特に限定されている印象を受けます。
筆者は臨床と研究に軸足を置いてきましたが、そのなかでも教員の質の低下を実感したエピソードがいくつかありました。
●ある学会におけるエピソード
筆者がある学会で研究成果を発表した際、養成校の教員をされている方とディスカッションを行いました。
その際に尋ねられた内容が研究に関するものではなく、「論文の検索の仕方がわからないので教えてほしい」という初歩的なものでした。
本来ならば研究成果について討議するはずの学会という場で、教員をされている方からそのような質問をされたことに非常に驚きました。
その方は新しい養成校に着任したばかりとのことでしたが、「教員の質が低下してしまうのでは…?」と感じた瞬間でした。
このように、養成校の急増によって、教員の質が追いついていないということは課題であると感じます。
やはり臨床でキャリアを蓄積することと、教育研究に携わることでは、求められるものが異なるといえるでしょう。
●入職してから、慌てて業績を用意する教員も
大学のなかに理学療法士・作業療法士の養成課程を開設すると、研究業績や学位などもポジション・昇進に影響するようになります。
自分で研究費を取得するためにも実績を蓄積し、アクションを起こさなければなりません。
まず教員として入職してから、慌てて修士号や博士号といった学位を取得する方もいるようです。
また、「大学教員として働くことになったので、今年中にあと◯本の論文を書かないと…」と慌てて研究活動に励んでいる方にもお会いしたことがあります。
きちんとした教育を提供する準備が整ってから養成校を開設することが本来だとは思いますが、早く開設して学生を呼び込みたいという運営側の競争原理もあったのかもしれません。
国家試験対策だけでなく「考える力」を養う教育を
理学療法士や作業療法士の養成校では、やはり「国家試験合格率100%」などと大々的にPRしたいと考えることが多いです。
実際に、養成校によっては「国家試験合格」を一番の目標に掲げ、1年生や2年生の段階から国家試験の過去問を配布するケースもあります。
しかし、臨床で目のまえの患者さんが抱える課題をともに解決していくためには、「考える力」が求められるでしょう。
臨床では国家試験のように選択肢が提示されるわけではなく、自分で思考力を働かせて解決していかなければならないことが大半です。
民間の大学・専門学校の場合は経営を維持するためにも、特にたくさんの学生に受験してもらいたいので、やはり国家試験の合格率を重視する傾向にあります。
海外の場合は、理学療法士や作業療法士の国家試験は選択問題だけでなく、実際に症例の情報が出て、自分で考える力を試す問題をだすケースもあります。
もちろん国家試験をパスすることは学生も望んでいることではありますが、本当の意味での教育を考えたときは、やはり臨床での対応力の基盤となる力を養成することも大切なのではないでしょうか。
臨床のベースにもなる、思考力を育てるための教育を意識していきたいところです。
そのために行っている独自の取り組みなどがあれば、それも学校のPRにつながるでしょう。
まとめ
養成校が増えることは必ずしも悪いことではなく、高齢化を迎えている時代のニーズに対応している側面はあります。
ただ、養成校が増えるとそれだけ教育する側の人材も各所へ分散されるため、教育現場において質の低下が起こらないように留意すべきでしょう。
養成校では学生を獲得するために国家試験の合格率を高い水準で保つことを重視する傾向にありますが、臨床で求められる思考力や応用力を養うことも大切なのではないでしょうか。
参考:
医療従事者の受給に関する検討会 第1回 理学療法士・作業療法士受給分科会(2018年1月23日引用)