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クリニック・治療院 OGメディック

  • 高木雪絵

    公開日: 2020年02月26日
  • リハビリ病院の悩み

アルコール依存症の患者さんに対する作業療法

精神科などでは、アルコール依存症の患者さんの作業療法を担当する機会があります。
統合失調症や気分障害の評価はしたことがあっても、アルコール依存症の患者さんへのアプローチは経験したことのない方もいるかもしれません。
今回は、アルコール依存症の患者さんに対する作業療法評価や治療の基本についてお伝えしていきます。

アルコール依存症の患者さんに対する作業療法

アルコール依存症の患者さんに対する評価

アルコール依存症の患者さんに対する評価

現病歴や既往歴、飲酒歴、家族歴、生育歴など基本的な項目は押さえておくとともに、次のような観点でも評価を行いましょう。

●否認

アルコール依存症の患者さんでは、自分の飲酒の仕方に問題があると認知していないことが多いです。
初期の段階では、「少し飲みすぎた程度」と認知していることが多く、アルコール依存症であることを認めません。
この状態は「否認」といいますが、自分の状態をどのように捉えているのか把握することが欠かせません。
否認は治療の妨げとなるので、自分自身のことをどう捉えているかは必ず評価しておきたいポイントとなります。

●認知機能

注意力、集中力、記憶力、理解力などをはじめ、易刺激性、自己中心性といった点についても評価を行います。
アルコール依存症の患者さんでは、飲酒による認知機能の障害によって、問題解決能力が低下していることがあります。
作業中の様子や、普段のやりとりの中から、どんな認知機能がどれくらい低下しているのか評価しておきましょう。

●体力

アルコール依存症の患者さんでは、体力低下が見受けられることがあります。
飲酒を長い期間続け、不規則な生活を送ってきた経過から、疲れやすい体になっています。
社会復帰をするためにもある程度の体力は欠かせないので、どれくらい体力が落ちているのか確認しておく必要があります。

●離脱症状

飲酒をやめて数時間すると、早期離脱症状が現れます。
手の震え、発汗、吐き気、不整脈、イライラ、幻覚、幻聴などが挙げられます。
飲酒をやめてから2〜3日が経過すると、後期離脱症状が現れ、幻視、見当識障害などが見受けられることがあります。
人によっては、不安や焦燥、自己中心的な言動が目立つケースも存在します。
特に作業療法を開始した頃には、患者さんと関わっているときに離脱症状が現れていないか注視することも評価の一環です。

アルコール依存症の作業療法・プログラム

アルコール依存症の作業療法・プログラム

アルコール依存症の治療では、お酒を断つことが目標になります。
お酒を減らすだけでは、アルコール依存症は悪化してしまうため、きっぱりと断酒することが大切です。
お酒を断つための直接的なアプローチも大切ですが、飲酒にともなって乱れた生活リズムを正したり、飲酒に結びつく思考を変えることも欠かせません。
作業療法ではさまざまな角度からアプローチします。

●運動や手工芸などのプログラム

散歩や陶芸、カラオケ、ヨガ、料理、ソフトバレーボール、ちぎり絵、パソコンなどの作業を通して、患者さんの体力づくり、生活リズムの改善を促していきます。
少しずつ作業を通して集中力を取り戻していくという利点もあります。
そして、このようなプログラムに参加して、お酒のない生活習慣を確立させていく目的もあります。
作業療法士は、一緒に作業に取り組みながら、その方の生活リズムや体力、集中力、対人能力などがどのように変化していくか観察していきます。

●認知行動療法

認知行動療法とは、自分の中にある認知のゆがみについてパターンを考え、認知の仕方や行動を変えていく治療法です。
アルコール依存症の場合には、飲酒による問題があることを認めず、正当化してしまうパターンがあります。
飲酒問題を過小評価してしまっていることに気がつき、捉え方を見直すことによって、行動の変容を促していきます。

●コーピングスキルトレーニング

ストレスやイライラなどの感情があり、それに対処できないことによって、飲酒行動に結びついてしまいがちです。
コーピングとは、ストレスの原因となる問題や状況に関して適切に対処しながら、ストレスをコントロールしていくことを指します。
ストレスや怒りへの対処方法を学び、練習をしながら、飲酒のきっかけとならないようにしていきます。

●SST(ソーシャルスキルトレーニング)

日常生活におけるさまざまな問題やシーンを取り上げて、解決していきます。
こんなときはどう伝えたらいいのか、といったコミュニケーション、社会性に関してスキルを高めていきます。
参加者でより良い伝え方を検討したり、ロールプレイをして実際に練習を行ったりします。
「お酒に誘われたときはどう断ればいいか」など、アルコール依存症の治療に直結するようなテーマを選択することもあります。

●家族教育

アルコール依存症の方のご家族は、暴力や暴言をはじめ、経済的な面でも影響を受けていることがあります。
そして、依存症の方の身の回りの世話をすることで家族にも負担となり、本人にとっても依存から抜け出せない状況となっている場合があります。
家族のフォローも大切であり、アルコール依存症の状態や治療に関する講義、ミーティングなどを行います。
家族としての在り方を伝え、悩みを共有することで安心してもらうことが目的となります。

アルコール依存症の断酒を助ける「自助グループ」も

アルコール依存症の患者さんでは、自助グループの活用も効果的といわれています。
自助グループとは、同じ障害のある人同士が励まし合い、障害を乗り越えていくための集団のことです。
「無名のアルコール依存症者」という意味のあるアルコホーリクス・アノニマスの略から「AA」と呼ばれています。
そして、全国各地に断酒会と呼ばれるものもあり、例会で当事者と家族が酒害体験を話します。
断酒会の例会が、病院の中で開かれる場合もあります。
また、精神科のデイケアでは、規模や特徴にもよりますが、アルコール依存症の患者さんが多く通っている施設もあります。
自助グループ、断酒会、デイケアなどで、断酒のために努力している仲間の存在が励みになることも多いです。

アルコール依存症の治療は一歩ずつ

アルコール依存症になるには、長い間の飲酒習慣が影響しているため、そこから脱却するのにも時間はかかります
まずは内科的な治療が必要になることも多く、そこから生活リズムを整え、体力を回復し、社会で生きるために必要なスキルを取り戻していきます。
「これまで遅れをとった分、一気に巻き返す」ということは難しいため、それを患者さんにも理解してもらいながら、多職種で協働しながら一歩ずつ前進を目指しましょう。

  • 執筆者

    高木雪絵

  • 作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
    勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
    保有資格:作業療法士、作業療法学修士

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