統合失調症の患者さんでみられる「病識欠如」とは?病識の基本やアプローチについてご紹介
統合失調症の患者さんと接するとき、病識に対してどう解釈すればいいのかわからないという方もいるでしょう。
そもそも病識とは何か、統合失調症の方における病識の特徴などについてお伝えしていきます。
精神科で働く看護師や作業療法士の方はご参考にしてみてください。
統合失調症における病識
統合失調症の患者さんを評価する際には、「病識」という言葉に触れる機会も多いです。
病識の基本や、統合失調症の患者さんにおける病識についてお伝えしていきます。
●病識とは
病識(insight into disease)とは、病的な状態だと自覚・自認することを指します。
通常は、自分で病気があることを自覚できるか、医師などの専門家から病気に関する説明を受けるかすると自認できるため、病識に関わる問題は取り上げられません。
病識に関しては「病識がある」や「病識がない」といった形で表現し、病識がないことは「病識欠如」ともいいます。
「自分は病気ではない」と思っている場合もあれば、「自分は躁うつ病だ」「少しノイローゼ気味だ」といったように、納得できる病名を自身でつける場合もあります。
また、自分が病気であることを薄々感じていて、確信はできていない状態に関しては「病感」と呼びます。
病識のある方は治療がスムーズに進みますが、病感があるだけでも治療は開始しやすくなります。
●病識欠如は統合失調症の特徴
統合失調症の患者さんでは、病識がないことが特徴的です。
ほとんどの患者さんで病識がなく、あったとしても病感までとなることが多いです。
統合失調症の患者さんで病識がないのは、現実検討能力の欠如が影響しているといわれています。
現実検討能力とは、自分に起きていることや、自分が考えていることが現実的かどうか検討する力のことです。
現実と空想の境目があいまいになるため、自分の病気のことを現実的に捉えられなくなるのです。
病識がなければ服薬を怠ったり、通院をやめたりする原因になるため治療にも支障をきたし、病気の再発にもつながっていきます。
服薬や通院を継続できなくなる背景には、医療費や移動手段といった要因もありますが、病識の影響も大きいのです。
従って、統合失調症の患者さんで病識が欠如している場合には、病識を持たせることが重要となります。
統合失調症のほかには、病識欠如が生じ得る疾患として認知症、アルコール依存症などが挙げられます。
統合失調症の病識に影響を与える要因
賀古(2015)の研究では、統合失調症の病識に影響を与える要因を調査しています。
退院時、退院から1年後に病識を含むいくつかの項目について評価を行っています。
結果、病識を高める方向に働く要因として「罹病期間」「教育年数」「不安・抑うつ」「社会機能」の高さが挙げられました。
罹病期間、治療開始からの期間が長い、教育年数が長いほど服薬の必要性を認識できるというデータが得られています。
病識の有無や程度には個人差がありますが、こうした要因の影響も受けると念頭に置いておきましょう。
統合失調症の患者さんに病識を持たせるには
陽性症状が落ち着き、ある程度治療を進めた段階であっても、病識が得られないことは少なくありません。
統合失調症の患者さんに病識を持ってもらうことが重要だと認識しつつも、具体的にどんなアプローチをすればいいのかわからないという医療従事者も多いです。
実際、病識欠如に対するアプローチは十分に確立されているわけではありませんが、取り組みやすいことを整理します。
●まずは病識・病感の評価
まずは患者さんが自分の病気のことをどう捉えているのか把握します。
病識の有無を評価する際には、次のような観点で情報収集をして、患者さんの話を傾聴してみましょう。
- ●自分のことをどう理解しているか
- ●退院についてどう思っているか
- ●現在の症状や過去の症状をどう認識しているのか
- ●治療の必要があると思うか
- ●薬が必要だと思うか、服薬をやめたあとに現れる変化を認識しているか など
また、研究などでは「病識評価尺度(SAI-J)日本語版」という評価指標を用いているケースもあります。
担当医が本人に病名を伝えている場合もあれば、そうでない場合もあり、幻聴を「天の声」とするなど患者さんが理解しやすい合理的な表現で伝えている場合もあります。
医師から患者さんに病名や症状がどう伝えられているのか、ということも考慮する必要があります。
患者さんによっては「病人扱いする」と被害的な考えに至ってしまうこともあるので、十分に配慮するようにしましょう。
●心理教育
統合失調症の患者さんの病識獲得に向けて、心理教育が行われることがあります。
病気、症状、薬や副作用、リハビリテーションなどに関する知識を身につけてもらいます。
病識を持ってもらうように強く説明や説得をするのではなく、経過や症状の状態をみながら、ゆっくりと理解をうながしていきます。
医療従事者はあの手この手で説得を試みますが、あくまでも患者さんのペースに合わせていくことが大切になります。
また、患者さん本人へのアプローチはもちろんのこと、ご家族にも病気の理解を深めてもらい、サポートの仕方を学んでもらう場合もあります。
特に急性期には、本人には病識がない一方で、ご家族は「病院に通ってほしい」「治療が必要だ」と認識していて、強制的に病院へ連れていったり、薬を飲ませたりすることがあります。
関係を悪化させないためにも、病識がないことが統合失調症の特徴のひとつだとご家族に理解してもらいます。
心理教育は個別で行う場合もあれば、集団で行う場合もあります。
患者さんの状態に応じてアプローチ
統合失調症の患者さんでは病識がないことが多いため、現場では医療従事者が対応に難渋する場面があります。
まずは病識と病感の違いをはじめ、病識がないことによって患者さんにどのような影響が及ぶのか、理解しておくことが不可欠です。
病識を獲得するための手法は十分に確立されている状況ではありませんが、患者さんの状態に応じて心理教育を取り入れるなどして対応していきましょう。
参考:
統合失調症患者における病識と関連する要因についての研究.(2020年2月29日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士